ドラえもんがネズミを嫌う理由

koikesan2006-06-27

ドラえもんはネズミが嫌い〟というのは、今さら言うまでもない、あまりに有名すぎる話である。では、なぜドラえもんはネズミを嫌うのか。これも、今さら言うまでもない話だろう。決定的な答えは、1995年に公開された映画『2112年ドラえもん誕生』で提示されている。
ドラえもんが未来の世界にいる頃に、工作用ネズミロボットに耳をかじられたから〟というのがそれだ。*1
 私などは、それ以前にてんとう虫コミックス第11巻の「ドラえもん大事典」で読んだドラえもんが未来の世界にいる頃に、ネズミに耳をかじられたから〟という理由のほうがしっくりくるのだが、藤子・F・不二雄先生が映画『2112年ドラえもん誕生』について「混乱している情報を整理する意味でこのアニメを作りました。もう二度と変えませんから信じてくださいね」*2とコメントし、この映画で描かれた設定を〝決定版〟と認めてしまったのだから仕方がない。



「工作用ネズミロボットに耳をかじられた」であれ、「ネズミに耳をかじられた」であれ、その、ドラえもんがネズミを嫌う理由というのは、『ドラえもん』という虚構作品における虚構内の設定である。では、そもそも藤子・F先生が〝ドラえもんはネズミが嫌い〟という設定を決めた理由は何だったのか。
 藤子・F先生は、メインキャラクターに苦手を設定しておくとそのキャラクターが活きて話が面白くなる、との考えを持っていた。犬嫌いという属性が有名となった『オバケのQ太郎』の成功が、藤子・F先生のその考えを確固たるものにしたのだろう。
 ドラえもんのネズミ嫌いは、そうした藤子・F先生の創作に対する考え方を土台としながら、〝ネコがネズミを追いかける〟という現実の動物の関係性がひっくり返る可笑しさを狙って設定された、というのが一般的な認識ではなかろうか。



 だが、そういう一般的な認識に加え、ドラえもんのネズミ嫌いが設定されたもうひとつの理由を、6月22日の日記で紹介した「話の特集1984年11月号の中の、藤子・F先生の発言から見てとることができる。

苦手を作っておいたほうが話が面白くなりますから。だいたい登場人物それぞれ、自分を含めて、周囲の人物みんなをモデルにしてるわけですね。例えば家のカミさんなんかはネズミ嫌いで、ネズミ一匹いるだけで家に火を付けかねないくらい病的に恐れますね。そういった個人的なことでドラえもんがネズミ嫌いになるとか。
猫がネズミを嫌うというのは逆説的でおかしいじゃないかと、そういう含みもありますけどね。

 ここで藤子・F先生は、ドラえもんのネズミ嫌いはネズミを異常に嫌う奥さんがモデルだと語っている。藤子・F先生の奥さんは、「ネズミ一匹いるだけで家に火を付けかねないくらい病的に」ネズミを恐れるというのだから、そのネズミ嫌いは本物である。
 その事実を知った私がまず思い浮かべたのが、「ネズミとばくだん」のエピソードだ。ご存じのとおり、この話でドラえもんは、ネズミへの恐怖心が昂ぶったあげく狂気じみた様子で〝地球はかいばくだん〟を取り出すのだが、そのドラえもんの取り乱した様子は、それこそ「ネズミ一匹いるだけで家に火を付けかねないくらい病的に」ネズミを恐れる奥さんの姿を強くイメージして描写されたものではないか、と思えるのだ。
 逆に、「ネズミとばくだん」で描かれたドラえもんの姿から、藤子・F先生の目の前でネズミを病的に恐れる奥さんの姿を連想してみるのも一興かもしれない(笑)



 そんなわけで、ドラえもんがネズミを嫌う理由は? と質問された場合、公式の設定では「工作用ネズミロボットに耳をかじられたから」(あるいは「ネズミに耳をかじられたから」)と答えることになるわけだが、創作上の理由として「藤子・F先生の奥さんが病的なネズミ嫌いだったから」と回答することも可能なのである。



※写真は、エポック社のコミックテイストフィギュア・ドラえもん第1弾の中の「ネズミとばくだん」




●新刊情報
先週末くらいから、『ミス・ドラキュラ』第2巻(ブッキング)が発売されている。全252話完全収録の決定版単行本で、全7巻の予定。第4巻までは、奇想天外コミックス全4巻(1980年〜81年発行/絶版)と同じ収録内容だが、第5巻から単行本未収録ゾーンに突入する。

*1:ドラえもんの耳が工作用ネズミロボットにかじられた経緯ドラえもんがまだ未来の世界にいる頃のこと。ある日セワシは、粘土でドラえもんの人形を作っていた。ところが、どうも耳だけがうまく作れない。そこでセワシは、工作用ネズミロボットに「このドラえもんの耳をもう少し似せたいんだけど」と指令する。その指令を誤って解釈した工作用ネズミロボットは、セワシが作りかけているドラえもん人形のいびつな耳の形に、本物のドラえもんの耳を似せるのだと判断。本物のドラえもんの耳にかじりつき工作を始めてしまう。おかげでドラえもんは、耳をボロボロにされ、それが原因で耳を失ってしまう結果となった。

*2:てんとう虫コミックスアニメ版『映画2112年ドラえもん誕生』小学館・1995年発行