「ランプのけむりオバケ」「かべ紙の中で新年会」放送

 1月13日(金)、2006年最初の『わさドラ』が放送された。今回アニメ化された2本は、どちらも新年を舞台にしている。もともとは、学年誌の1月号で発表された作品だ。



●「ランプのけむりオバケ」

初出:「小学二年生」1972年1月号
単行本:「てんとう虫コミックス」1巻などに収録

【原作】
 藤子・F先生が幼少の時分から愛読してきた『アラビアンナイト』のなかの代表的な物語「アラジンのランプ」。「ランプのけむりオバケ」には、「アラジンのランプ」をもじったひみつ道具「アラビンのランプ」が登場する。私の手元にある児童向け『アラビアンナイト』(「少年少女世界の名作1巻 古典編1」所収/藤原一生・文/小学館/昭和48年2月25日発行)では、ランプをこすると「きゅうにランプからけむりがあがって、そのけむりのなかから、大きなくろんぼうがあらわれました」とあり、ランプから出てくるのは〝くろんぼうの大男〟だが、「ランプのけむりオバケ」では、あまりかわいげのないけむり型ロボットが姿を現す。(現在の児童向け『アラビアンナイト』では、〝くろんぼう〟という表現が修正されているかもしれない)


 けむりロボットは、ランプをこすったご主人様の言いつけにはたいへん忠実で、頼まれたことは何でもやりとげようとするが、ご主人様以外の他人の力を無理やり利用するとか、一度頼まれたことをやめようとしないとか、いろいろと問題も多い。そういうバランス感覚の欠如や融通のきかなさは、こうした擬似人格をもったロボットタイプのひみつ道具によく見受けられる特徴だ。
 本作は、けむりロボットのアクの強いキャラと粗暴なふるまい、それに対する人々の反応をギャグとして楽しむ一編なのである。


 本作で私がとくに好む場面は、寝転がったドラえもんがギロと恐ろしい表情をのび太に向けるところ、けむりロボットが百万円をもらおうとパパに乱暴を働くところ、そして、スネ夫ジャイアン・先生がけむりロボットに迷惑をかけられたことを打ち明けあう最後のコマである。




わさドラ】(新年だ!アラビアンナイトだ! ランプのけむりオバケ)
 サブタイトルの上に「新年だ!アラビアンナイトだ!」といアオリ文句が乗っかり、そのアオリ文句がサブタイトルと一緒に読み上げられた。今後はどの話もこのパターンで行くような雰囲気だが、個人的にはアオリがないほうがいい。


 新年初作品の冒頭は、琴の音色に玄関のしめ縄、こたつでみかん食べるドラえもん、と典型的な正月の情景でスタート。


 2階にいるけむりオバケが1階のドラえもんを強引に連れてくるとき、ドラの頭をバレーボールでも持つように片手でつかんでいたのが可笑しかった。


 ドラえもんが、赤い握りの部分をベコベコやる手動の給油ポンプを使って円筒型のレトロなストーブに灯油を補給し、マッチを擦って点火していた。科学技術の発達した22世紀からやってきたドラえもんが、そんな地道なアナログ行為をしているさまがほほえましかった。
 そういえば、マッチを擦るときドラえもんのゴムマリのような手から親指が生えていたなあ。この場面は原作にないけれど、ドラの親指は『ドラえもん』のほかの原作で時々生えてくることがある。

 
 こたつに潜り込むドラえもんは、ネコらしくてチャーミング。
 そのままこたつで寝そべったドラえもんが、原作どおり、のび太に対して〝ギロ〟という表情を向けてくれた。そのとき、あたかもネコ科の動物のような威嚇の声も出して、ドラえもんの怒りと、何が何でも休んでやるという意志が強く伝わってきた。


 のび太の頼みごとの数が原作より増えた。おもしろくてお気に入りだけど見つからないから探してほしい、とのび太が頼んだマンガ本が、フニャコフニャ夫・作の『ライオン仮面』1巻だったのはツボをついた。
「しずかちゃん、どうしてるかなあ」とのび太がつぶやくと、けむりロボットは、あろうことか入浴中のしずかちゃんをバスタブごと運んできた。『わさドラ』のしずかちゃんは、入浴や就寝時におさげ髪をほどくことがあり、今回もそういうしずかちゃんが登場した。新鮮なかわらしさを感じる。


 けむりロボットの暴走は、家庭内や近所にとどまらず、銀行から100万円を脅し取ろうという社会的事件にまで発展しそうになった。そして、この場面が本作最大のクライマックスになった。
 そんなたいへんなことになりながら、のび太は懲りずにアラビンのランプを使い続けようとする。そのため、けむりロボットの主人がのび太であることがジャイアンたちにバレてしまう。のび太は彼らに追いかけられる羽目になり、それが本作のオチになるのだった。
 原作のオチは、けむりロボットから被害を受けたジャイアンスネ夫・先生が道端で自分の被害を打ち明けあい、それを立ち聞きしたのび太が蒼ざめるところで止まっている。このオチが私は好きなのだが、アニメではここで終わりだという印象を視聴者に与えにくいからか、尺が足りないので新たな場面を単純に追加したからなのか、違うニュアンスのオチに変更されてしまった。




●「かべ紙の中で新年会」

初出:「小学一年生」1971年1月号
単行本:「てんとう虫コミックス」9巻などに収録

【原作】
 本作は、ドラえもんが出したひみつ道具でみんなが新年会を楽しむという無邪気なお話。かべ紙の向こうが広い空間になっているというアイデアに夢を感じる。唯一のギャグ場面は、スネ夫がかべ紙のトイレでおしっこをするところ。かべ紙トイレが貼ってあるドアをのび太のママが開けたためかべ紙トイレが剥がれ落ち、その変化によって傾いた便器の中から、おしっこが混じったであろう液体がスネ夫のもとにふりかかってくるのだ。


 本作は、てんとう虫コミックス初期の版では「かべ新聞の中で新年会」というサブタイトルになっている。




わさドラ】(ジャイアン新曲発表! かべ紙の中で新年会)
 原作が素朴な話だけに、アニメでは大幅に肉付けがなされた。そのため、まるで違う作品を観ているような感覚だった。


 のび太が友達を呼んで新年会を開くのを嫌がるママ。原作では「うちはせまいから」というのがその理由だったが、アニメでは、ママが新年会を嫌がるもっと強い理由が示された。パパが自宅に友人を招いて新年会を開き、その世話をするのにげんなりしたママは、家が狭いとか何とか以前に、〝新年会〟そのものに拒絶反応を示すようになったのだ。


 原作ではスネ夫のおしっこ以外これといって事件の起こらなかった「かべ紙の中の新年会」だが、『わさドラ』では、ジャイアンが歌を歌うという大事件が勃発。この事件が本作の強烈なアクセントとなった。

 
 かべ紙トイレでおしっこをしていたスネ夫の被害は、原作のレベルで終わらなかった。剥がれ落ちたかべ紙トイレをママが拾って波打つように揺らし、それを丸めて片づけはじめたため、中にいるスネ夫はひどい震動を受け、便器がスネオ夫の眼前に迫ってくる事態を招く。
 スネ夫がかべ紙トイレに閉じ込められたことに誰も気づかないまま、みんなは帰宅してしまう。置き去りにされたスネ夫のセリフ「助けて〜、臭いよ〜、目にしみる〜」は、絵に描くのがはばかられるスネ夫の惨状が想像されて、笑いを誘った。






 本日購入した「コロコロコミック」2月号に、2月10日までの『わさドラ』放送スケジュールが載っていた。

●1月20日
「このかぜうつします」(てんコミ2巻)
「温泉旅行」(6巻)


●1月27日
「タタミのたんぼ」(2巻)
「オーバー・オーバー」(13巻)


●2月3日
「ほんもの図鑑」(6巻)
「地球製造法」(5巻)


●2月10日
「進化退化ビーム」(8巻)
「大むかし漂流記」(17巻)


 コロコロ2月号には、ゲームソフト『のび太の恐竜2006DS』用の新ストーリーをコミカライズした別冊付録がついている。映画『のび太の恐竜2006』とは別のストーリーである。作画は、岡田康則さん。DS版のオリジナルキャラ・ルルは、『T・Pぼん』のリーム・ストリームがモデルっぽい。ルルが使う空飛ぶ乗り物は、『ミラ・クル・1』の重力ボードだな。


2月発売の藤子単行本情報で書き漏らしてしまったが、2月14日に、てんとう虫コミックスのび太の恐竜』オリジナルピンバッジ付きスペシャルパックが発売される。定価500円(税込)。オマケがついているというだけで、本体は既成のてんコミのび太と恐竜』と同じだろう。