ぴっかぴかコミックス『ドラミちゃん』

koikesan2007-08-01

 ぴっかぴかコミックスドラえもんスペシャル『ドラミちゃん』が発売された。


『ドラミちゃん』という作品は、今どきの表現で言ったら“『ドラえもん』のスピンオフ作品”ということになるだろうか。『ドラえもん』の作中では脇役のドラミちゃんを主人公に抜擢し、「小学生ブック」という雑誌(「小学館BOOK」の時期もあり)で8回にわたって連載されたのが『ドラミちゃん』なのである。
 その『ドラミちゃん』を、『ドラミちゃん』という題名で初めて単行本化したのが、このぴっかぴかコミックス『ドラミちゃん』というわけだ。


 わざわざ『ドラミちゃん』というタイトルで刊行されるのだから、内容的にも描き換え前の初出バージョンが収録されるのでは… と幾人もの藤子ファンが淡い期待を抱いた。けれど、その期待はかなわず、てんとう虫コミックス収録時に描き換えられた単行本バージョンが収録されたのだった。
 


 なぜ描き換え前の初出バージョンにこだわるかというと、『ドラミちゃん』という作品は単行本収録時にキャラクターの顔や名前が大幅に描き換えられていて、ストーリーは同じながら別物のテイストがあふれているからだ。
『ドラミちゃん』初出バージョンでドラミちゃんが居候する先は「のび太郎」という少年の家である。のび太郎は、のび太の遠い親戚にあたり、顔はのび太そっくり。その他のレギュラーキャラクターも、『ドラえもん』でお馴染みのメンバーと違い、かわいい女の子は「みよちゃん」、ガキ大将的キャラは「カバ田」、気障で嫌味な役回りは「木鳥高夫(ズル木)」というキャスティングだった。のび太郎のママの名前は「野比のぶ子」だった。


 そのような設定の『ドラミちゃん』初出バージョンだったが、それが単行本(てんとう虫コミックスドラえもん』)に収録されるにあたって、『ドラえもん』の設定と辻褄を合わせるため、レギュラーキャラクターの名前や顔が大きく描き換えられることになった。


 描き換えの事例を以下にあげよう。

のび太郎→のび太

・みよちゃん→しずちゃん

・カバ田→ジャイアン

野比のぶ子→野比玉子

 この描き換えの方法にならえば、木鳥高夫(ズル木)はスネ夫に変更されるはずだが、木鳥高夫は木鳥高夫のまま単行本に収録された。(ちなみに、木鳥高夫(きどりたかお)は、初出時には「ジャリっ子歌じまん」の司会者から「木島高夫(きしまたかお)」と呼ばれている)
「ウラシマキャンディー」の話のなかでは、木鳥高夫ではなくチョイ役の少年の顔がスネ夫に描き換えられている。(それから、のび太郎のパパの顔が、のび太のパパの顔に描き直されている)


 そうした描き換えのさい、原則的にはキャラクターの顔と名前(キャラによっては身体)が変更されたのだが、のび太郎についてはのび太そっくりだったので名前だけが変えられた。

 てんとう虫コミックスの古い版を見ると、修正ミスによって「みよちゃん」「カバ田」「野比のぶ子」といった名前が残っている箇所が見られる。のび太がしずかちゃんのことを「みよちゃん」と呼んだり、ジャイアンのことを「カバ田」と言ったりするのを読んで、「あれ?」と違和感を抱いた方も多いのではないか。


 ぴっかぴかコミックス『ドラミちゃん』の収録作品は以下のとおり。

「テレビ局を始めたよ」(11巻)
「地ていの国たんけん」(5巻)
「とう明人間目薬」(8巻)
「海ていハイキング」(4巻)
ネッシーが来る」(6巻)
「ウラシマキャンディー」(9巻)
「山おく村のかい事けん」(7巻)
「ションボリ、ドラえもん」(24巻)


()内は、てんとう虫コミックスドラえもん』の収録巻

 このうち「ションボリ、ドラえもん」は、『ドラミちゃん』として発表された作品ではないので、「この8話のうちで仲間外れはどれだ?」という問題が出されたら、「ションボリ、ドラえもん」ということになろう(笑)

 
 それにしても、『ドラミちゃん』が初出バージョンで収録されなかったのは、仕方のないこととはいえ残念だ。
 もし初出バージョンで収録されるなら「『ドラえもん』の基本設定が固まった現在、『ドラミちゃん』の初出バージョンを出してしまったら子どもたちが混乱するかもしれない」「『ドラミちゃん』の原稿は描き換えのさい切り貼りされて初出の状態で残っていないだろうから、もし今回初出バージョンで収録するとしたら雑誌から復刻するしかないのでは」と気がかりなところもあったのだが、マニア的こだわりの見られるぴっかぴかコミックスからわざわざ『ドラミちゃん』というタイトルで単行本が出るとなれば、「初出バージョンが収録されるのではないか!」と否が応でも期待が膨らんでしまうというものだ。
『ドラミちゃん』の第1話である「じゅん番入れかわりき」(単行本未収録)が収録される絶好のチャンスでもあったのに…



 付記しておくが、こうしてちょっと期待外れな気持ちを抱いたのも、それだけぴっかぴかコミックスに期待と信頼を寄せていることの証しなのだ。ぴっかぴかコミックスがマニア的なツボを押さえた編集をやってきてくれた実績を評価しているから、今度の新刊にも期待したのだ。
 
 と、期待がかなわなかったことを強調してしまったが、今回発売された本は、ぴっかぴかコミックス本来の読者対象である子どもたちにはまっすぐに愛されるかもしれない。表紙は可愛くて賑やかだし、ドラミちゃんの登場するお話をまとめて読めるので、女児が原作を読みはじめる入口として好ましい気がする。