大阪で藤子ファン仲間と会う

 17日、18日と大阪へ行ってきた。


 10月ごろだったか、藤子ファン仲間である神奈川のNさんと兵庫のKさんのあいだで、「年末に関西で懇親会を開きたい」という話が持ち上がり、私もその話に乗って、「いつどこで開こうか」など検討を重ねてきた。関西在住の藤子ファン仲間を中心に誘いをかけ、皆の意見を参考にしながら決めた日程が〝12月17日18日・大阪〟だったのである。
 大阪懇親会には計8人の個性的な藤子ファンが参加した。〝藤子マニア〟とか〝藤子狂〟とか私も自称することがあるが、その私から見ても今回集結した人たちは真に〝藤子不二雄に狂った〟マニアばかりで、各人が独自の愛し方で濃密な藤子愛を体現し続けている。そんな面々が一堂に会するのだから、いったいどれだけスリリングでディープな懇親会になるのだろう、と楽しみでならなかった。


 この懇親会の発起人である神奈川のNさんは、ネオ・ユートピア発行の「藤子不二雄A ALL WORKS」で藤子A作品のレビューを多数執筆し、ネオ・ユートピア本誌次号(41号)の「NU会員さんインタビュー 我が藤子ファンらいふを語る!」にも登場予定と、最近の活躍がめざましい。藤子単行本は初期の一部のものを除きすべて揃えているし、藤子フィギュア・コレクションも瞠目の内容で、実にハイレベルな藤子コレクターである。最も好きな藤子マンガはA先生のブラック短編『田園交響楽』で、この作品のトビラ絵のモデルになった山村を突きとめるのが夢だと語る。ジャーナリスティックな好奇心が旺盛で、下世話なネタも大好きな快(怪?)男児だ。
 兵庫のKさんは、ネオ・ユートピアや月刊ぽけっとの会誌(紙)に毎号のようにイラストやマンガを載せている熱心な投稿家。その作品は、ブラックでマッドなユーモアに満ちていて、誌面で異色のムードを発散している。藤子マンガではとくに『狂人軍』への思い入れが深く、大学生時代には『狂人軍』のサイトを開設していたという。『狂人軍』に出てくる狂犬・狂太郎への愛着は並々ならぬものを感じさせる。ご本人も極めてブラックな人格と思想をもった人物で、作品のイメージを裏切らない。某国立大学の大学院を卒業したり、藤子作品関連の難解なクロスワードパズルを作成したりと、知的に優れた青年でもある。



 大阪懇親会の第1次待合わせは、午後1時ごろ、まんだらけうめだ店においてだったが、この段階で集まったのは私を含め3人だけだった。ほかの面々は夕方ごろの合流になりそうな按配だったので、この3人でまんだらけ前の喫茶店に入り時間をつぶした。このとき一緒だった大阪のKさんと、同じく大阪のYさんは、兵庫のKさんと同様、ネオ・ユートピアと月刊ぽけっとの常連投稿者で、毎号のように誌上でお名前を見かける。
 大阪のKさんは、しずかちゃんをはじめ藤子美少女キャラへの愛情あふれる投書でその存在感を大いに示している。初恋の藤子キャラは『ジャングル黒べえ』のタカネちゃんだったが、今ではしずかちゃんへの想いが圧倒的だという。様々な藤子作品を読み込んで、それについての考察・感想などもよく書いておられる。昭和43年生まれの私よりずいぶん先輩の藤子ファンで、『仮面太郎』などの連載された「少年画報」をリアルタイムで読んでいたそうだ。
 Yさんは、藤子キャラのイラストを藤子系同人誌に頻繁に投稿していて、ネオ・ユートピアでは、彼のイラストだけで構成されたページすら存在する。その膨大な投稿量は、ただそれだけで読者を驚倒させそうだ。藤子マンガへの愛情が深いだけに、ときには厳しい批判者にもなる。17日は、率先して梅田の街の道案内をしてくださったので、とても助かった。年齢をうかがったら、私と同い年だった。


 喫茶店では藤子トークで盛り上がり、「わさドラ」や「のび太の恐竜2006」「ぴっかぴかコミックス」「藤子不二雄Aランド」といった時事的な話題から、藤子作品全般におよぶまで、会話がまったく途切れることなく続き、ときには熱い議論にもなったりして、またたく間に時間がすぎていった。
 神奈川のNさんが梅田に到着すると、再びまんだらけうめだ店へおもむき、その後梅田古書センターにも足を運んだ。
 夕刻になって、京都のOさん、岐阜のGさん、大阪のPさんが合流。
 京都のOさんは、しずかちゃんへのこのうえない愛情を数々のイラストで表現し続ける人物で、最近では、彼の生み出した〝マミえもん〟というパロディキャラが一部ファンのあいだで人気を博している。小規模ながら会員個々の趣味性・嗜好性がぞんぶんに発揮された某藤子系サークルの2代目会長としても活躍中だ。これまで数度お会いしたことがあるが、ちゃんと会話ができたのは今回が初めて。
 岐阜のGさんとは初対面となるが、ネオ・ユートピアや月刊ぽけっとへの投稿でお名前は以前から知っていた。Gさんは、大垣女子短大のA先生公開講座で私の姿を見かけたことがあるそうだ。藤子マンガのなかではA先生のブラック系、ナンセンス系作品が好みで、とくに好きなのは『魔太郎がくる!!』とのこと。兵庫のKさんと感性が共通していて、狂気じみたものや屈折したものに心惹かれるという。
 大阪のPさんは、関東の藤子イベントにもよく参加している純朴そうな青年。極美の藤子単行本を追い求めて、足繁く古書店へ通っている。すでに所有している極美単行本であっても、自分の所有本よりさらに極美状態のものを発見したら買い換えることも辞さない、というこだわりようである。彼の蔵書は100%藤子本だという。以前私が「藤子以外のマンガも結構読む」という話をしたら、Pさんは「ぼくは藤子しか読みません!」と強い語調で言いきった。私は彼に浮気をたしなめられたような気持ちになった(笑)


 夜は梅田の居酒屋で飲み食いとなった。何軒か回って「満席です」と断られつつ、ようやくたどりついた一軒だった。
 ここでは、ある理由から、神奈川のNさんが司会を、私が司会補佐を担当し、座談会の形式をとった。自己紹介から始まり、藤子作品との出会い、好きな藤子作品や藤子キャラへの想い、藤子作品から受けた人生上の影響、藤子作品の考察などが各々の口から語られた。熱烈で楽しく、ときには偏愛に満ち、ときにはハイブロウな発言が続々と飛び出した。3時間とか4時間の座談会では短すぎると感じられるほどだった。最近入手した自慢の藤子コレクションや、自作のイラストなどを披露する人もいた。
 この座談会の途中で兵庫のKさんも合流し、当日のメンバー全員が揃ったのだった。


 神奈川のNさん、兵庫のKさん、岐阜のGさん、大阪のPさん、私の5人は、地下鉄肥後橋駅近くのビジネスホテルで宿泊。座談会の続きとばかりに、藤子についていろいろと語り合った。夜も深まった午前1時ごろには、まるで同一人物であるかのように感性の似通っている兵庫のKさんと岐阜のGさんに対談をしてもらった。狂気を愛する2人の対談とあって、我々の常識を揺るがす発言がいくつも繰り出された。これから眠ろうとする時間帯に聞く話としてはいささか刺激的だったが、コクのあるブラックユーモア作品を玩味するような異色のおもしろさを味わえた。


 18日は、大阪のPさんの案内で、まんだらけなんば店や、絶版漫画バナナクレープへ行った。バナナクレープは狭い店だと聞いていたが、実際に行ってみると想像以上に狭く、そんな限られたスペースに大量の絶版漫画が陳列・山積みされているさまは、ある意味壮観だった。
 バナナクレープでは店長さんから、漫画古書の内情や周辺の話題などをたくさん聞かせていただき、楽しい時間をすごした。この店長さん、実に話の上手な人だった。遠くから来てもらったので、ということで、かつて全国のトヨタカローラ店で配布されたフリーペーパー「ぼく、ドラえもん号外」をくださったりもした。


 夕方、Pさんが別れ際に、大阪駅で手に入れたというJR西日本の観光パンフレット「忍者ハットリくん列車で行く JR城端線氷見線 楽しさ発見、沿線めぐり」を分けてくれた。昨年3月運行開始した忍者ハットリくん列車が走る城端線氷見線沿線の観光地を案内する、8ページのパンフレットである。


 この日、大阪も非常に寒かったが、東海地方は記録的な大雪で、JRのダイヤが乱れていた。私は青春18きっぷを使い、快速と普通列車を数度乗り継いで帰宅したが、本来3時間ちょっとで帰れるところが4時間半かかってしまった。
 私の被害はそんなもので済んだけれど、夜行バスで神奈川へ向かったNさんは、高速道路通行止めのためバスの車内に18時間ほど閉じこめられ、結局米原駅から新幹線で振り替え輸送という羽目になって、自宅に帰り着くまでにまるまる1日かかってしまったそうだ。
 私が大阪へ行っているすきに、名古屋は58年ぶりの大積雪に見舞われていたのだった。私の住む春日井市は、観測史上最大の積雪だったという。



 大阪懇親会でご一緒した皆さん、本当にありがとうございました。またお会いできるのを楽しみにしています。