『愛…しりそめし頃に…』夢の79

ビッグコミックスペリオール」6月26日号の『西原理恵子人生画力対決』第5回は、5月25日新宿ロフトプラスワンで行なわれた藤子不二雄A先生と西原理恵子さんの対戦の模様をレポしています。A先生が描いたゴルゴや石川遼くん、のらくろなどが見られます。A先生画ののらくろに対する「どこの犬だよ」という赤文字ツッコミが笑えました。



 12日(金)ごろ、藤子不二雄A先生の『愛…しりそめし頃に…』連載中の「ビッグコミックオリジナル」7月増刊号が発売。
(以下、今号の『愛…しりそめし頃に…』の内容に触れていますので、未読の方はお気を付けを)



 



 今号の『愛…しりそめし頃に…』は、夢の79「漫画の描き方」。満賀道雄才野茂がする仕事はこれです!

 講談社「ぼくら」の編集者・富江氏から、漫画の描き方を指南する漫画を描いてほしいと依頼されて『マンガニカ』を執筆するのです。
 最近の『愛…しりそめし頃に…』は、現実の藤子先生がトキワ荘を出たあとの昭和40年代のエピソードを、トキワ荘時代の出来事として描く事例が目立ってきていますが、今回もそのパターンでした。満賀と才野が描いた『マンガニカ』は、現実には「少年」昭和42年9月号の付録で発表されたものなのですが、今回の作中では『海の王子』を「週刊少年サンデー」に連載中の時代の仕事として描かれています。現実の藤子先生が『海の王子』を「週刊少年サンデー」に連載していたのは昭和34年から36年のことでしたから、短くとも6年以上の時代のズレがあるわけです。
 昭和36年と昭和42年のあいだは、トキワ荘から川崎市生田へ引越し、アニメ会社スタジオ・ゼロの設立、『オバケのQ太郎』の大ブーム、両先生の結婚などがあって、藤子先生の漫画家生活が途方もなく激変した期間なので、昭和42年に発表された『マンガニカ』が昭和30年代中葉の仕事として描かれると、なんだか、隔たった二つの時代が混在したような奇妙な感覚にとらわれます。
まんが道』も『愛…しりそめし頃に…』も自伝的なフィクションなので、事実と違うからといってどうこうというわけでないのですが、最近の『愛…しりそめし頃に…』の、昭和40年代の出来事をトキワ荘時代の出来事として描くアクロバティックな手法には目を見張るばかりです^^ A先生が愛好する画家マグリットは、本来出会うはずのない二つのものを出会わせることで見る者を驚かせたり不思議がらせたりする手法を用いていました。その手法をデペイズマンといいますが、A先生もまさに、本来出会うはずのない二つの時代を出会わせて読者を攪乱しているわけで、これはやはり一種のデペイズマンではないかと思ったりするのです。
 作中では、『マンガニカ』は講談社「ぼくら」夏の増刊号のフロクとして描かれたことになっていますが、すでに述べたように、現実には光文社「少年」のフロクとして発表されています。
 はてさて、次号以降の『愛…しりそめし頃に…』ではどの時代のどの出来事がトキワ荘時代の出来事として描かれるか、楽しみなような怖いような気分です(笑)