ドラえもんのドラは、ドラ焼きのドラ?

 先日手に入れたアニメ雑誌「OUT」昭和54年6月号(みのり書房)に、「ドラえもん珍道中記」なる記事が載っている。ドラえもんが、藤子スタジオシンエイ動画・(アフレコの)整音スタジオを訪問し、その模様をレポートする、といった趣向の記事だ。昭和54年6月号だから、テレ朝版『ドラえもん』が始まって間もない頃のものである。
 その記事中に、ドラえもんが「僕の名前のドラってのはドラ焼きのドラなのか、ドラ猫のドラなのか」と藤子先生に尋ねるくだりがあり、藤子先生は、どっちでもいいんです、というような答え方をしている。作品の設定やら細部やらに明確な説明を与えず、〝曖昧にしておいたほうが面白い〟〝読者の想像にお任せする〟といったスタンスをとるのは、実に藤子・F先生らしい態度ともいえるが、ここでとりあげられた疑問に関しては、ご承知のとおり、はっきりとした答えが提示されている。「OUT」昭和54年6月号が出た当時は、その答えがまだ世間に浸透していなかったのだろう。



 藤子・F先生が、創作舞台裏マンガ『ドラえもん誕生』(昭和53年)などで明らかにしたように、ドラえもんというキャラクターは、哺乳動物の〝猫〟が発想のもと(の一つ)になっているわけだから、ドラえもんの〝ドラ〟が、ドラ猫の〝ドラ〟から名付けられたものであることは疑いようがない。
 この件について藤子・F先生が明瞭に言及している資料としては、たとえば、「話の特集」昭和59年11月号が挙げられる。この雑誌の対談記事で、藤子・F先生は次のように述べている。

ええと、マンガの裏話というのは聞かれて答えるとつまらないことが多いんですが(笑)。
  (中略)
ドラえもんがどら焼きを好きというのも、まったくの語呂合わせで、猫型ロボットとどら猫の連想からドラえもんという名前がついて、ドラえもんから何か「ドラ」の付いた食べ物はと考えたら、どら焼きしかないということで、どら焼きですね(笑)

 藤子・F先生が証言するように、〝ドラ猫〟から〝ドラえもん〟という名前が生成され、その〝ドラえもん〟という名前との語呂合わせで〝ドラえもんはドラ焼きが好き〟という設定が誕生したわけだ。こんなことは今さらとりあげるまでもないネタかもしれないが、たまたま「OUT」で上述のような記事に触れたので、なんとなく再確認してみたくなったのだ。