藤子アニメ上映会・岩渕まことコンサート

 26日(日)、藤子不二雄ファンサークル「ネオ・ユートピア」が主催する藤子アニメ上映会に行ってきました。

■ネオ・ユートピア 第10回藤子アニメ上映会
■日時:2010年9月26日(日)14:00上映開始
■会場:コール田無・多目的ホール


 2年に1度の恒例行事です。懐かしの藤子アニメや今まで見たことのないような貴重な映像をたっぷりと鑑賞できるうえ、全国から熱心な藤子ファンが大勢集まる交流の場としても魅惑的なイベントです。
 上映作品の感想は後日書くつもりですが、今回の上映会では第2部として「岩渕まことコンサート」が開催され、このコンサートに深く感銘を受けたのでそのことをまず記そうと思います。


 岩渕まことさんは、藤子ファンにとっては映画ドラえもんの初期作品『のび太の宇宙開拓史』(1981年)、『のび太の大魔境』(82年)、『のび太の海底鬼岩城』(83年)の3作のテーマソングを歌った歌手として記憶に刻まれている方です。
『宇宙開拓史』のテーマソングは「心をゆらして」、『大魔境』は「だからみんなで」、『海底鬼岩城』は「海はぼくらと」です。どの歌も、武田鉄矢さんが作詞をし、言葉だけでもすばらしいのですが、そこに菊池俊輔さんの美しい曲がつき、岩渕さんのぬくもりに満ちた歌声で歌われることで本格的に魂がこもって、聴く人の心を深いところでつかむのです。


「心をゆらして」は、のび太ドラえもんたちがコーヤコーヤ星から地球へ帰るシーン… すなわちコーヤコーヤ星の住人であるロップルくんやクレムやチャミーたちとの別れのシーンでゆったりと流れてきて、ただでさえ心震えるこのシーンをさらなる名シーンへと高めています。
 ――超空間のねじれによって偶然にもつながったのび太の部屋の畳の下とロップルくんの宇宙船の倉庫の扉…。のび太の暮らす地球とロップルくんの住むコーヤコーヤ星は、お互いに名前も場所も知らなかったほど遠く離れた星だ。
 そんな両者が仲良くなって交流を深め、力を合わせて命がけの戦いに挑み、勝利をおさめ、そうして訪れる別れのとき。地球とコーヤコーヤ星をつないでいた出入口はしだいに隙間が開いていき、もうしばらくしたら完全に離れ離れになってしまいそうだ。のび太たちは地球へ帰らねばならない。
 もう二度と会えないであろうロップルくんたちと別れを惜しんだあと、いよいよ超空間に飛び込もう…というそのタイミングで「心をゆらして」が流れてきます。ロップルくんたちと一緒にすごした楽しい日々が回想され、かろうじてまだつながっているあちらとこちらで、クレムがのび太に教えてもらったあやとりを披露し、のび太がクレムからもらった雪の花を掲げる。そうして完全に二つの星は切り離され、互いの姿がまったく見えなくなる――
「心をゆらして」は、そんな映画のラストシーンと一心同体の結合力で私の胸に刻み込まれています。


「だからみんなで」は、『のび太の大魔境』のテーマソングという点でも当然ながら思い出深いのですが、個人的には映画の内容と切り離した単独の一曲としてよく愛聴した時期があって、この曲は10代の私を励ましてくれた応援歌のような存在でした。自信を喪失したとき、自分や他人を嫌いになりそうになったとき、なかなか前へ進めなくなったとき、「だからみんなで」を聴くと心が励まされました。
 抱えている問題が一気に解決するわけではないけれど、「だからみんなで」を聴いていると、少しだけ自信を取り戻せそうな、嫌いになりかけたものをもう一度好きになれそうな、一歩だけ前へ踏み出せそうな、そんな気持ちになれたのです。


 そのように自分の人生のなかで重要な歌、とくに思春期の自分を支えてくれた歌を、40歳を超えた現在になって、オリジナルの歌い手さんのライブで聴けるなんて、なんと素敵なことでしょう。
 過去の思い出を胸に、午後7時半から始まる岩渕まことコンサートを待ちました。


 岩渕まことさんがステージに登場される前に、岩渕さんが歌うこの3曲が劇中歌として使われたアニメ『エスパー魔美』の「スランプ」(1987年9月29日放送)が上映されました。
 劇中で曲を歌う歌手の名は「任紀高志」。
 任紀高志が話す通常のセリフは声優さんが声をあてているのですが、彼が歌う段なると岩渕さんの歌声になります。
 ――かつて人気歌手だった任紀高志は、人に騙され莫大な借金を抱え、人間不信になって人を寄せ付けず、人気も落ちぶれて、自分の持ち歌を質に入れて糊口を凌ぐような生活を送っていた。
 ある夜、彼は自殺を決意し、売りに出されている自宅の部屋に忍び込んで、たったひとりの最後のパーティーを開く。そこに、若い男が侵入してくる。この男は、つらいことが重なって自棄を起こし交番からピストル盗んで追われている身だった。
 若い男は、ピストルでひとりでも多くの人を撃ち殺して自分も死ぬ気だったが、人生のフィナーレのつもりで歌い始めた任紀高志の歌を聴いて心揺さぶられ、やりなおしを決意し自首をする。その姿を見た任紀高志は、自分の歌にまだ人の胸を打つ力があることに気づき、自分も人生のやりなおしを決めるのだった――
「スランプ」とは、そんなお話です。


「スランプ」の上映が終了し、ついに岩渕まことさんがステージに登場! 岩渕さんは開口一番、「こんばんは、任紀高志です」と自己紹介をされました。
 これには場内がドッとわきました。なにしろ観客は藤子ファンばかり、しかも今「スランプ」を観終えたばかりのホットな状況ですから、「任紀高志です」の自己紹介は皆のハートをわしづかみです。
 岩渕さんは、衣装まで任紀高志に合わせておいででした。劇中の任紀高志が新曲発表会で身につけていた白いスーツと赤い蝶ネクタイといういでたち。
「任紀高志です」の挨拶は、集まったファンへのリップサービスであるとともに、このコンサートでは本気で任紀高志として歌うという真摯な宣言だったように感じられました


 最初に歌われたのが「海はぼくらと」。もうこの時点で胸にグッと来てしまって、次の「だからみんなで」を聴いたときは涙ぐまざるをえない状態でした。「泣いてるきみに〜♪ なにもできない〜♪」のあたりでその気持ちが最高潮を迎え、ラストの曲「心をゆらして」を大いなる心の高揚とともに聴き入りました。
 30分あまりの短い時間でしたが、これこそ珠玉というべきコンサートでした。このコンサートを体験してしまったことで、今後CDやビデオなどで「だからみんなで」や「心をゆらして」に触れるたびに、今まで以上に涙がこぼれやすくなりそうです^^


 岩渕さんは、通常のご自身のライブのなかで「心をゆらして」を歌われることがあるのですが、「だからみんなで」と「海はぼくらと」に関しては歌うのがほとんど当時以来、とのこと。これを機に、あちこちのライブでこの3曲を歌ってくださるようになるといいなあ、なんて思ったりします。
 岩渕さん、ほんとうにありがとうございました。
(岩渕さんもご自身のブログでこのコンサートのことを書いておられます)
 http://makotobox.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/post-f765.html



 そのほか、今回の上映会では個人的に大きな出来事がありました。上映会のなかで行なわれたプレゼント抽選会で、一等賞に該当する賞品が当たったのです。自分の番号が読み上げられたときは会場内でバンザイしてしまいました(笑)
 その賞品がこれです!
 
 
 映画ドラえもんのび太の新魔界大冒険 〜7人の魔法使い〜』の作画監督や今年公開された『のび太の人魚大海戦』のキャラクターデザインを担当されたアニメーター金子志津枝さんの直筆イラストが当選したのです。金子さんは、しずかちゃんをはじめいろんなキャラクターを極めてかわいらしく描くことで定評のあるアニメーターさんです。その直筆のイラストが当たったのですからなんたる幸運! 綺麗な色遣いに見入ってしまいます。