森安なおやの評伝本発売!

 
 トキワ荘レジェンド漫画家の一人・森安なおや先生の生涯を追った評伝本『「トキワ荘無頼派 漫画家・森安なおや伝』(伊吹隼人著、社会評論社)が20日ごろ発売されました。森安先生の代表作の一つ『赤い自転車』(全127ページ)を併載しています。
 岡山ですごした少年時代、上京、田河水泡へ弟子入り、トキワ荘時代、漫画家廃業、職を転々、NHKの番組出演、晩年の生活、そして訪れる死……。本書では、そうした森安先生の生涯が克明に綴られています。

■「トキワ荘無頼派 漫画家・森安なおや

著者名 伊吹隼人著
発売 社会評論社
判型 A5判並製
頁数 280 頁
税込価格 2,415円[予価](本体2,300円+税)


内容 「トキワ荘」の伝説は終わらない・・・! !
のらくろ」作者の田河水泡に師事、寺田ヒロオ藤子不二雄赤塚不二夫石ノ森章太郎たち「トキワ荘」での青春。
時代とその個性ゆえ導いた挫折…「廃業」後の40 年、孤独死にいたるまでの生涯を追ったノンフィクション。終生描き続けた、「孤高のまんが道」。
代表作「赤い自転車」127 頁・完全収録。奇跡的に残った原本から復刻!!
※本書は2本立てです(ノンフィクション+復刻マンガ)


目次
ある無名漫画家の死
岡山から始まった?まんが道?
田河水泡門下をへて独立へ
「新漫画党」結成と学童社の倒産
輝ける青春・「トキワ荘」の時代
貸本漫画衰退、漫画家廃業を決意
夜の世界と流転の日々
トキワ荘解体、ドキュメンタリー番組出演
晩年の生活と『烏城物語』


併載 『赤い自転車』 森安なおや・作
森安なおや作品リスト


復刊ドットコム
http://www.fukkan.com/fk/CartSearchDetail?i_no=68314227

 私をはじめ藤子ファンの多くが「森安なおや」の名を知りこの人物に親しみをおぼえるようになるのは、藤子不二雄A先生の自伝的マンガ『まんが道』を読むことによってでしょう。『まんが道』がなければ「森安なおや」の存在を知るのはもっとずっと後のことだったと思いますし、知ったとしてもこれほど親しみや興味をおぼえることはなかったでしょう。森安先生はもとより寡作だったうえプロ漫画家として活動したのが主に昭和30年代のことで、私が物心ついた時分にはとっくに漫画家を廃業していました。森安先生の作品が単行本などで流通していたわけでもなかったため、その存在を認識するのは困難だったのです。
 やはりA先生が『まんが道』を描き、エッセイやインタビューなどでトキワ荘時代の思い出を頻繁に語られたからこそ、「森安なおや」という漫画家を認識でき興味を抱けたわけです。


まんが道』での森安先生は、ちょっと厚かましいところがあるけれどのん気で憎めない風変わりな人物として描かれています。そのユニークな人物像と彼の描く牧歌的で民話的な作品とのイメージのギャップも印象的です。ふだんはのん気そうなのに時おり深刻な様子を見せるところや、「漫画少年」の休刊を知ったときの「キャバキャバキャバキャバ」という笑い声とその笑いに潜んだ失意なども心に残ります。
『愛…しりそめし頃に…』になると、主に満賀道雄の遊び友達として描かれることが多くなります。なぜか名前が「風森やすじ」と架空のものになっていますが…。


 1981年に放送されたNHK特集「わが青春のトキワ荘 〜現代マンガ家立志伝〜」では、職を転々としながらもなおマンガ執筆への情熱を持ちつづけ集英社に自作の持ち込みをする「森安なおや」の姿がドキュメンタリータッチで映し出されました。映像で森安先生の姿をこれほどたっぷりと観る機会は最初にして最後でした。


 そうやって森安先生がメディアに登場したことはあったものの、彼の生涯に関する記録・情報は断片的なものしかなく、彼の描いた作品もほとんどが埋もれていて現在まともに読まれる機会がない…というのが実情でした。
 今般刊行された『「トキワ荘無頼派 漫画家・森安なおや伝』は、森安先生について本格的にとりあげた最初の評伝本といってよく、彼の人生の真実に最も迫った一冊だと思います。昭和31年に貸本単行本として刊行された森安先生の代表作『赤い自転車』を完全収録してくれているのもありがたいところ。
 

 本書の言葉を借りれば、森安先生は「自分が描きたい時にだけ、描きたいものを描き続けた」頑固で奔放で不器用な人物でした。昭和35年にプロの漫画家を「廃業」し職を転々としながらも、その合間にマンガを描き、死の数年前からは小説の執筆もおこなって、晩年まで創作意欲を失うことはなかったといいます。
 生涯作家でありつづけようとした「森安なおや」の生きざまが、本書を読むことで伝わってきます。


 NHK特集「わが青春のトキワ荘 〜現代マンガ家立志伝〜」で森安先生の持ち込み作品が不採用になった裏事情や、この番組に出演したことで師匠の田河水泡先生が激怒して森安先生を「破門」したという話はショックでした。


 本書ではトキワ荘関連のエピソードもいろいろと書かれていますから、トキワ荘ファン、『まんが道』ファン、藤子ファンにとっても興味深いエピソードが満載です。
 晩年の森安先生の写真や色紙が掲載されているのも貴重。
 トキワ荘出身の漫画家は功成り名を遂げた人物が多く、だからこそトキワ荘は「漫画家の梁山泊」「マンガの聖地」と呼ばれるようになったわけですが、そんな華やかさのもと、“トキワ荘の陰”ともいえる存在が「森安なおや」でした。本書によって、森安先生の再評価が促されるといいなと思います。