辻村深月トークショー&サイン会

 12月9日、小説家・辻村深月さんのトークショー&サイン会に行ってきました。
 
 会場は愛知教育大学。「読書マラソンコメント大賞」という、大学生協による読書促進イベントの表彰式のなかで、辻村さんのトークショー&サイン会が行なわれたのです。


 辻村さんは、2004年、『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞してデビューしました。当初は「講談社ノベルス」のレーベルを舞台に小説を書いていましたが、その後一般文芸書でも作品を上梓するようになり、直木賞などにもノミノートされたことがあります。
 辻村さんは東京や大阪などでサイン会やトークショーを行なったことはあったのですが、愛知県でのイベント開催はこれが初めて。このチャンスを逃してなるものか、と出かけてまいりました^^


 私は、辻村さんの存在をメフィスト賞受賞時に知ってまずデビュー作を読み、3作目の『凍りのくじら』がドラえもんひみつ道具をモチーフにした作品だったことで我然注目度を増しました。作中に藤子・F・不二雄先生を敬愛するキャラクターが登場するのもうれしいところです。
 この『凍りのくじら』と次作の『ぼくのメジャースプーン』が、物語の面白さという意味でも、言葉のこまやかさという意味でも、感動の深さという意味でも、とても素敵な作品だったため、特に大好きな小説家の一人になりました。さらに、次の作品『スロウハイツの神様』も藤子ファン的関心を惹くもので、辻村さんはこの作品について「藤子不二雄A先生の『まんが道』が好きだったので、かの有名なトキワ荘のような、共同生活の場所を舞台にしました」と解説しています。
 

 さて、私は今回のイベントの会場である愛知教育大学へ行くため、名鉄知立駅からバスを利用したのですが、知立駅前のバス停に行くと、おおおおおおお! 辻村さんがバスを待っておられるではありませんか!!! 隣には編集者らしき女性の姿も。
 辻村さんは駅からタクシーで会場へ向かわれるもの、と勝手に思い込んでいたのでびっくりでした。そして、なんとラッキーなことだろう、と内心よろこびに包まれました^^
 バスの中では、辻村さんの席から近からず遠からずの席に座り、愛知教育大学前に着いてバスを降りてから「トークショー、楽しみにしてます!」とひと声かけよう、などと考えていました。
 そうしてバスを降り、辻村さんたちが歩いていくほうへ私も歩いていくと、バスにたまたま乗り合わせていた他のファンの方が「辻村先生ですか?」と声をかけたので、私はすかさずそこに合流(笑)
 愛知教育大学はキャンパスが広く、所定の建物にどうやって辿り着くのかわかりにくかったため、係の方が迎えに来てくれるまで4人でその場で立ち話となりました。
 私は、辻村作品との出会いや、なぜ好きになったかということを、ちょっと興奮気味に話したような気がします(笑)
 辻村さんに同行していた女性は、やはり講談社の編集の方でした。辻村さんに声をかけたファンの方は、東京からおみえとのこと。私は一人で参加したのですが、この時点で辻村さんと遭遇できたうえ、ファンの方と知り合えて、幸先がよすぎです^^
 辻村さんはドラえもんファンなので、ドラえもんの話でも盛り上がれました。『凍りのくじら』は講談社の本なのに小学館の看板である『ドラえもん』をモチーフにしていいのか…という葛藤があったとか、ドラえもんファンの皆さんがどう思ってくださるか心配もあった、といった話をしてくださいました。トークショーが始まる前のこの立ち話の段階で、私の心はすでに最高潮まで達してしまいました^^


 辻村さんのトークショーは、司会の学生さん2人の質問に答える形式で行なわれました。「賞に落ちたときのお気持ちは?(辻村さんは、直木賞吉川英治文学新人賞にノミネートされたことがあります)」「これまでの恋愛遍歴を教えてください」などなど、学生さんらしい率直な質問が辻村さんにぶつけられ、ひじょうに楽しく刺激的?なトークショーとなりました。司会の学生さん、グッジョブです!
 他に印象深いお話としては、
メフィスト賞に応募すると父に伝えたら、父はメフィスト賞なんて知らないはずなのに、第1回から最新回までの受賞作を買い揃えてくれた」
「デビュー当時は綿密に心理描写を書いていたが、だんだんと減ってきている。それは読者を信頼できるようになったから。今後は、心理描写を省いた行動描写だけの作品も書いてみたい」
「プロの作家になると、他作家の作品を純粋に楽しめなくなる場合もあるが、私は今も楽しめている。プロになったからといって、作品を分析的・評論家的に読むようになっていないのは、良かったと思う」
「(辻村作品には、知的で思慮深い登場人物が多い、と指摘されて)最近の作品には、DQNとかギャルと呼ばれるような人物も出している。深く考えることと考えないで行動することのどちらが上とも言えない。考えすぎないで行動できる人を凄いと思うようになった。頭のよさなんて、優しさに比べたら何の価値もない、と思う瞬間がある」
「クリエーターになりたいと考えている方は、あれこれ自己分析状態に陥るのではなく、こういうモノを創りたい!という初期衝動を大切にして行動に移してほしい」
「最も影響を受けた作家は、綾辻行人さん。『十角館の殺人』が一番好き。昨年刊行された『Another』がものすごく面白かった。今なお代表作と呼べる作品を生み出せるのが凄い。まだ読んでいない人がウラヤマシイ」
「ミステリーを書く作家は、読者に「だまされた!」と思ってほしいと思って書いている人が多いかもしれないし、それがミステリーの醍醐味でもあるが、私の場合は読者に「だまされた」と思わせたくない。謎が解き明かされた瞬間、もうひとつの主題がたちあらわれてくるような作品を書きたい。謎の解明は、もう一つの主題へのジャンプのようなもの、と考えている」


 辻村さんの小説は、ある作品に登場した少年が別の作品で大人になって登場する、といったふうな、作品を越境する登場人物のリンクがよく見られます。こういうことをする影響元の一つとして、藤子・F・不二雄作品を例に挙げられました。『パーマン』に小学生アイドルとして登場した星野スミレが、『ドラえもん』で大人になって登場したとき、すごく感動して号泣し、胸がいっぱいになった、とのこと。もちろん、それには私も大いに共感です。
 ドラえもんひみつ道具で一番好きなものは?との質問には「海外に出かけたらほんやくコンニャクが欲しくなるし、どこでもドアがあったら便利だなと思うこともあるけれど、今はタケコプターが好き。空をゆっくりと飛翔する余裕がいい」とお答えになりました。


 トークショーの次はサイン会です。私は持参した講談社ノベルス『凍りのくじら』にサインをしてもらいました。辻村さんのサインは、線の一本一本を丁寧に引いた几帳面なもの。
 
 サインを書いてもらっている最中は、今回『ぼくのメジャースプーン』を読み返して大泣きしました、という話をさせていただき、それから、「どくさいスイッチ」や「のろいのカメラ」など怖いひみつ道具の話で盛り上がりました。
 辻村さん「のろいのカメラを取りだしたときのドラえもんが凄いですよねえ」
 私「ええ、黒いドラえもんになってますよね^^」といった感じで。
 そのとき辻村さんは、講談社の編集者のほうを向いて「今度『ドラえもん』の本を貸すから、この話を読んでくださいね!」と言ってました^^
『凍りのくじら』では、作品の内容との関連で負のイメージのひみつ道具を多く使うことになったため、今度機会をいただけるなら、プラスのイメージの道具ばかりを使って作品を書いてみたい、ともおっしゃていました。これを聞いた編集さんと私は声を揃えて「それは楽しみです!」とリアクション^^


 辻村深月さん、会場で知り合った辻村ファンの皆様、幸せな時間をありがとうございました!
(ここに記した辻村さんの発言は、大意です。当日の記憶とわずかなメモを頼りに書いたので、不正確な記述もあるかもしれません。どうかご了解ください。)