名古屋で藤子不二雄A先生講演会!!!

 19日(土)、名古屋の東海高校・中学で開催された藤子不二雄A先生の講演会を聴講してきました。
 

 この講演は、東海高校・中学が主催する土曜市民公開講座「サタデープログラム」のなかの一講座として開講されたものです。「サタデープログラム」は、2002年に第1回が開催されてから回を重ね、今回が18回目になるそうです。今回の講座数は、細かく数えていませんが、ざっと50講座くらいある模様。
 A先生の他の講師では、たとえば、作家の椎名誠さん、タレントで国際比較学者のアントン・ウイッキーさん、脳科学者の澤口俊之さん、空想科学研究所の柳田理科雄さん、タレントの熊田曜子さんなどなど、有名どころのお名前も見受けられます。
 各講座の企画、交渉、運営などは基本的に同校の生徒が自主的に行なっており、生徒たちの手でこうした大規模な催しが運営されるというのは、さすが名門・東海高校・中学だなと思います。
 http://www.satprogram.net/index.html 


 A先生の講演は、午後2時から「百志館」という建物の5階・図書閲覧室で行なわれました。
 私は講演開始の3〜40分くらい前に会場に入ったのですが、その時点で前のほうの席はずいぶん埋まっていました。ところがありがたいことに、当ブログのコメント欄によく書き込んでくださる手島英雄さんが私の席を確保してくださっていて、なんと一番前の中央の席に座ることができました。A先生の目の前です。手をのばせば届きそうなほどに。手島さんには深く感謝です。
 講演が始まるまでは、主に手島さんと藤子トークを楽しんで過ごしました。


 いよいよ講演開始の時間です。会場の隅にA先生のマネージャーさんの姿が見えたので、もうすぐA先生が登場されるんだ!と実感。その瞬間ぐんと高揚感が増しました。
 そして、A先生が登壇! 白いテーブルクロスをかけた円形のテーブルに資料を置き、椅子に腰かけられました。会場は万雷の拍手。
 A先生のお話の前に、この講演会を主催する東海中学の生徒さんの挨拶がありました。『まんが道』や『少年時代』を読んで感銘を受けたとのこと。


 講演のテーマは「まんが道60年! 藤子不二雄Aの軌跡とメッセージ」。
 今年で画業60周年を迎えるA先生が、ご自分の生い立ちから現在までを語り、若者にメッセージを送るという趣旨でした。
 昭和9年富山県氷見市にある曹洞宗のお寺・光禅寺で生まれ、小学5年生のとき寺の住職だった父を亡くし、高岡市へ引っ越して同じクラスになったF先生と出会い、高校時代に『天使の玉ちゃん』でマンガ家デビュー。高校卒業後は富山新聞社に勤務し、退社後上京、はじめは両国の2畳間で暮らしたが、しばらくのちに手塚先生が使っていたトキワ荘14号室へ引っ越して青春の日々を送った……というファンにはお馴染みのお話でしたが、A先生ご自身の口からナマでこの話を聴くと、何度聴いてもぐいぐい引き込まれます。
 また、こういう話をほとんど初めて聴くという聴講者も多くいらっしゃったと思うので、そういう方々には非常に新鮮で興味深い内容だったんじゃないかと思います。そして、自分も形こそ違えこういう素敵な人生を送りたいなあ、と感じられたんじゃないでしょうか。


 A先生は随所にユーモアを交えながらお話されるので、会場では幾度も笑いが起きます。とくに講演の終盤は、会場の笑いが爆発しました。先生の畳みかけるようなトークに、ドカン、ドカンと会場が沸きました。


 A先生の盛りだくさんのお話のなかで、今回とくに心に響いたこと、面白くて笑えたことなどを要約して列記します。(順不同、大意です)


富山新聞社に勤めていたとき、映画紹介の欄を担当したことがある。僕は映画好きでこだわりがあるため辛口の批評を書いてしまったが、上司に「映画マニアの雑誌じゃないんだから、新聞のこういう欄では映画を誉めることが大事なんだ」と注意された。そういうことも勉強になった。
 富山の女学生5人を集めて映画『ひめゆりの塔』の試写会を主催したこともある。その女学生5人のうちの1人が翌年富山新聞社に入社し、僕の後輩になった。それが竹内さんだった(『まんが道』では竹葉美子さん)。かわいい女性だったので出社するのが楽しくなった。それまで午前10時ごろ重役出勤していたが、竹内さんが入社してからは朝7時に出社して、彼女と一緒に掃除したりしていた(笑)
 また、職業の裏側を見る連載記事を担当したことも。第1回目は移動動物園だったが、当時移動動物園には怖い人がかかわっていて、インタビューできなかった(笑) 2回目は郵便配達だった。これはインタビューできた。そういう仕事をやっているうちに、人間って面白いと興味がわいてきて、それまで赤面症だった自分が社交的になった。


・僕が通った高岡高校は、当時東大進学率が全国でも上位の進学校だった。僕はそこで大して勉強もしなかったのに試験などで落第することはなかった(笑) これで、もしちゃんと勉強していたらすごいことになっていただろうなあ(笑)


トキワ荘の仲間たちはマンガ家としてしのぎを削るライバルなのだが、不思議と嫉妬心などは起こらなかった。仲間が売れると、自分も頑張ろうと励まされた。


・電車のなかで今の若者を見ると、多くの人が携帯電話をいじっている。携帯電話も便利でよいが、生身のつきあいをもっと深めてもらいたい。他人と深くつきあえば不愉快なこともあるが、その不愉快さも大事。僕は携帯電話を数年前に与えられたが、いつも家に置きっぱなしであまり使っていない。外から電話をかけるのはもっぱら公衆電話。最近は公衆電話が少なくて困る(笑)でも、友達のあいだで「公衆電話からの電話は安孫子だ」ということが浸透していて、皆すぐに電話に出てくれるので助かる(笑)


・マンガ家は、自分の発表した作品を読者が読んでいる姿を直接見る機会がない。だから、ダイレクトに感想を伝えてくれる読者はまず担当編集者ということになる。編集者に出来上がった原稿を渡して「面白いです!」と言ってもらえると嬉しい。なかにはビジネスライクな編集者がいて、完成原稿を渡すとミスなどがないかパラパラとチェックするだけで帰ってしまうことがある。そういうときは、「お世辞でもいいから、面白いと誉めてから帰ってほしい」と思う(笑)


・『笑ゥせぇるすまん』は、まじめな人が喪黒福造に目を付けられ「ドーン!」とやられてひどい目に遭うマンガだけど、読者にとっては他人事だから、人がひどい目に遭っているのを楽しんで読める。そういう代償行為の機能もマンガにはある。


・ドラマ『怪物くん』で主演をつとめた嵐の大野智くんと対談したさい、ツーショット写真を撮った。その写真を飲み屋で女の子に見せびらかすと、キャーキャーとすごく盛り上がる。以前は宮沢りえちゃんとのツーショット写真を見せていたが、今はりえちゃんをやめて大野くんになった(笑) 今年の末に大野くん主演の『怪物くん』が映画になるから皆さん観てください。


・ワイフは「和代」という名前だが、僕は「和代氏」と呼んでいる。手塚治虫先生が、後輩である自分らのことを安孫子氏、藤本氏、石森氏、赤塚氏などと「氏」をつけて呼んでくださるのが、自分らを立ててくださっているように感じて嬉しかったので、ワイフにも敬意をこめて「氏」をつけている。今日家を出るとき、和代氏に「早く帰るよ」と言って手を握ってきた。最近はあまり飲まなくなったが、かつては夜遊びして遅く帰ると、よく和代氏に怒られた。隣に姉の家があって、遅く帰ると姉からもチェックが入って叱られた。でも、そうやって気にかけてもらえるのはありがたいこと。和代氏にも姉にも感謝の気持ちで拝んでいる。



 A先生が、ご自分のアイデアノートを持参してくださったのも嬉しい出来事でした。A先生は、アイデアノートのところどころに、奥様に作ってもらった弁当のイラストを綺麗に描いておいでで、そのページを見せてくださいました。私は目の前の席に座っていたので、アイデアノートもしっかりと見ることができました。


 90分間の講演はあっという間に終了。A先生は終始お元気に喋りつづけ、時間が来てもまだ喋り足りない、といったご様子でした。
 会場が人で埋まり、しかも反応がよかったので、「名古屋に良いイメージを持って帰ることができます」とおっしゃってくださいました。


 割れんばかりの拍手のなか、A先生が退場。
 講演会が終了し、この講演を企画・運営した東海中学の生徒さんが私に声をかけてくださいました。その生徒さんが、じつは当ブログにこの講演の情報を書き込んでくださったご当人だったのです。
 自分らが企画した講演にまさかA先生が来てくださるなんて今でも信じられないです、といった感動を伝えてくださいました。
 A先生のような大物を名古屋に呼ぶことができ、講演に大勢のお客さんが入り、最終的にA先生が喜んでお帰りになりお客さんは満足して帰られたわけで、大成功だったといえるんじゃないでしょうか。中学生の段階でこういう体験ができたことは将来に対しても大きな自信になるかと思います。
 このたびは、A先生を名古屋に招き、すばらしい催しを開いてくださって、まことにありがとうございました。
 これまでA先生とお会いできるイベントに何度も参加している私ですが、そのなかでも今回が自宅から最も近い場所でした。


 講演会終了後は、会場で合流した藤子仲間たちと、お帰りになるA先生をお見送りすることに。
 待たせてあったタクシーに乗り込むためA先生がマネージャーさんや同校のスタッフさんがたと建物から出てこられました。
 私がA先生に「楽しいお話、ありがとうございました」と言おうと思ったら、A先生が気づいてくださって、私の顔を見るなり「あの番組、よかったよ!」と、私の出演した「まんが道をゆけ!」を誉めてくださったのです。まさか先生のほうからあの番組の話を持ち出してくださるとは! さらにA先生は私のほうに手を差し出して握手を求めてきてくださいました。少し距離を置いてA先生にお礼を言おうと思っていたのですが、先生が手を差し出してくださったので、堂々と接近することができました。
 なんたる幸せ!

 
 学校の建物から出てきて私に気づいてくださったA先生。


 
 タクシーに乗り込む寸前のA先生。


 
 タクシーに乗り込んだA先生をお見送り。



 A先生とお会いできた余韻にひたりつつ、藤子仲間5人で名古屋駅に移動。もはや名古屋オフ会の恒例となった感がありますが「世界の山ちゃん」で飲みました。名古屋名物の手羽先唐揚げで有名なお店です。千葉からいらっしゃったNさんに名古屋の味を堪能してもらおうというわけでして^^
 午後5時から11時までぶっ続けで飲み続け、喋り続けました。話が盛り上がって、6時間も経過していたとは信じられないくらい時間が短く感じられました。


 当日お会いした皆様、どうもありがとうございました!
 そういえば会場で「稲垣さんですか?」と数名の方に声をかけていただきました。「まんが道をゆけ!」出演とこのブログでの顔バレ効果ですね(笑)