「未来の町にただ一人」「スケジュールどけい」レビュー

 アニメ『ドラえもん』、6月23日(金)放送分をレビューします。いつものことですが、アニメ作品の純粋なレビューというよりは、今回放送されたアニメの原作にあたるエピソードをまず紹介し、それとの比較でアニメ作品のほうを見ていく、という形式をとります。こういう形式をとるのは、私にとってあらゆる『ドラえもん』作品の核になるのは藤子・F・不二雄先生が描いた原作マンガであり、これについて語ることを第一義としているからです。



●「未来の町にただ一人」
【原作】

初出:「小学四年生」昭和54年7月号
単行本:「てんとう虫コミックス」第21巻などに収録

 のび太は、夏休みに遊びに行った未来の世界で、宇宙人の襲来による人類滅亡の危機という究極の事態に遭遇するが、最後に種明かしがあって、読者に意外などんでん返しの面白さがもたらされる。この最後のくだりでは、どんでん返しの面白さとともに、話の内容が冒頭場面と連結し折り重なっていく面白さも堪能できる。話の冒頭でのび太は、北海道とか外国へ旅行に行った友達から自慢話を聞かされるのがイヤで、逆にみんなにうんと自慢してやろうと未来へ出かけるが、そののび太がイヤがった状況を、話の終盤にきてセワシが代わりに体験することになるのだ。
 また本作は、未来の世界で宇宙人の襲来があり地球人類が最後の日を迎えようとしている、などという突拍子もない事態をのび太(および読者)に信じ込ませるための周到な仕掛けを、話の序盤にほどこしている。ドラえもんが慌てた様子で未来へ帰り、それを見たのび太が「大地震かな」「ひょっとして宇宙人の襲来!!」などと未来の惨状をさらっと想像するくだりが、それにあたる。この場面の挿入によって、未来で只ならぬことが起きているに違いない、という方向へのび太(および読者)の意識が誘導され、このあと実際に未来の世界を訪れたのび太が(本当は立体ゲームにすぎない)UFOやインベーダーを目撃したとたん、やっぱり宇宙人の襲来があったんだ、とあっさり思い込むことになる。そしてまた、そう思い込んだのび太に対して読者が違和感を抱かない、という状況がスムーズに生成されるのだ。
 さらに終盤、ドラえもんが焦って未来の世界へ帰った本当の理由が説明されることで、宇宙人襲来の真相と、ドラえもんが未来へ帰った理由の2つが連続して種明かしされることになり、読者は、「なるほど、そういうことだったのか!」と納得感を胸に残しつつ、ラストの1ページを読みきることができるのだ。
「未来の町にただ一人」は、計算された仕掛けと練り上げられた構成で魅せるお話の、分かりやすい教科書のような一作なのだ。



 のび太が2125年のトーキョーへ飛び出してみたら高い塔の上だった、という場面では、長方形の大き目のコマの内部に円形の小さ目のコマを置くことで、塔の高さを描写すると同時に、塔の上にいるのび太の驚く様子をアップで見せている。整然とした長方形のコマばかりで構成される『ドラえもん』というマンガにおいて、こうした変則的なコマ割りは非常に強い印象を残す。



【アニメ】(地球最後の日!? 未来の町にただ一人)


・原作では、ドラえもんが未来へ行ったすぐあとのび太がタイムマシンで未来へ向かうのだが、それだとタイムマシンが2台必要になって変なので、そのへんの辻褄を合わせるため、アニメでは未来へ行く前にドラえもんがタイムベルトを出し、それを使ってのび太が未来へ移動した。


大原めぐみさん演じるのび太が悲鳴をあげたり騒いだり、大きな声を出すと、女の子っぽく聞こえることがよくあるが、気のせいか、今回はとくにその傾向を強く感じた。


・現代よりも発展した未来の世界の様子がたっぷり描かれて楽しくなりそうなところだが、ストーリー上の必要から、終始がらんとした寂しい雰囲気が漂っていて、単純に楽しいとばかりも思えなかった。


ドラえもんが慌てて未来へ帰った理由について、原作ではセワシの口から「原子炉のちょうしがおかしくなったんだって」と説明されるが、アニメではこの部分が「原子炉」ではなく「部品」と言い換えられた。「原子炉」だと、いろいろデリケートな問題があって心証がよくないのだろう。




●「スケジュールどけい」
【原作】

初出:「小学四年生」昭和48年5月号
単行本:「てんとう虫コミックス」第3巻などに収録

 ドラえもんが出すひみつ道具のなかには、このスケジュール時計のように、人格とまでは言わないまでも、意思や言語をもった自律的な機械が幾多も存在する。こうした類のひみつ道具は、往々にして、目的・計画の遂行に懸命であったり、使い手の指令に対して忠実であったり、とにかく勤勉に動いてくれるのだが、その懸命さや忠実さの度が過ぎて、人間的な機微を解さなかったり融通がきかなかったりと、使い手にとって迷惑な存在になりさがってしまいがちだ。本作と同じてんとう虫コミックス第3巻に収録の「ミチビキエンゼル」なども、このパターンに属するだろう。
 スケジュールどけいもミチビキエンゼルも、自分らの任務に従って正しいことをきちんと成し遂げようとするのだが、〝空気を読む〟能力が欠落しているため、正しいことをしているのにおかしな事態を招くことになるのだ。



アニメ】(逃げろ、ドラえもん! スケジュールどけい)


ドラえもんが何をするでもなく便器の前に立つ場面について、6月16日のコメント欄でaki-radioさんが「楽しみです」と書き込んでくださり、私も同様に楽しみにしていた。そのくらい、原作のこの場面は印象的なのだ。アニメでは、水田わさびさんの演技とドラえもんの表情が、独特の虚しさや滑稽さをかもし出していて、まずまず納得の行くものだった。
 ドラえもんが結果的にこういう目にあうと分かっているので、のび太がスケジュールを決めている横で「ついでにトイレにも行こう」とドラえもんが軽々しく言う場面でも、やたらと可笑しい気分になれる。



・雨降りの中、空き地でひとり野球をするドラえもん。ひとりで投げひとりで打ちひとりでキャッチするドラえもんの熱血ぶりが、どうしようもない徒労感とやけくそ感を湛えていて可笑しかった。空き地の前を通りがかったのび太の「ドラえもんは野球が好きなんだよ」という冷たいセリフが、さらに笑いを喚起した。



スネ夫の家にかくまってもらったドラえもんは、骨川家の地下室へ身を隠す。地下室への階段をくだりつつ、ひたひたとドラえもんに忍び寄るスケジュールどけいが不気味だった。骨川家の地下室の場面は、アニメのオリジナルだ。
 スケジュールどけいは、針の形をした手で相手を刺そうとするが、これが結構怖い。




●6月30日放送の「ドラえもん キャンディーなめてジーンと感動するおばあちゃんスペシャル」に、俳優・速水もこみちと女優・相武紗季が本人役で出演。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060623-00000030-sanspo-ent (サンケイスポーツ
 速水もこみちはかっこいいし、相武紗季はかわいいけれど、それよりも、「おばあちゃんのおもいで」が放送されるのが私には重要だ。