F全集『ジャングル黒べえ』、ついに発売!

 25日(火)、藤子・F・不二雄大全集第11回配本の2冊が発売されました。『ジャングル黒べえ』全1巻と『海の王子』第3巻です。


◆『ジャングル黒べえ
 
 http://www.shogakukan.co.jp/fzenshu/kurobe.html


 1989年に黒人差別をなくす会から抗議を受けたことに端を発し、その後長らく封印状態にあった『ジャングル黒べえ』がついに陽の目を見ました。これは大いに祝福したい出来事です。
 90年代から00年代にかけては、公の場ではあたかも「なかった」かのような扱いを受けることすらあった『ジャングル黒べえ』……。ほんとうはおおらかで愉快な作品なのに、“封印作品”というバイアスから、どこか危ない作品、なんだかやばい作品であるかのようなまなざしを浴びることもありました。ファンとしてそういう状況に悲しい思いを抱いてきただけに、このたびの『ジャングル黒べえ』復活は非常に感慨深いです。


 F全集版『ジャングル黒べえ』は、これまでてんとう虫コミックス(『バケルくん』第2巻に併録)や藤子不二雄ランド全1巻に収録されなかった話もすべて収録した完全版単行本です。この1冊でF先生が描いた『ジャングル黒べえ』を全話まとめて読むことができます。「よいこ」「幼稚園」で発表された幼年版はすべて今回が単行本初収録になりますし、「毎日新聞大阪版」に連載された4コマ版『ジャングル黒べえ』まできっちり拾い上げています。


 本作の主人公・黒べえは日本の常識を解さずジャングルの常識で行動します。その常識のズレ具合から、おかしみが生じます。黒べえは魔法を使えるのですが、その魔法がたいてい失敗したり妙な結果を招いたりするところにも本作のおもしろみがあります。とんでもないことをやらかして周囲に迷惑をかける黒べえですが、黒べえには何の他意も悪気もなく、いつも「よかれ」と思って行動します。だから、黒べえが何をやらかしても、まったく憎めないキャラクターなのです。

 
 藤子F先生が証言しているように、『ジャングル黒べえ』はアニメ企画が先行した作品でした。東京ムービーからF先生のところに企画が持ち込まれたのです。F先生は、アニメ用のシノプシス(あらすじ)と雑誌連載用のマンガの執筆を依頼されました。“ジャングルの野生児・黒べえが東京へやってくる”という設定はすでに決まっていたので、F先生はその設定に肉付けをしてお話をつくっていく役割でした。自分自身でこしらえたキャラクターではないので最後までのりきれなかった、とF先生はおっしゃっています。
ジャングル黒べえ』の元となった原案を宮崎駿氏が担当していたというのは、『ジャングル黒べえ』関連の豆知識としてファンの間でたまに話題になります。このことが判明したのは、アニメーター・大塚康生氏が著書『リトル・二モの野望』(徳間書店、2004年)で次のように書いていたからです。

ジャングル黒べえ」はもともとAプロに入ったばかりの宮崎さんが出した企画でした。チッカとポッカという小人二人が都会の普通の家庭の天井裏に住み着いて起こす珍騒動の物語でした。これを楠部三吉郎さんが、主人公をアフリカの原住民の黒べえが日本にやってきた話に翻案して「ジャングル黒べえ」とし、雑誌原作のために藤子不二雄さんに提供、テレビアニメ番組と同時にマンガ連載をスタートさせたという企画でした。

 この文章に出てくる「楠部三吉郎さん」は、シンエイ動画の創設者である楠部大吉郎氏の弟さんで、現在のシンエイ動画代表取締役会長です。
 宮崎駿氏が企画を提案したこの物語は、『屋根の上のチッカポッカ』という仮題がつけられていました。“チッカとポッカという小人2人が主人公”という設定だったみたいですが、これが『ジャングル黒べえ』では“小人”という要素が継承されたうえで“主人公は黒べえ1人”ということになりました。あとでサブキャラの弟・赤べえが加わって、結果的に小人は2人になるわけですが…。さらにアニメでは後半に黒べえのライバル・ガックも加わってますます賑やかになります。
 また宮崎氏の原案では、“主人公の小人が普通の家庭の天井裏に住み着く”という設定でしたが、『ジャングル黒べえ』ではそれが変形して“主人公の小人が普通の家の庭に設置された巣箱に住み着く”という話になっています。
 アニメ脚本家の辻真先氏も、この企画に携わりかけた一人だったようで、著書『ぼくたちのアニメ史』(岩波ジュニア新書、2008年)でこう書いています。

今となっては秘話でしかないが、藤岡の音頭取りで演出は高畑・宮崎、脚本は雪室俊一藤川桂介、それにぼくが新企画で顔を合わせたことがある。仮題は『屋根の上のチッカポッカ』……日常世界に小人が紛れ込む設定だったと思う。

 文中の「藤岡」とは、東京ムービー設立の中心人物でアニメプロデューサーとして辣腕をふるった藤岡豊氏のことです。「高畑」はもちろん高畑勲氏。


 このように、『屋根の上のチッカポッカ』は、錚々たる顔ぶれが集まって企画が進められようとしていたのでした。しかし何らかの理由で話がうまくまとまらなかったようで、それが紆余曲折を経て形を変え、『ジャングル黒べえ』となって藤子F先生のところへ企画が持ち込まれたわけです。


 【追記(重要)】
 『屋根の上のチッカポッカ』と呼ばれていた企画は、正式には『頭の上のチッカとボッカ』という仮題だったことが判明しました。2016年にまんだらけオークションで『頭の上のチッカとボッカ』の設定原画が出品されたのです。
 https://ekizo.mandarake.co.jp/auction/item/itemInfoJa.html?index=383595
 したがって、私が上の記事で書いた『屋根の上のチッカポッカ』という表記も、正しくは『頭の上のチッカとボッカ』だということになります。



ジャングル黒べえ』封印解除の波は、黒べえフィギュア化という朗報をももたらしました。

VCD ジャングル黒べえ(メディコム・トイ)
 参考小売価格¥4,725
 原型製作 PERFECT-STUDIO 全高約170mm
 2010年6月1日より全国のローソンLoppiにて、数量限定で先行予約が開始。
 http://www.bearbrick.com/vcdkurobe/
 http://www.lawson.co.jp/loppi/

 これまで数々の藤子キャラを精巧な再現力でフィギュア化してきたメディコム・トイから、ジャングル黒べえのフィギュアが発売されるのです。6月1日からローソンのLoppiで先行予約が開催される模様。ただでさえローソンでは6月から藤子・F・不二雄キャラクターフェアが始まって、欲しいグッズがたくさん出るのに、そのうえでジャングル黒べえのフィギュアとは、まったくもって嬉しい悲鳴です(笑)
 昨年2月にメディコムトイから二本足の象・パオパオのフィギュアが発売されました。このパオパオは『のび太の宇宙開拓史』に登場したキャラクターという扱いで商品化されたのですが、パオパオはもともと『ジャングル黒べえ』に登場したキャラクターなので、今度発売される黒べえフィギュアと並べて飾ることで『ジャングル黒べえ』の世界をかたちづくることができます。



◆『海の王子』第3巻
 
 http://www.shogakukan.co.jp/fzenshu/umino03.html

海の王子』第3巻は、学年誌に掲載されたバージョンを収録。全話単行本初収録という素敵な1冊です。
週刊少年サンデー」で連載されたオリジナル『海の王子』とはコスチュームやメカのデザインが違っていて、一味違う『海の王子』を堪能できます。
 F全集『海の王子』はこれにて完結。



 藤子・F・不二雄大全集は、来月の第12回配本で第1期終了。8月から第2期に入ります。第2期の刊行作品はおおまかには発表されていますが、詳しい発売スケジュールは来月発表されます。