椎名高志『絶対可憐チルドレン』と『エスパー魔美』

 1月31日の日記で藤子・F・不二雄先生の『エスパー魔美』の影響を受けた漫画家という観点から、谷川史子さんの『くらしのいずみ』を紹介しました。今回も『エスパー魔美』からの影響を明言している漫画家の作品を紹介しましょう。
 2005年から現在も「週刊少年サンデー」に連載中の『絶対可憐チルドレン』、作者は椎名高志さんです。


 椎名作品では、長期連載となった『GS美神 極楽大作戦!!』や、短編作品をまとめた『(有)椎名百貨店』などが特に好きですが、この『絶対可憐チルドレン』も単行本を買って読んでいます。現在15巻まで刊行(16巻は3月18日ごろ発売予定)。私は観てませんが、テレビ東京系でアニメも放送中ですね。放映終了が近づいているようですけど…。


 椎名高志さんに対しては「藤子Fファンであることを自認する1960年代生まれの人物」という点で、少なからず共鳴するところがあります。椎名作品を読んでいると、藤子Fマンガの遺伝子がところどころで感じられ、私のツボをキュンと突いてくれます。たとえば短編集『(有)椎名百貨店』に収録された『ポケットナイト』『乱破S.S.』などは、特殊な能力を持った非日常キャラがノーマルな少年少女の家庭に居候するという大枠の設定が、ベタなまでに藤子マンガチックですし、『長いお別れ』は、フタバスズキリュウをフィーチャーしたりタイムパラドックスネタだったりするところでF先生の『ドラえもん』やSF短編を思い出させてくれます。
『長いお別れ』で見られる“未来の自分が助けに来てくれることを当てにする”というアイデアは、藤子F先生の短編『あいつのタイムマシン』における“未来の自分がタイムマシンの作り方を教えに来てくれるのを待つ”という発想と相通じるものがあります。大長編ドラえもんのび太の大魔境』のラストでも、それに似たアイデアが見られますね。そうした“現在の自分の窮状を未来の自分に助けてもらおう”という考えは、限りなく他力本願のようでありつつ究極の自力救済でもあって、そんなパラドキシカルなところが面白いのです。


絶対可憐チルドレン』は、藤子ファン視点で読むと、“エスパーの美少女が主人公”という基本設定などから、否応なく『エスパー魔美』を連想させます。椎名さんは、藤子Fマンガの中でも『エスパー魔美』が特に好きな作品の一つだと語っています。そして、『絶対可憐チルドレン』の作中で具体的なエスパー魔美ネタが見られたりもします。
 瞬間移動能力者の野上葵が超能力を行使するとき、親指と人差指と小指を立てるシーンがあって、その指の立て方はエスパー魔美が超能力を使うときのポーズを彷彿させます。また、超能力を使って登下校することを禁じられた葵が「なんで!?ええやん、それくらい!! 魔美ちゃんかて、やってるやん!?」なんて抗議するシーンもあります。
 単行本第5巻所収の「ナショナル・チルドレン」なんて、はっきりとした『エスパー魔美』オマージュのエピソードでして、椎名さんは自分のブログでこのように書いています。(椎名さんがブログで言及しているのはアニメ版のようですが…)

「あちこちに藤子・F・不二雄先生の名作『エスパー魔美』へのオマージュを盛り込んだエピソードで、魔美ファンの方にはハザマローン社長やパパの疎開人造湖の透視など、いくつか連想していただけるのではないかなと。
『魔美』ではまだ、父親の世代が戦争体験あるんですよね。魔美の超能力がささやかな奇跡を起こして、戦争の傷をほんの少し癒す手助けをする・・・・藤子・F先生の物語は本当に美しいです。『チルドレン』では〈国境や世代を超えて、みんなが特別で大切な「チルドレン」〉というテーマに組み立ててみました。」
 http://cnanews.asablo.jp/blog/2008/07/20/3639313


 超能力を持った人間は一般社会の中で異端視されるとか、エスパーの美少女をサポートする非超能力者の頭脳優秀な男性がいるとか、そんなところからも『エスパー魔美』風味を感じます。パンチラが多いのも藤子Fチックかなあ(笑)
エスパー”という素材そのものや、“エスパーと普通人の協調あるいは対立”といったテーマからは、『エスパー魔美』とか藤子F作品に限らず、往年の超能力SFへのオマージュが浮かび上がります。椎名さんは、『絶対可憐チルドレン《解禁》ガイドブック』(2008年)のインタビューで、自分が超能力の知識を得た作品として『エスパー魔美』『幻魔大戦』『バビル2世』『地球へ…』を挙げています。作品名を見てるだけでグッときます。
絶対可憐チルドレン』は、そうした古典的とも言えるSF設定をベースにしながら、そのうえで21世紀を迎えた現在の少年マンガとして活きのよさや面白さを備えた作品です。
 最高レベルの超能力をもった3人の少女・薫、葵、紫穂のかわいらしさと奔放な性格が魅力的。まだ小学生の彼女らの世話をする皆本光一との関係も面白いです。皆本は、彼女らのわがままぶりや個性の強さに手を焼き、ときにはひどい虐待を受けつつも、互いに信頼し合い絆を深めていきます。
 彼女らの未来を予知的に描く場面があったりして、いったい彼女らはどんなふうに成長していくのだろうという興味も喚起されます。



 超能力者とノーマルな人々の軋轢、超能力者同士の戦いといったハードなテーマを持ちながらも、作品の雰囲気はいたってコミカルで明るいです。椎名高志お得意のコメディ的なノリや、迫力あるバトルシーン、ラブコメ次元のお色気など、少年漫画ど真ん中の魅力があふれていると感じます。