『のび太の恐竜2006』が「Invitation AWARDS 2006」を受賞

 雑誌「Invitation」2月号で、「Invitation AWARDS 2006」の受賞作が発表されている。
「Invitation AWARDS 2006」は、2005年12月から2006年11月までに発表された各ジャンルの映像作品に贈られる賞だ。「作品賞」と「個人賞」があって、「作品賞」は、映画賞、アニメーション賞、ドキュメンタリー賞、TV賞、CM賞、ミュージックビデオ賞、ゲーム賞の7ジャンルに分かれている。そのうちのアニメーション賞で、『ドラえもん のび太の恐竜2006』が、『時をかける少女』と同時受賞しているのだ。そして、両作の受賞にともなって、渡辺歩監督と細田守監督の対談が掲載されている。
 対談中で細田監督も述べているが、『ドラえもん』のような子供向けプログラムピクチャーはこうしたカルチャー雑誌の賞の対象から外れることが多い。それがこうやって受賞を果たしたというところに、私は意義深さと新鮮さを感じる。
 また同誌には、2006年日本映画興行収入上位作品が載っていて、『のび太の恐竜2006』は興行収入32億8000万円で8位であった。32億8000万円というのは、映画ドラの興行成績が「配給収入」から「興行収入」で発表されるようになった2000年以降で最高の金額ではないか。



「Invitation」といえば、前号(1月号)で「最強の漫画誌への挑戦 「モーニング」の25年」という特集が組まれていた。特集内に「モーニング25年史」なる年表が載っていて、これまで「モーニング」誌で発表された主なマンガ作品と作者が年ごとに紹介されている。両藤子先生は「モーニング」に連載を持ったことがないので年表中に名前は出てこないが、「モーニング」と完全に無縁だったわけではない。藤子・F・不二雄先生が2度だけ短編マンガを描いているのだ。
 創刊まもない1982年11月4日号(第5号)で発表された『昨日のオレは今日の敵』と、1983年1月13日号の『殺され屋』がそれである。下の写真はその号の表紙だ。

『昨日のオレは今日の敵』は、F先生の短編のなかでは比較的ライトなノリの作品で、12時間ずつズレた世界に住む自分同士(主人公は漫画家)が協力したり揉めたりしながら仕事を締切りに間に合わせようとするストーリーだ。作中で説明されるタイムトラベルの原理に対して、「そんな安直な!もしそんなネタでSFマンガをかいたら読者が承知しないよ」という主人公のセリフがあって、そのセリフが、実際にそんなネタで本作を描いてしまったF先生自身へのメタレベルの自己ツッコミになっている。そのセリフも含めて、本作では、締切りに追われて苦し紛れにあがく主人公とF先生の心理が重なって感じられる。


『殺され屋』は、“殺され屋”なる新手の裏職業の話。その仕事を遂行するための種々のトリックが披瀝されつつ、最後に意外な真相が明かされる。「なるほど、なるほど」と感心しつつ読んでいたら、最後にそのなるほど感が足元からひっくり返されるような感覚を味わうことになる。騙されるという体験を、心地よい驚きとともに堪能できる佳品だ。


 両作とも複数のレーベルで単行本化されているが、新しいところでは小学館の「藤子・F・不二雄 SF短編PERFECT版」第8巻で両作とも読むことができる。単行本化にさいして大きな描き換えはないが、「SF短編PERFECT版」と「雑誌初出版」を比べてみると、細かなところで些少な違いが見つかる。
『昨日のオレは今日の敵』は、初出では『昨日のおれは今日の敵』というタイトルで、「オレ」の部分がひらがなだった。また、「SF短編PERFECT版」での主人公のセリフ「頭脳が空転して、へんになりそうだ」は、初出では「頭脳が空転して 気がくるいそうだ」であった。「気が狂う」という表現を「変になる」とか「おかしくなる」に修正するのは、『ドラえもん』をはじめ他の藤子作品でもよく見られる事象だ。
「SF短編PERFECT版」より前に発売された単行本では、当該セリフは初出と同じ「気がくるう」のままであった。


 そして『殺され屋』。「SF短編PERFECT版」で「極道会」「任侠組」という暴力団名が出てくるが、これは初出では「東声会」「八州組」だった。初出ではなんとなく実際にありそうな組名だったものが、単行本ではヤクザ一般を示す記号的な組名に変わっているのだ。


『昨日のオレは今日の敵』は、初出で「未来研究法シリーズ」というシリーズ名が冠されている。ところが、このシリーズの第2作にあたるはずの『殺され屋』では「SFファミリー劇場」と変わっており、結局、同シリーズは『殺され屋』以降まったく発表されなかった。