お医者さんごっこ

   

 これは、「オバケのQ太郎のおいしゃさん」という玩具である。要するに、お医者さんごっこをして遊ぶキットだ。昭和60年頃、3作めのアニメ『オバケのQ太郎』が放送されていた当時に発売されたものである。


 箱のなかに、聴診器、額帯鏡、注射器、薬などが入っている。もちろん、ただそういう形に作られているだけで、実際には聴診器や注射器の機能は備えていない。そういうフリをして遊びましょう、というものである。
 額帯鏡は、医者が頭につける円形の鏡である。医者の姿を絵にするとなると、よく額帯鏡をつけた格好で描かれることがあって、一般的に額帯鏡は医者らしさを象徴する器具なのだが、現実にこの額帯鏡を使っているのは耳鼻咽喉科のお医者さんのみで、しかも現在は徐々に廃れる方向にあるそうだ。


 子どものころお医者さんごっこをやった思い出をお持ちの方もいるだろう。
 藤子マンガでは、やはり『ドラえもん』で印象的なお医者さんごっこのシーンが見受けられる。「のろいのカメラ」(てんとう虫コミックス4巻)では、ガン子とジャイ子が、しずちゃんからもらった人形を患者に見立ててお医者さんがごっこをする。(この人形は、のろいのカメラで作ったものである) ガン子とジャイ子のお医者さんごっこはなかなか過激なもので、熱が800度もあると診断して人形を冷蔵庫で冷やしたり、手術をするのに包丁やのこぎりを使って人形をばらばらにしようとしたりと、ちょっとした残酷ショーの趣である。
「お医者さんカバン」(20巻)では、そのサブタイトルが示すとおり、お医者さんカバンというひみつ道具が登場する。これは、未来の子ども達がお医者さんごっこをして遊ぶためのものだが、遊びとはいえ通常の病気であればたいがい治せてしまうため、現代の水準で見れば、お医者さんごっこというより医療行為そのものと言ったほうがよいかもしれない。
「お医者さんカバン」は、しずちゃんを診てあげるという口実で、しきりにしずちゃんの服を脱がせたがるのび太のスケベな思惑が描かれたお話でもあるw のび太がお医者さんカバンを使ってやりたかったことは、自分のスケベ心を満たすことそれのみだったと言っても過言ではないだろう。 
 この道具は、「恐怖のディナーショー」(41巻)にもちらりと出てくるが、そこでは「お医者ごっこかばん」という名称にマイナーチェンジされている。
 大長編ドラえもんにも出てきたりして、比較的登場回数の多いひみつ道具といえるだろう。