『てぶくろてっちゃん』初単行本化!

 藤子・F・不二雄大全集第2期第7回配本の3冊が、25日(金)に発売されました。
 今回は、『てぶくろてっちゃん』1巻、『チンプイ』1巻、『オバケのQ太郎』9巻というラインナップ。
 このなかで特筆すべきは、やはり『てぶくろてっちゃん』の初単行本化でしょう。
 
『てぶくろてっちゃん』は、「たのしい一年生」1960年4月号から連載が始まり、年度ごとに掲載誌の学年が上がっていき「たのしい三年生」1963年1月号まで続きました。藤子・F・不二雄先生が第8回小学館漫画賞(1963年)を受賞した作品でもあります。F先生が、大きな漫画賞を受賞したのはこれが初めてです。(第8回小学館漫画賞は『すすめロボケット』とともに受賞)
 そんな記念すべき重要な作品が、これまで一度も単行本化されていなかったこと自体が不思議ですが、ともあれ今回ようやく単行本化されたのですからめでたい限りです。カラーページも再現されて素晴らしいです。
『てぶくろてっちゃん』の主人公てっちゃんは、不思議な手袋を持っています。その手袋で作った物は自在に動くようになります。てっちゃんは毎回不思議な道具を作り出し、楽しく遊んだり冒険に出かけたり時には失敗したりします。てっちゃんの活動範囲は、てっちゃんの住む町のなかにとどまらず、海の中や南の国や宇宙にまで及びます。


『てぶくろてっちゃん』は、不思議な道具を軸に話が動く作品という点で、『ドラえもん』や『キテレツ大百科』など、後年のF先生の代表作につながっていく原点的作品であるともいえます。今回刊行された第1巻を見ると、『ドラえもん』でお馴染みのあの道具やこの道具を思わせるアイテムがすでにいくつか登場していることに気づくでしょう。
 F先生の不思議道具系の作品を、ひょいと道具が出てくる系列(『ウメ星デンカ』『ドラえもん』など)と、自分で道具をこしらえる系列(『キテレツ大百科』『つくるくん』など)に大別すれば、『てぶくろてっちゃん』は後者にあたります。
 
 
チンプイ』1巻は、中央公論社から刊行された「藤子不二雄ランド」の元編集長・嶋中行雄氏の解説が興味深いです。「藤子不二雄ランド」の企画を進めていた当時、F先生が最も注目し認めておられた児童マンガが鳥山明先生の『Dr.スランプ』だったとのこと。
 F先生は『ドラえもん』の「まんがのつづき」(初出:1982年)という話で『Dr.スランプ アラレちゃん』のパロディとして『Drストップ アバレちゃん』なる作中作品を登場させています。その『Drストップ アバレちゃん』の作者は「島山あらら」といって、これはもちろん「鳥山明」をもじったものです。また、「キャラクター商品注文機」(初出:1982年)という話にも「アラレちゃん」をもじった「アサレちゃん」が出てきます。
 F先生がこうして『Dr.スランプ』をパロディのネタにした背景に、この作品を児童マンガとして高く評価していたということがあるんだと思うと、アバレチャンやアサレちゃんへの見方が少し違ったものになりそうです。
 最終回が描かれずに終わった『チンプイ』の結末に関して、F先生が「アニメ(映画)の中で結論じみたことは出しているんだけど…」とおっしゃっていた、というエピソードにも非常に興味を引かれました。


チンプイ』がF全集で刊行されたことで、こんなことも生じました。通常、雑誌に連載されたマンガが単行本になる場合は、連載時よりサイズが小さくなることが多いのですが、『チンプイ』は連載媒体がB6判の「藤子不二雄ランド」だったため、A5判の「藤子・F・不二雄大全集」のほうが判型が大きいことになり、今回は初出時より大きなサイズで読めることになったのです。


 
オバケのQ太郎』9巻は、「小学四年生」に連載された話を中心に、「小学館コミックス」「小学館ブック」で発表された話も収録しています。特別資料室も充実。
「社長のむすこ」という話で、昼間に会社から帰ってきたパパに対しQちゃんが「もう帰ってきたの。会社がつぶれたの?」と訊くところが無性におかしくて笑えました。
チンプイ』1巻収録の第1話「エリさま、おめでとう」に押売りが出てきますが、『オバケのQ太郎』9巻にも押売りの話が収録されています。Qちゃんが押売りに弟子入りする「おし売り入門」という話です。押売りとのやりとりで、Qちゃんがいちいち馬鹿正直な発言をするのが面白いです。Qちゃんが押売りに入った先で商品のよさを訴えるつもりが商品の欠点ばかりをさらすことになってしまうくだりなんか大好きです。この話はオチもいいなあ。