もう5日前のことになるが、9月1日(金)のアニメ『ドラえもん』は、「ドラえもん誕生日スペシャル!」だった。「ションボリ、ドラえもん」と「ハツメイカーで大発明」を合わせたオリジナルエピソード「のび太くん、さようなら! ドラえもん、未来に帰る…」が放送され、新生ドラでドラミちゃんが初登場を果たした。
今回は「ションボリ、ドラえもん」と「ハツメイカーで大発明」のレビューを書いたうえで、アニメの内容に簡単に触れておきたい。
【原作】
●「ションボリ、ドラえもん」
初出:小学三年生1981年4月号
単行本:てんとう虫コミックス第24巻など
喧嘩ばかりしているドラえもんとのび太を見かねたセワシは、しばらくドラえもんとドラミちゃんを交替させ、もしそれでうまくいけばドラえもんを未来の世界に呼び戻そうと考える。実際にドラミちゃんがのび太の元に来てみれば、優秀なドラミちゃんは、どんな場面でも適切にのび太の面倒を見ることができた。ドラえもんは「ドラミにはかなわないよ」と観念し、「のび太のためを思うなら、こうたいしたほうがいいんだ」と涙ながらに決意する。しかし、ドラえもんが未来へ帰ると知ったのび太は、「ぜったいに帰さない!!」とドラえもんに抱きつく。結局、ドラえもんとのび太は今までどおり一緒に暮らすことになり、いつものように喧嘩を繰り返すのだった。
「ションボリ、ドラえもん」は、そんな話である。
ひみつ道具を使って適切にのび太の面倒を見る能力は、ドラえもんよりドラミちゃんのほうがずっと優れている。ドラえもんがひみつ道具を出したところで、ろくな結果にならないことが多い。理にかなった考え方をすれば、のび太をより幸せにできるのはドラミちゃんのほうだ、と結論づけられるだろう。ところが、のび太は迷うことなくドラえもんと一緒にいることを望んだし、結果的に将来ののび太は、自立した大人に成長しささやかながらも幸せな生活を送れるまでになる。
そんなのび太の将来の姿を描いた作品のひとつとして、「45年後…」がある。私は、当ブログ2005年2月26日の記事で「45年後…」についてこのように書いた。
「45年後…」は、ドラえもんが未来の世界からのび太の運命を変えるためにやってきたことの結果が描かれた作品だともいえる。
ドラえもんは、弱点だらけののび太が元から持っていたちっぽけな強さを、社会のなかで自立し生活していける程度に引き出し育んだのである。これは、ドラえもんが未来のひみつ道具をのび太に貸し与え物理的に援助したことによる成果というより、ドラえもんという友達がいつもそばにいてくれた日常が、のび太の精神的な成長をゆるやかに促した所産だったと私には感じられてならない。たとえひみつ道具の影響があったとしても、それは良きにしろ悪しきにしろ、副次的なものであったと思うのだ。
http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20050226
のび太を自活できる大人へと成長させ、のび太の運命を幸福な方向へ引っぱり上げたのは、未来の便利なひみつ道具の力というより、ドラえもんとともにすごした日常のゆるやかな積み重ねだった、と私は思っている。「ションボリ、ドラえもん」は、そんな私の思いを補強してくれる、頼もしい一編なのだ。
●「ハツメイカーで大発明」
初出:小学三年生1981年10月号
単行本:てんとう虫コミックス第30巻など
ドラえもんとのび太が喧嘩して、怒ったドラえもんが未来の世界へ帰ってしまう。ドラミちゃんがのびたの様子を見にくるが、のび太の世話をし続けるのは無理だという。そこで、ドラミちゃんがのび太のために出したのが“ハツメイカー”である。欲しい道具を注文すると、その道具の作り方説明書を出してくれる機械である。ふだんはドラえもんの四次元ポケットからひょいと出てくるひみつ道具が、本作では、説明書を見ながらのび太が自分で作らねばならなくなったのだ。その点で、少し『キテレツ大百科』的なムードになっている。
ハツメイカーを使ってのび太が最初に作った道具が、“ゴキブリぼう”。いくら俊敏に動けるようになるとはいえ、ゴキブリの頭部に似た帽子をかぶるのは気持ちのよいものじゃなさそうだ。
最後に作られる“ドラえもんとなかなおり機”は、用途が実に個人的で限定的なのが可笑しいし、その道具の材料や機能が、まことにアナログで素朴だったりするのも楽しい。手を取りつけたランドセルを背負ったのび太は、その手によって、玉ネギの入った器に強引に顔を押しつけられ涙がポロポロ。さらに頭を押されつづけるのび太は、ドラえもんにペコペコと頭を下げることに。
ドラえもんと仲直りするためには“けっきょく ないてあやまるしかない”という結論も、その道具がのび太を泣かせて謝らせる方法も、ぜんぜん未来的じゃないところが逆に魅力的だ。
【アニメ】「のび太くん、さようなら! ドラえもん、未来に帰る…」
この話は、ドラミちゃんの登場を大々的に記念し、ドラえもんの誕生日を祝うために、原作の「ションボリ、ドラえもん」と「ハツメイカーで大発明を」をくっつけてオリジナル要素を加えたものだ。前半がおおむね「ションボリ、ドラえもん」、後半がだいたい「ハツメイカーで大発明」だった。一応ひとつづきの話なのに、前半と後半で脚本・演出・作画監督といった制作スタッフが異なっていたのが印象的だ。
ドラミちゃん初登場シーンは、タイムマシンの出入口がのび太の部屋の天井につながってしまい、ドラミちゃんが天井からドラえもんの上に落ちてくる、というものだった。こうしたドジをしてしまうところは、原作初期のドラミちゃんの性格を彷彿させるが、その後は、話の内容に従って真面目で優秀なドラミちゃんであり続けた。土管を持ち上げられるほどの馬力があることや、ゴキブリが大の苦手であることが、前半部で描写されていった。(本作では紹介されなかったが、ドラミちゃんは1万馬力で、ドラえもんは129.3馬力)
後半部は、ドラえもんが未来に帰ってしまったあとの話ということで、のび太の様子が変だったり、ドラえもんが元気を失ったり、といった描写がいくつも見られた。ドラミちゃんがハツメイカーを出す理由も、話の流れ上、原作とは違って、“今までと同じじゃいけないから、道具の作り方を教えてくれる道具を使ってのび太が自分で作るべき”というものになった。
原作では“ゴキブリぼう”を怖がらなかったドラミちゃんだが、今回は前半部でゴキブリ嫌いが紹介されたばかりとあって、“ゴキブリぼう”と聞いただけで怯えていた。
のび太とドラえもんが最後まで仲たがいしていたわけではないので、“ドラえもんとなかなおり機”は登場せず。
オチは、「ションボリ、ドラえもん」の「しょっちゅうけんかしても、ほんとはなかよしなのよね」というドラミちゃんの台詞で締められた。
ドラミちゃん初登場の話を特別版でやりたかったのは分かるが、別々に発表された2作品を強引につなげてオリジナル作品を作ってしまうやり方が望ましいとは思わない。今回は「ションボリ、ドラえもん」をしっかりアニメ化してくれたほうがよかった。