「昔はよかった」「宝星」放送

 10月21日、『わさドラ』24回目の放送。3週間放送を休んだ直後の今回の『わさドラ』は、「ドラえもん1時間!2006年MOVIE(秘)映像見せますSP!!」。久々の『わさドラ』放送ということで、事前のワクワク感が普段よりもずいぶん大きかった。




●「昔はよかった」

初出:「小学六年生」昭和56年7月号
単行本:「てんとう虫コミックス」30巻などに収録

「昔はよかった」の原作は、全20ページと短編『ドラえもん』のなかではページ数が多めである。1時間SPで放送するにふさわしい量感のある作品だ。このことは、もう1本の「宝星」にも言えることで、こちらの原作も21ページの分量がある。


 
 さっそく、本日放送された「昔はよかった」の感想を書いていきたい。


のび太のパパが、子どもの頃の町の様子をのび太に語るところから話が始まる。私も実家の周囲を巡ると、「ああ、ここには道路なんてなかったなぁ」「あそこは竹薮だったよなぁ」などと、のび太のパパと同じような感慨を抱くので、この冒頭は実に感情移入しやすい。『わさドラ』では、川の汚染を原作以上にひどく描いたり、桜並木を美しく表現したり、パパの子ども時代の遊びをセピア色で描写したりと、絵的に見応えのある冒頭シーンになっていた。


のび太がタイムマシンで行った昔の農村の風景、ことに茅葺きの家屋の内外がきっちりと描き込まれていて、そこにいるのび太が普段とは違う世界へ来ているのだという臨場感を十全に味わえた。


・農村で出会った農家の父娘の姿がしっかり描出されていた。とくに娘は、藤子・Fテイストのかわいい女の子に仕上がっていた。


・夜の林道でのび太がこけて、持っていた提灯が燃えるところや、農家の娘が缶詰の缶を噛む場面は、どこがどうというのではないけれど、心に引っかかった。


・全体的に原作のストーリーを踏襲していた。原作の行間を手堅く埋めたアニメ、という印象だった。



 のび太は、便利な道具などなくたいていの庶民が貧しかった昔の生活を体験し終え、「ぼくらはぼくらの時代を少しでもよくするようにがんばらなくちゃいけないんだね」と悟る。まさにそのとおりだが、そうやって、自分が生きている「今」の大切さを心の底から知るためには、過去を懐かしんだり過去に学んだりすることも必要なのだろう。
 前ばかり向いて突き進むのではなく、ときには後ろを振り向いたり、立ち止まったりして、「今」の時間の流れから離脱してみるのもいいものだ。過去への一時的な引きこもり、とでも言おうか。私は、この作品を観てそういったことに価値を感じた。






●「宝星」

初出:「小学五年生」昭和55年6月号
単行本:「てんとう虫コミックス」44巻などに収録


「宝星」は、宝探しの話である。宇宙へ3度も飛び立つ壮大な宝探しであるが、のび太の宝探しの動機が下世話だったり、そんなのび太に呆れていたドラえもんのび太以上にガツガツしたり、宝物を手に入れる前からのび太がしずかちゃんに大げさな約束をしたり、なんとも卑近なイメージが漂っていて、はるかなる宇宙の不思議な星々を舞台にしながらも、常に日常的な感覚が隣り合っているのだった。


 藤子・F先生は、〝宝探し〟という題材について、こんな言葉を残している。

ま、誰にでも好みの題材、好みの世界って物はありますがね。例えば僕の場合、何かと言えば恐竜を登場させるなんてのもそれですね。アイディアに困ると宝探しを始めたりね。「オバQ」「パーマン」「ウメ星デンカ」皆やりましたね。「ドラえもん」に至っては、もう十回ぐらい宝を探してるんじゃないかな。
「月刊UTOPIA」7号(昭和58年1月31日/藤子不二雄ファンクラブ・ユートピア発行)

 この「宝星」も、藤子・F先生がアイディアに困って描いた作品なのだろうか。それはともかく、〝宝探し〟というのが、藤子・F先生の好みの題材、好みの世界だったのは確かである。




 それでは、『わさドラ』版「宝星」の感想を。


・「埋まっている宝を掘り出すのは、ぼくの一生の夢なんだ」とのび太に聞かされたドラえもんの「貧しい夢だな」というぼやきが、かすかに笑を誘った。


・「プールとテニスコート付きの家を建てようと思うんだ」と話しかけてきたのび太。それに対するしずかちゃんの「は!?」というそっけない反応が、一瞬のことながらインパクト大だった。
 本作におけるしずかちゃんは、のび太に対して結構毒気を発していて、「は!?」という反応のあと、「じゃあ、こないだ貸したジュース代返して」と厳しい取立てを行なう。その後も、「そんなのあてにしてなかったわ。のび太さんの言うことだもの」なんて本人を前に平然と言ってのけたり、〝プールはできたか〟とわざわざのび太の家に電話をよこしたり、のび太の大言壮語を、よりによってジャイアンスネ夫に告げてしまったりと、のび太にキツイ仕打ちを繰り返している。ちょっとサドっ気のあるしずかちゃんなのだった(笑)
「じゃあ、こないだ貸したジュース代返して」というセリフは、原作では「それよりこないだの電話代10円返して」なのだが、これは原作のほうがずっとおもしろい。のび太がせっかくプールとテニスコート付きの家を建ててくれると言っているのに、すぐさま「それより」とのび太の発言を遮って、「10円」というせこい金額を請求するしずかちゃんって…


・帆船型の「未来の宇宙船」が野比家の庭から飛び立つシーンは、迫力があった。宇宙空間を進む宇宙船は単純にカッコいい。一番初めの星で、ドラえもんのび太が宇宙船から飛び降りるシーンは爽快だ。
 宝星探査ロケットや宇宙船が飛び立つたびに被害を受けるママがいい味を出していた。


・ラスト、のび太が、石器時代の星で現地の人に頼んでプールとテニスコート付きの家(洞窟)を作ってもらう。そのプールで遊ぶしずかちゃん、ジャイアンスネ夫は、原作ではきょとんとした無表情で描かれていて、その表情がおかしみを湛えているが、今回のアニメでは、普通に楽しそうな笑顔だった。


・「昔はよかった」と同様、おおむね原作に忠実な展開だった。





番組のなかで、映画「ドラえもん のび太の恐竜2006」の映像がダイジェストで流された。『わさドラ』本編のキャラクターデザインとかなり違って、独自性のあるやわらかな絵柄だった。服のシワや髪の揺れなども細かく表現されていて、キャラクターの動きへのこだわりが感じられた。私は、テレビのキャラデザインのほうが好きだが、動きの細かさや絵の密度という点では当然ながら映画に軍配が上がる。