「ゆめのチャンネル」「恐竜の足あと発見」放送

わさドラ」2月17日放送分レビュー。


●「ゆめのチャンネル」

初出:「小学五年生」1977年8月号
単行本:「てんとう虫コミックス」15巻などに収録

【原作】
 夜眠れないのび太が、退屈しのぎのためドラえもんが出してくれたユメテレビで友達の夢を覗き見る話。ジャイアンは自分の夢の中で、唐草模様の風呂敷マントを身につけた正義のヒーローになっていて、怪獣に襲われたのび太を颯爽と救い出す。のび太ジャイアンにすがりついて感謝し、しずかちゃんとスネ夫はそれに拍手を送る。
 スネ夫は、夢の中で賢い二枚目になり、出来が悪くて先生に鞭打たれるのび太、しずかちゃん、ジャイアンを庇いつつ、皆が頭を抱える難問を鮮やかに解いてみせる。そんなスネ夫に先生はひれ伏し、友達3人は、涙をこぼして拍手を送るのだった。(スネ夫の解く難問が「1+1=」というのが微妙に笑える)
 しずかちゃんが見ていたのは、魔物にさらわれて古城に閉じこめられているという、ファンタジーの一場面のような夢だった。そこに豚に乗ったのび太が助けにやってくる。しかし、いざ魔物を前にすると、のび太は恐怖のあまりおもらし。そのあと白馬に乗った王子がかけつけて魔物を退治し、のび太を置いてしずかちゃんとともに去っていく。
 誰も彼も、夢の中では自分ばかりがいい思いをし、友達(主にのび太)を引き立て役に使うという唯我独尊ぶりであるが、そんな身勝手なご都合主義も、自分の夢の中だからこそ許される特権だろう。


 みんなの夢の身勝手さに憤ったのび太は、ユメテレビの画面にインク瓶をぶつけて割ってしまう。眠っていたドラえもんは「ああっ、たいへんなことを!」と慌てて押入れから出てくるが、時すでに遅し。割れた画面から、夢の中の怪獣や魔物や怖い先生が実物になって飛び出し、襲いかかってきたのである。ドラえもんは、のび太と一緒になって逃げるが、のび太がとても逃げ切れないという状況で、「ぼくが怪物にくわれよう。その間にきみ逃げろ」と犠牲を買って出る。のび太は、きみの友情を忘れない、と涙しつつ、一人逃げていくのだった。
 ところが、最後のひとコマで、それまで見ていた光景が反転するような事実が明かされる。ドラえもんが犠牲になっているうちにのび太が逃げるくだりは、実はのび太が眠りながら見ている夢の中での出来事だったのだ。いや、そのくだり以前から、すでにのび太の夢の中の出来事になっていた可能性だってある。朝になって起床した現実のドラえもんは、のび太がそんな夢を見ていることをユメテレビで知って怒るのだが、このあたりなど、ミステリー小説の叙述トリックを思わせる仕掛けで、意外な驚きを与えてくれる。


 眠れないのび太がユメテレビで友達の夢を覗いていく話のはずが、いつのまにかのび太自身の夢の中の話にずれ込んでしまったわけだが、いったいどの場面までのび太が起きていて、どこから眠ってしまったのか、判然としないまま物語は終了する。謎が謎のまま放置されることで、読者は「いったいどこからがのび太の夢の中の話なんだ?」と不可解な気持ちに見舞われつつ、その不可解さを楽しむことになるのだ。



わさドラ】(ドラえもん、さようなら!? ゆめのチャンネル)
・自分の夢の中で正義のヒーローになったジャイアンに、ちゃんと呼び名がついていた。その名も、ジャイアンマン!! あまりにベタなネーミングに笑ってしまう。 
 スネ夫の夢の中に出てくるスパルタな先生は、原作では普通にスーツを着ていたが、「わさドラ」では『のび太のパラレル西遊記』に登場した牛魔王や金角・銀角を思わせる派手な鎧を身につけて怪物風味を増していた。この鎧の胸のマークが、牛魔王は「王」、金角は「キ」、銀角は「ギ」だったわけだけれど、先生の場合は鉛筆の図柄だった。
 スネ夫が、彼の夢の中では超難問とされる「1+1=」を「2」と解いたとき、その解答が仰々しく金色に輝いていたのが、ばかばかしいほどにまばゆかった。


 のび太が割ったユメテレビの画面から怪物が実物化して出してくる場面。原作では怪物たちが画面から一気に飛び出してきたが、「わさドラ」では、画面の奥から徐々にこちらへ近づいてきた怪物たちが、画面の割れ目からじわじわと現実の世界へ出てくる感じだったので、そのあいだに若干恐怖感を掻き立てられた。映画『リング』の、貞子がテレビ画面から出てくるシーンを、ちょっと思い出す。



●「恐竜の足あと発見」

初出:「小学二年生」1985年7月号
単行本:「てんとう虫コミックス」44巻などに収録


【原作】
 恐竜の足跡の化石を題材にした作品。「コロコロコミック」3月号のむぎわらしんたろうさんによるマンガ『ドラえもん ひろしの恐竜』でも描かれたように、そもそも藤子・F先生が恐竜に関心をもったのは、大きな恐竜(アパトサウルス)の足跡の化石の中に子どもがすっぽり入っている写真を見たことがきっかけだった。F先生は、その恐竜初体験についてこのように述懐している。

恐竜に関することで、一番古い記憶は戦前の雑誌グラビアで見た、足跡の化石です。その中に水がたまっていて、子供が遊んでいるんですが、こんな巨大な生物がいたのかと、強く印象に残っています。
(「サライ」1989年2号)

 F先生は、本作で扱った〝恐竜の足跡の化石〟という題材に、それだけ深い思い入れをもっていたのである*1


〝年代そくてい機〟は、その物ができてから何年経ったかを調べる機械で、ドラえもんが手始めとばかりに調べたのがのび太のママだった。計測の結果、「三十八年たってる」ことが判明。つまり、のび太のママの年齢が、「38歳」と具体的に示されたのだ。


わさドラ】(恐竜ちょっとだけスペシャル第3弾! 恐竜の足あと発見)
 原作は、9000万年前の世界へ行くわりにページ数の都合であっけない展開だったが、「わさドラ」では、9000万年前の世界で見られる恐竜の種類を増やし、冒険要素を高めていた。白亜紀のアジアということを意識してか、「恐竜さん日本へどうぞ」(てんコミ31巻)に出てくる翼竜の一種・ズンガリプテルスを登場させたのが印象的。その伝でいけば、ティラノサウルスみたいな肉食恐竜は、ユンチュアノサウルスというところだろうか。


「タイムマシンで、恐竜が生きてた時代へいって、足あとをつけさせて化石にして、それを自分で見つけよう」と、原作ではのび太の1回のセリフだけで説明された彼の計画が、「わさドラ」では絵付きで具体的に描写され、そのイメージをつかみやすくなった。
 ドラえもんが恐竜の足跡が化石になるまでの薀蓄を語ったり、9000万年前の地層を探しあてるまでにちょっとした苦労があったりというアレンジも好ましく思った。
 本作は、追加シーンやアレンジなどが全体的に私のツボをついた方向でなされていて、いい気分で見通すことができた。オチで、のび太が両手の人差し指を突き合わせて恥ずかしがる仕種も、なかなかよかった。




※雑誌・新聞記事情報

●「中日新聞」2月16日付に、

園児とママの情報誌「あんふぁん」が、今どきの園児の意識、生活などについて読者アンケート結果をまとめた。
園児が好きなテレビ番組は、一位が「ドラえもん」、二位は同数で「ふたりはプリキュア」「ポケットモンスター」。以下「魔法戦隊マジレンジャー」「それいけ!アンパンマン」「おかあさんといっしょ」の順だった。

という記事が載っていた。


●「週刊女性」2月28日号(主婦と生活社に、〝「歴史的」変化アリ!?『映画 ドラえもん のび太の恐竜2006』3/4(土)全国東宝系ロードショー〟というモノクログラビア記事(2ページ)が掲載されている。


●「野性時代」3月号(角川書店の巻頭カラーインタビューで、スキマスイッチが『のび太の恐竜2006』の主題歌『ボクノート』について語っている。

*1:F先生は、「サライ」の記事ではアパトサウルスの足跡の写真を見た時期を「戦前」と述べているが、「藤子・F・不二雄恐竜ゼミナール」(小学館/1990年9月発行)においては「1954年ごろのことでしたか、上京してからのことだったと記憶しています」と発言している。ここに大きな食い違いが見られるが、どちらにせよF先生がアパトサウルスの足跡の写真に強く好奇心を刺激されたことは間違いない。