「けん銃王コンテスト」「おおかみ男クリーム」放送

 
 11月11日(金)、『わさドラ』27回めの放送



●「けん銃王コンテスト」

初出:「小学六年生」昭和51年1月号
単行本:「てんとう虫コミックス」12巻などに収録


【原作】これといって取り柄が見あたらないどころか、何をやってもダメなことの多いのび太に、〝射撃〟という特技があることが判明。この特技が、のちの大長編ドラえもんなどで大いに活かされることになる。
「けん銃王コンテスト」でののび太は、とにかくカッコいい。空気ピストルを用いて友人たちとけん銃王コンテストを始めたのび太は、相手に弾を無駄撃ちさせておいてから確実に一発で仕留めるとか、背後から忍び寄る2人の敵の存在を自動車のサイドミラーで目敏く発見するとか、弾を撃ち尽くして絶体絶命のピンチのなか機転を利かせ意識を失った友人の余り弾を使うとか、やることなすことひたすら華麗でカッコいいのである。
 そんなのび太の大活躍を描ききったあと、実はのび太の弾が一発残っていて、誤ってママを撃ってしまうというドジなオチがつくところも、この話の特徴だ。空気ピストルを撃つための掛け声「バン!」と、晩ごはんの「晩」の音をひっかけた、単純な駄じゃれで話をオトすというのが大胆不敵である。それまで描いてきたのび太のカッコいい勇姿と、オチのくだらなさの落差が激しくて、またたく間に緊張が脱力に変わるのだった。のび太からすれば、カッコいいまま終わらせてもらえなくて無念だったか?
 




わさドラ感想】
・空気ピストルで撃たれた人は、原作では大きな衝撃を受けて後方へ吹っ飛び、そのまま気絶してしまう。それが『わさドラ』では、スヤスヤと眠りについてしまう、というふうに変更された。『わさドラ』は、過激だとか暴力的だとか差別的だとか判断した描写をマイルドに変更することがよくあるが、今回の変更は、マイルドを通り越して、ユルくしすぎた感が強い。この変更によって、けん銃コンテスト場面の緊迫感や痛快さが減少してしまった。
 ここまで過剰にマイルドにする必要があったのだろうか、と疑問に思うが、やはり、そうする必要に迫られたから変更したのだろう。私は、原作の、空気ピストルで撃たれた人が吹っ飛んで気絶する描写に痛快さを感じていたので、今回の改変に対し、必要以上に不満をおぼえるのかもしれない。


・コンテストのルールを理路整然と語るのび太が印象的。自分の得意な射撃のこととなると、頭が冴えわたり弁舌もなめらかになるのび太であった。


ジャイアンのび太に3匹の犬をけしかけるシーン、原作ではジャイアンが「ヒュウ」と口笛を吹くと、どこからともなく現れた犬たちがのび太に襲いかかるのだが、ジャイアンはこの犬たちをどこで調達したのだろう? ジャイアンは口笛ひとつで犬を操れる才能があるのか? などと、ささやかな疑問が残る。それが『わさドラ』では、3匹の犬の出所やジャイアンがどう犬を操ったかを具体的に描いていて、それなりに得心がいった。


・クライマックス、ジャイアンのび太の決闘シーンは、原作よりもやや膨らまされた。のび太の勝利への道が少し険しくなったことで、勝利をおさめた喜びも少し高まって感じられた。


・ラストシーン、のび太がママに「晩ごはんまだぁ?」と何気なく言ったあと、のび太の顔が笑顔のままストップモーションになる演出がおもしろかった。







●「おおかみ男クリーム」

初出:「小学二年生」昭和50年10月号
単行本:「てんとう虫コミックス」11巻などに収録

【原作】小学生の頃この話を読んで、おおかみ男クリ―ムというひみつ道具っていったい何のためにあるんだろう?、とその存在理由に疑問を抱いた記憶がある。
 おおかみ男より怒ったママのほうが怖いと作文に書いてママの怒りを買ったのび太が、ドラえもんに「いくら何でもおおかみ男のほうがこわいさ」と言われても、「いや、ぼくはママだと思う」と断言する。その言いぐさがやけに笑える。
 その後のシーンでは、ママに丸い物を見せないため無茶をやるドラえもんの言動がギャグになっている。よそ様の家にある物を勝手に片づけたあげく、ママに出されたせんべいを一人でボリボリ食べてしまったドラえもんは、ついにその家からつまみ出される。そりゃあつまみ出されるよ、と笑いながら指摘したくなる場面だ。
 ドラえもんの言動が笑いをふりまくこの話、水田わさびさんの弾けた演技を期待したい。





わさドラ感想】
・鏡台の前で鼻歌まじりにおおかみ男クリームを顔に塗るドラえもんが、実に楽しそう。


ドラえもんがおおかみ男に変身する過程が、ハリウッド映画のSFX風に表現されて、なかなか迫力があった。
 ドラえもんの場合と違い、ママがおおかみ男に変わる過程は、ドラえもんほど細かく描写されなかった。もしママの顔から体毛が生え、とがった耳が突き出てくるところを描写したら、生々しすぎるシーンになっていただろう。


・おおかみ男クリームを顔に塗ってしまい、丸い物を見るとおおかみ男に変身するようになったママ。原作ではドラえもんの丸顔を見てもまったく反応しなかったが、『わさドラ』ではドラえもんの顔にも反応。そのためドラえもんは、ママが振り向くたびに自分の顔を引っぱって歪め、ママのおおかみ男化を回避しなければならなくなる。その必死な様子と変形した顔が、ばかばかしくておかしかった。ちょっとやりすぎかな、と思える部分もあったが…


・「純」という喫茶店の看板で顔を隠してママを追い越していくドラえもんの姿は、茶目っ気があった。笑えるシーンでもあった。


・オチでは、鏡に映った自分の丸い眼鏡を見ておおかみ男に変身したママが、その顔を見て卒倒するという、アニメオリジナルの追加があった。この追加によって、動きがあってわかりやすいオチになった。テレビ的にはこうしたほうがよかっただろう。個人的には、「わたしって、そんなにこわい顔なのかしら」と悩むところで終わる原作のオチが好きなのだが。


水田わさびさんの活きのよい演技が、笑いを生む大きな力になっていた。