「オールシーズン・バッジ」「Yロウ作戦」放送

 11月18日、『わさドラ』28回めの放送


●「オールシーズン・バッジ」

初出:「小学六年生」1977年10月号
単行本:「てんとう虫コミックス」16巻などに収録


【原作】今年もあと2ヵ月となり、のび太は、夏に海へ行った回数が少なかったことや、春に花見へ、冬にスキーへ行けなかったことを後悔する。そんな遊びに関する後悔ばかりなのに、のび太は「とりかえしのつかないことをしちゃった」と大げさにわめきたて、結局ドラえもんからひみつ道具を出させることに成功する。
 のび太が、身勝手で理不尽な自己主張を、持ち前の詭弁と駄々のこね方で強引に通してしまうこの冒頭が、まずは見ものだ。

 
 紅葉に包まれた秋の中山湖へ出かけ、オールシーズンバッジで季節を自由に変えながら遊ぶのび太ドラえもん。2人は何の悪意もなく、無邪気にただ遊んでいるだけなのに、たまたま同じ中山湖へきのこ狩りに来ていたスネ夫とその両親が、オールシーズンバッジの作用に巻き込まれ、あれこれ翻弄されるところが本作のギャグになっている。
 のび太ドラえもんの行動を見て「あんなおかしな子」「かわったやつ」とバカにしていた骨川一家が、舞い散る桜にわが目を疑い、スキーをするのび太ドラえもんの姿に驚愕したりする様が、実に痛快で、笑いを誘う。そんな骨川一家が、少し気の毒にも思えてくるが。


 本作ののび太は、最後までひどい目にあうことがない。今回は駄々をこねたことで、ひたすらおいしい思いができたわけだ。



わさドラ感想】
 今年やり残した遊びをひととおり挙げたのび太が、「とりかえしのつなかいことしちゃった〜」とわめく場面は、仰向けに寝そべったのび太が手足をバタつかせるのみならず、同時に体を何回も回転させるという、ちょっとアクロバチックな動きも加わった。さらに、のび太の表情が涙と鼻水をたっぷりたらした情けないものになり、冒頭シーンの印象が強くなった。のび太がここまで取り乱す背景には、「週末は別荘へ泊まりに行く」とスネ夫に自慢されたことがあったようだ。


 オールシーズンバッジを使って遊ぶため中山湖へ出かけることにしたのび太ドラえもん。ママに弁当を作ってもらい、リュックに荷物を詰めるシーンは、本当に楽しそうで、見ているこちらまでピクニックの準備をしているような陽気な気分になれる。
 のび太ドラえもんがオールシーズンバッジを使って自分らの周囲の季節を変え、浮き輪を使って水泳、桜の花びらが舞い散る中で花見、雪を降らせてスキー、といった具合に遊び続けるところも実に楽しそうで、私としても純粋な気持ちで画面を観ることができた。とくに、花見をしながらおにぎりを食べる場面は、本当におにぎりがおいしそうに感じられた。
 のび太がまともにスキーを滑れない点が原作よりしっかり描かれていたのも、好感が持てた。


 そんな楽しげなのび太ドラえもんとの対比で、オールシーズンバッジにふりまわされまくる骨川一家の様子が余計におもしろく映った。雪景色を見た骨川一家がスキーをする気満々でわざわざスキーウェアに着替えてきたところは、いちばん笑えた。
 楽しそうに湖で泳ぐのび太ドラえもんを目撃したスネ夫が、ブリーフ一枚になって一歩一歩湖面に体を埋めていき、〝スイ〜、スイ〜〟と穏やかそうに泳ぎだすシーンは、「冷た〜い!」と騒ぎ立てる前の静けさということで、笑いにつながった。





●「Yロウ作戦」

初出:「小学六年生」1976年6月号
単行本:「てんとう虫コミックス」11巻などに収録


【原作】 当ブログ14日の記事でも書いたが、幼い頃この話を読んだときは、「Yロウ」が「賄賂」のもじりであることを知らなかった。Yロウをもらったママやジャイアンがむやみにありがたがる様子や、Yロウを贈ったのび太がたいへんな悪事を働いているように受けとれる描写が含み込んだ意味合いも、理解できていなかった。だから、少し大きくなって「賄賂」という概念を理解し、「ああ、これは賄賂のことだったのか」と気づいたときは、目から鱗が落ちるような感覚をおぼえたものだ。


「Yロウ作戦」が発表されたのは、「小学六年生」1976年6月号においてだった。この年の2月にロッキード事件が発覚し、7月には田中角栄前首相(当時)が5億円収賄事件で逮捕されるという出来事があった。本作は、このロッキード事件を下敷きにしたもので、当時の世相の風刺になっている。
 ロッキード事件に関与したと目される小佐野賢治が、国会での証人喚問のさい、「知りません」「記憶にございません」という答弁を繰り返したのだが、そのあたりのセリフも「Yロウ作戦」ではパロディとして使われている。



わさドラ感想】
 単なるY型のロウソクをもらっただけでママとジャイアンが意味もなく大喜びするところが、うまく表現されていた。「ねえ、これ、いったい何なの?」と素朴な疑問を抱いたママが、「あんまり深く考えないで」とドラえもんに言われると、すぐに「いいわ、なんでも〜」と盲目的に納得してしまうところなど、Yロウの効果がてき面にあらわれていたような気がする。
 ジャイアンがトイレにこもってYロウにうっとりとする描写も、いいタイミングで挟み込んでくれたと思う。


 Yロウをジャイアンに対して使うかどうかで葛藤するのび太の心理が、しっかりと描かれた。そのおかげで、終盤、大勢の友達から抗議を受けるのび太の複雑で微妙な気持ちもよく伝わってきた。
 翌日のシーンに移り、外は雨降り。「ああ、雨じゃなかったら大ホームランを打てたのになぁ」と強がりを言うのび太を、押入れのなかで寝そべったまま口を3にして見つめるドラえもんの姿が、個人的にとても印象的だった。


 大筋で原作どおりの展開を守りながら、細かいところで絶妙のアレンジを加えていて、優れた一作に仕上がっていた。