新生ドラえもん 初の大晦日3時間SP

koikesan2006-01-03

 昨年12月31日(土)、「新生ドラえもん 初の大晦日3時間スペシャル」が放送された。40分の話が1本と22分が2本、計3本の新作アニメが観られるという贅沢な番組構成だった。
 作品の放送順は以下のとおり

「まあまあ棒」(再放送)
「(秘)スパイ大作戦」(再放送)
「雪山のロマンス」(新作)
「ラジコン大海戦」(新作)
どくさいスイッチ」(再放送)
「竜宮城の八日間」(新作)


 アニメ作品の合間に、ブラジル、チュニジア、中国といった国の人々がテレビでドラを観て歓声をあげる映像が何度も挟まれた。これは、それらの人々が実際にドラを観ているのではなく、そのように見せかけた合成映像だ。合成という断りのテロップもちゃんと入れられていた。
 映画『のび太の恐竜2006』の予告映像や、元旦にドラえもん水田わさびさん)から電話がもらえるプレゼントのお知らせなどもあった。特筆すべきは、『のび太の恐竜2006』の製作スタッフをクローズアップしたコーナーだろう。アニメ『ドラえもん』でここまで大々的に製作スタッフの名前・経歴・仕事内容を紹介したことは、かつてなかったのではないか。こういうものを見ると、映画への期待がいっそう膨らむ。


 今回のメインは、なんといっても40分の長編アニメとして放送された「竜宮城の八日間」だろう。原作の内容からし大長編ドラえもんをコンパクトにしたようなSF冒険物で、これが40分という、レギュラー放送よりずっと長い尺でアニメ化されるのだから、ちょっとした映画を観ているような気分にひたれるのでは、と放送前から期待していた。
「ラジコン大海戦」の原作は、通常『ドラえもん』が連載されていた学年誌より読者層が高めの「少年サンデー増刊」で発表された。22分という長めの尺でアニメ化するにはもってこいの作品だ。
「雪山のロマンス」は、10ページの原作を22分でアニメ化ということで、大幅にアレンジが加えられることが予想された。


 ここでは、新作アニメとして放送された3作の感想・考察を、放送順に書いていきたい。



●「雪山のロマンス」

単行本:「てんとう虫コミックス」20巻などに収録
初出:「小学六年生」1978年10月号


【原作】
「雪山のロマンス」は、のび太としずかちゃんの結婚が決まる直接的な経緯を描いている。
 雪山で遭難したしずかちゃんを救出に向かったのび太だが、雪山に世界地図を持ってくるとか、缶詰をたくさん用意しながら缶切りを忘れてくるなど、やることなすこと全てヘマばかりで、逆にしずかちゃんに助けられることになる。その出来事からしずかちゃんは、「そばについててあげないとあぶなくて見てられないから」という理由でのび太との結婚を決意するのだった。しずかちゃんの頼もしさ・やさしさとのび太の頼りなさ・情けなさが浮き彫りになるエピソードだ。
 こんな理由でのび太との結婚を決意したしずかちゃんだが、子どものころからのび太のことをよく知っている彼女は、のび太との長年の付き合いを通して彼の人柄に好意を抱き続けてきたはずだ。その蓄積があるからこそ、今回の一件でのび太と結婚することを決意し、その想いを自分からのび太に告げたのだろう。雪山での体験は、しずかちゃんの内にひそやかに息づいていたのび太への想いを彼女の意識上に引き出し、のび太との結婚を決意させる最後のひと押しとなったのではなかろうか。

 それにしても、児童マンガの登場人物である児童たちの、将来の結婚にまつわるエピソードまで読めてしまうのは、タイムトラベルのアイデアを駆使できる『ドラえもん』だからこその魅力だろう。「のび太のおよめさん」「のび太結婚前夜」などと併読すれば、のび太の婚約・結婚にまつわる話に奥行きと広がりが感じられ、さらに味わい深い。



わさドラ
わさドラ』では、昨年4月22日放送の「のび太のおよめさん」で、のび太の将来のお嫁さんがしずかちゃんだと明かしているので、それを加味したうえで今回「雪山のロマンス」を放送したのだろう。


 事前の予想通り、アニメ独自の追加エピソードやアレンジが随所に見受けられた。冒頭からして、教室のなかで女の子たちが相性占いに興じるシーンが追加されていた。ここでしずかちゃんとの相性が最悪と告げられたのび太は、帰り道、宿題を一緒にやろうとしずかちゃんを誘うが断られ、自分は将来しずかちゃんと結婚するはずだけど本当にできるのか、なぜしずかちゃんは自分みたいな取柄のない男と結婚してくれたのか、などと不安に駆られることになる。のび太がこういう不安を抱くに至る道筋として、冒頭の追加シーンは意味のあるものだった。
 女の子たちが教室の一箇所に集まって誰と誰が相性がいいのか占っている光景じたい、教室内の小学生の日常をリアルにきりとったような趣きがあっていい感じだった。


 自分には取柄がないと嘆き、しずかちゃんは自分のどこが気に入って結婚してくれるのか知りたいとドラえもんに迫るのび太。このとき、「鼻水、つけないでよ」とドラえもんが注意したように、のび太は泣きわめきながら勢いよく鼻水を垂らしていた。その後、未来テレビで14年後ののび太の姿を映すと、そこでものび太は相変わらず鼻水を垂らしていて、14年の歳月がすぎても変わりばえのしないのび太の有様がおもしろく印象付けられた。


 14年後のしずかちゃんとのび太がベンチに座り、焼芋を半分に割って食べる場面は、しずかちゃんの焼芋好き設定が活かされていてほほえましかった。小学生のころは自分の焼芋好きを恥ずかしがっていたしずかちゃんも、大人になったら普通に焼芋を食べられるんだなあ。


 しずかちゃんと一緒に雪山へ行った友達、原作では「ほかのお友だち」としか書かれなかったが、アニメでは、出木杉ジャイアンスネ夫の3人が登場して、雪山のシーンを賑やかにした。14年後の彼らの声も、いつもの声優さんが担当。


 遭難したしずかちゃんを助けにきたのび太が、雪山の現在位置を確認すべく世界地図を開く。これは原作どおりのネタで、のび太がそうすることがあらかじめ分かっていたのに、彼が世界地図を広げたとたん、私は思わず笑ってしまった。「のび太さんらしいわ」というしずかちゃんのセリフが、さらに笑いを増幅させてくれた。


 のび太が缶詰を持ってきておいて缶切りを忘れたことが判明する場面でも、しずかちゃんは「のび太さんらしいわ」とほほえみを浮かべながら言った。このセリフを聞いたとき、私は「ああ、しずかちゃんは、こういう、おっちょこちょいだけどやさしいのび太の人柄に惹かれたんだなあ」としみじみ思えてきて、少し涙ぐんでしまった。そして、そんなのび太の救助活動が何の役にも立たずとも、自分を助けるためだけに雪山まで駆けつけてくれたことが、しずかちゃんにとって何ものにも替えがたい喜びだったんだなあ、と感じた。


 しずかちゃんが「のび太さんと結婚するわ」と告げ、のび太が「ありがとう」と泣きじゃくる場面は、感動と笑いが同時に胸のうちに起こり気持ちが最高潮に達した。




●「ラジコン大海戦」

単行本:「てんとう虫コミックス」14巻などに収録
初出:「少年サンデー増刊」1976年9月10日号


【原作】
 精密に描かれた戦艦大和ゼロ戦が戦ったり、大和が豪快に撃沈したりと、戦記アクション映画さながらのシーンが繰り広げられる一編。戦艦大和VSゼロ戦という大日本帝国軍の兵器どうしが戦う構図は、現実にはありえないだけに強い印象を残す。
 そしてこの作品は、かつては軍国少年だったと語る藤子・F先生のこんな言葉を思い出させる。

ボクらは当時の教育のせいで、首までどっぷり軍国主義につかっていましたからねえ。戦況は日増しに悪くなるしね、ボクらは小国民といえど、何とかせにゃあいかん、というわけでね。ボクと安孫子と、もう1人玉野というのがねえ、3人、5年か6年のころだなあ……。ひとつ日本でも新兵器をつくらにゃあ、オレたちがそれを発明しようというわけでね……。
(略)
実際に竹ヒゴとかで飛行機の胴体なんかつくってね、模型みたいなものつくったのをおぼえている。
アニメージュ増刊「SFコミックス リュウ」Vol.4 1980年2月29日発行 徳間書店


 軍艦や戦闘機による戦闘シーンが見どころの「ラジコン大海戦」だが、この作品が実に『ドラえもん』らしいのは、ここに出てくる戦艦大和ゼロ戦原子力潜水艦もすべてミニチュア(ラジコン)だということ。どれだけ激しくド迫力な戦闘が繰り広げられても、のび太らが暮らす町の日常には何の影響も及ぼさないのである。
 それでも、ミニチュアの戦争を行なった当事者には大きな影響があり、戦いに敗れたスネ夫スネ吉は「戦争は金ばかりかかって、空しいものだなあ」とこぼして戦場を去っていくのだった。このセリフは、現実の戦争に照応させれば、戦争という事象のばかばかしさ、愚劣さ、割に合わなさを風刺したものとも解釈できる。
 また本作は、リアルなミニチュアが多く登場して実際の海戦さながらの光景をつくりだしているという意味で、藤子・F先生の模型趣味や箱庭趣味が表出したものともいえるだろう。



わさドラ
「ラジコン大海戦」をこのタイミングで放送したのは、現在公開中の映画『男たちの大和/YAMATO』を意識にしてのことだろうか。
男たちの大和』の映像には及ばぬかもしれないが、『わさドラ』でも戦艦大和ゼロ戦などの戦闘シーンは迫力があった。大和の登場シーンでは、のび太のラジコンボートとの対比で、大和の巨大さや重厚感がよく伝わってきたし、ドラえもんが出した潜水艦がミサイルでゼロ戦を爆撃するシーンでは、ゼロ戦の爆破描写に臨場感があった。とくにゼロ戦2機めの爆破時、前部のプロベラの吹っ飛び方に目を引かれた。


 大和をのっとったドラえもんのび太が大和を颯爽と航行させる場面、原作では軍艦マーチが流れて実に印象に残るが、アニメでは軍艦マーチはなし。そのぶん原作と比べれば平凡なシーンになったが、そのことが大きな瑕になったわけでもない。アニメでも軍艦マーチが流れればインパクトが大きかっただろうなあ、とは思うが。


 ドラえもんが出した潜水艦、原作では「ミサイルつき原子力潜水艦」だったが、アニメでは「高性能ミニ潜水艦」に。〝原子力〟というデリケートな語をアニメでそのまま使うことを回避した格好だ。この潜水艦がミサイルを発射する描写はカッコよくて満足。


 のび太が、自分で組み立てたラジコンボートを初めて水に浮かべたとき、「ぼくが作ったボートだぞ。沈まなかったのが奇跡だ」と自虐的な発言をしつつ感激するさまが可笑しかった。


 大和でのび太のラジコンボートを沈めたスネ夫が、怒りをぶつけてくるのび太ドラえもんに「べんしょうしてやるよ。あんな安物」と余裕をかます場面が原作にあるが、アニメでは「弁償する」というくだりをスネ夫が言わなかったので、「あれ?」と思っていたら、その後大和をのっとったドラえもんが「もし(大和を)取り戻したかったら、のび太くんのボートを弁償しろ」と要求する場面があって納得。ここでドラえもんに弁償の要求をさせるため、その前にあるスネ夫の〝弁償してやる〟発言をカットしたようだ。


「かさねがさねの乱暴、もう許せん!」と怒りを爆発させるドラえもんの後ろで、のび太が何気なくドライヤーで髪を乾かす絵づらに、クスッときた。


 スネ夫スネ吉が沈み行く夕陽に向かって「戦争は空しい」と慨嘆する場面は、2人の背中から哀愁が漂っていた。



 
 40分の長編「竜宮城の八日間」については、後日書くことにする。






※写真は、戌年記念第2弾、ビリ犬のお面である。1988年『ビリ犬』アニメ化当時の商品。肌の濃いめのピンクと、目の周りの黒と、目の中の白のコントラストが鮮やかだし、折れて垂れ下がった耳や丸っこい鼻の形状が魅力的で、私が持っている藤子キャラお面のなかでもお気に入りの一品だ。だからといって、これを自分の顔につけて遊ぶような浮かれた真似はしないが。
 昨年末の段階で今年が戌年だと認識したとき、真っ先に頭に浮かんだ藤子キャラがこのビリ犬だった。現在、CSのテレ朝チャンネルで『ビリ犬』と『ビリ犬なんでも商会』を観ているので、その印象が強いのかもしれない。