藤子・F・不二雄大全集第2期第10回配本

 25日、藤子・F・不二雄大全集第2期第10回配本が発売されました。
 
■『オバケのQ太郎』11巻
「小学六年生」で連載された話と、「女学生の友」で『オバケのP子日記』として発表された話が収録されています。それに加え、トキワ荘の仲間たちでつくったアニメ会社スタジオ・ゼロのエピソードを描いた自伝的短編マンガ『スタジオ ボロ物語』も併録されています。
『スタジオ ボロ物語』は、『オバケのQ太郎』という作品が誕生するまでの生みの苦しみがストーリーラインの一つになっているため、F全集『オバケのQ太郎』のなかに収録される作品としてまことにふさわしいと思います。


オバケのQ太郎』は、私が生まれる前の昔のマンガですが、今も読んでいて純粋に笑える箇所がいくつもあって、F先生の笑いのセンスに改めて感服させられます。「発明王エジサン」の、動く廊下が一方にしか進まないため反対方向へ進むときは頑張って駆け足しないといけないという場面とか、「オバケ対オバケ」の、おじさんが自分の買った別荘を「まるでオバケ屋敷だ」と言ったら正ちゃんが「ここだってオバケ屋敷だよ」と切り返す場面など、挙げていくとキリがないほど私の笑いのツボに入った箇所があります。普段の生活で硬くなりがちな心が解きほぐされるような気がします。
 今巻の特別資料室の充実ぶりも目を見張りました。


 
■『てぶくろてっちゃん』2巻
 講談社の学年別学習雑誌「たのしい●年生」に連載された『てぶくろてっちゃん』の連載後半の話が収録されています。それに加え、講談社の雑誌「ディズニーランド」に連載された『てぶくろてっちゃん』も併載。ディズニーランド版は、主人公のてっちゃんをはじめ何人かのキャラクターをA先生が描いているのが大きな特色。オールカラーなのでとても綺麗です。


『てぶくろてっちゃん』全話を、こうしてしっかりと単行本で読めるようになるとは、以前から『てぶくろてっちゃん』単行本化を念願していた私にとって実に感慨深いです。『ドラえもん』をはじめ、のちのF先生の作品につながっていくようなアイデアがあちこちで見つかるもの興味深いです。
 今巻の最初に収録された「人体入れかえ機」は、何人かの人や犬と体を入れ替えていくさまがテンポよく描かれています。立場がひっくり返るおかしさや、体が入れ替わることでややこしいことになる面白さがあふれています。
「いろんなクスリで大失敗」は、てっちゃんによる他人への迷惑のかけっぷりが愉快です。一気に老化するてっちゃんの姿に噴き出してしまいました。
「怪人五十面相」では、『パーマン』に登場する千面相の原型的なキャラクターが見られます。『パーマン』との関連でいえば、「動物たちの反乱」は、『パーマン』の「動物解放区」の原型となる話でしょう。
「ロボットのお手伝いさん」では、ようこちゃんに対する扱いの乱暴さがちょっとしたインパクトでした(笑)


 
■『チンプイ』2巻
チンプイ』の連載後半の話を収録しています。エリちゃんが将来ルルロフ殿下と結婚することを証明するかのようなエピソードがいくつか見受けられます。そのたびに、未来は変えられる可能性があることも示されます。こういう話を読むと、いったいエリちゃんは最終的にどういう決断をするのか、とても知りたくなってきます。ですが、結局『チンプイ』では、そういう結末が描かれませんでした。
チンプイ』は、全58話で連載が終了しています。F先生は、連載終了後新たに59話と60話を描いて物語を完結させる構想をお持ちでした。ところが、その構想が実現する前にF先生は他界。エリちゃんとルルロフ殿下、内木くんの三角関係がどう決着するかは、読者それぞれの想像にゆだねられることになりました。
 今巻の巻末解説で本郷みつるさんが、F先生から『チンプイ』の最後がどう決着するか直接聞いたことがある、というエピソードを披露しています。F先生はその決着について話してくださったのですが、それがどんな話だったか本郷さんの記憶からきれいさっぱり抜け落ちているそうです。このエピソードからも、F先生が『チンプイ』の結末についてしっかり考えておられたことがうかがえます。
 連載後半には、エリちゃんが将来ルルロフ殿下と結婚するとしか思えないような話がいくつも描かれたのですが、F先生はそういう話を伏線としながら、最後にいったいどんな結末を導き出そうとしていたのか……気にし出すと気になって仕方がないのですが、今の私がどう頭をひねったところで、F先生が考えていたであろう結末に及ぶような秀抜なアイデアはとうてい浮かばないので、現実にF先生の手によって描かれた全58話の『チンプイ』を純粋に堪能したいと思います。


 今巻では、エリちゃんがマール星で億万長者になって、そのお金を管理するフクワウチ王室財務長官が準レギュラーとしてよく顔を見せます。エリちゃんが億万長者になったことが絡んだ話が多いのです。
 他の藤子Fマンガに登場した宇宙人キャラクターが何人も出てくる「ヒミツのバードウオッチング」は、藤子ファンへのサービス作品といえそうです(笑)
 エリさま記念館が出てくる「遠い思い出」を読んでいるときは、開館が近づきつつあり熱い盛り上がりを見せる藤子・F・不二雄ミュージアムをついつい連想してしまいました。



 月報で第3期の予定ラインナップの一部が報じられています。
★『ドラえもん』『新オバケのQ太郎』『大長編ドラえもん』『ウメ星デンカ』『モジャ公』『SF・異色短編』『ポコニャン』『すすめロボケット』


『すすめロボケット』は作品自体が初単行本化です。
 今回報じられた第3期の予定ラインナップはすでに予想できていたものばかりですが、そのラインナップを眺めていると、第3期に入っても傑作揃いだなあ、と改めて藤子Fマンガの全体的な質の高さに感嘆します。『新オバケのQ太郎』のギャグマンガとしての完成度・安定度の高さや、『モジャ公』の本格的なSFっぷりの良さなどをF全集で堪能できるのを楽しみにしています。そして、このラインナップにどんな作品が加わってくるのか、おおいに期待したいです。