大山のぶ代『ぼく、ドラえもんでした。』文庫化

 2006年に刊行された大山のぶ代さんの自伝本『ぼく、ドラえもんでした。―涙と笑いの26年うちあけ話―』(小学館)が、このたび文庫化されました。発売日は8月5日(金)。
 
 左が今月発売された文庫版、右は2006年発売の元本(ハードカバー)です。
 

『ぼく、ドラえもんでした。』文庫化にさいして思い出したのが、元本が発売されたとき、それを記念した大山のぶ代さんのサイン会に参加したことです。
 私の知る限りでは、『ぼく、ドラえもんでした。』刊行記念のサイン会は、東京、京都、広島の3箇所で開催されました。私はそのうちの東京と京都に参加したのでした。東京では、2006年6月11日リブロ池袋本店にて、京都では、8月5日大垣書店ダイヤモンドシティ店にて開催。
  
 この写真は、東京のサイン会での大山のぶ代さんです。


 私は、大山のぶ代さんの実物を拝見するのはこのときが初めてでした。サイン会で自分の順番がまわってきたときは、「ドラえもんのアニメがスタートしたときからすっと観てました。いま感激してます!」と素直な心情を大山さんに伝えました。すると大山さんは、笑顔で頷きながらサインを書いてくださったのでした。また、私の下の名前が、そのとき亡くなったばかりの俳優さんと同名だったので、その俳優さんの話題にもなりました。


 京都のサイン会では、「大山さんの声じゃないドラえもんが始まるとは思ってもみませんでした」と大山さんに伝えました。大山さんは「原作がしっかりしてるから、誰がやっても大丈夫なのよ」と言ってにっこり。大山さんの『ドラえもん』という作品への確固たる信頼と深い愛情が胸に響いてくるご返答でした。


 そのときいただいたサインがこれです。
  
 東京のサイン会では為書き(宛名)がありましたが、京都では無しでした。


 今回発売された文庫版『ぼく、ドラえもんでした。』の解説を、小説家の辻村深月さんが書いています。私は辻村深月ファンでもあるので、こういうところで辻村さんの文章を読めて得した気分です。
 昨年の12月には、辻村さんのサイン会にも参加しました。
 
 これが辻村さんからいただいたサインです。


 辻村さんのサイン会で自分の順番がまわってきたときは、『ドラえもん』の話で盛り上がりました。
 ■辻村さん「のろいのカメラを取り出したときのドラえもんの顔が凄いですよねえ」
 ■私「ええ、黒いドラえもんになってますよねー^^」
 そのとき辻村さんは、講談社の担当編集者さんのほうを向いて「今度『ドラえもん』の本を貸すから、この話を読んでくださいね!」とおっしゃいました。講談社の編集さんに小学館の本を貸すというところがちょっとおかしかったです(笑)


 辻村さんの『凍りのくじら』という小説は、各章題が「もしもボックス」「どこでもドア」「ムードもりあげ楽団」といったふうに、ドラえもんひみつ道具名で統一されており、その第4章の章題が「いやなことヒューズ」になっています。私は、あまり他のところで言及されない「いやなことヒューズ」をセレクトしてくれたことが嬉しかったので、そのことも辻村さんに伝えました。
 


 サイン会の話から外れますが、辻村深月さんといえば、先月、辻村深月ファンのオフ会に参加しました。
 そのさい、辻村ファンのなかに有川浩さんの小説を読む方が何名かいらっしゃったので、私も読んでみようと思い、まずページ数が少なめの『レインツリーの国』に手を出してみました。次に『阪急電車』を読了。
 どちらも、人間関係の機微がテンポよく描き込まれていて、読後感のよい話でした。
レインツリーの国』では、“自分と似ていて少し違う感性”に心惹かれる主人公の気持ちに、共感に近いものを感じました。この小説は、有川さんの人気作“図書館戦争シリーズ”の『図書館内乱』の作中作ということなので、いずれ読むであろう『図書館内乱』のなかで『レインツリーの国』がどのように扱われているのか楽しみになりました。『図書館内乱』の表紙イラストのなかに『レインツリーの国』の本が描かれています。


阪急電車』は、阪急・今津線を舞台に、いくつかの人間模様を描いています。異なる人生を送る人たちが、阪急電車の車中で少しずつ交差して、ささやかに影響を及ぼし合って、それぞれの人生がちょっとずつ好転していく……そうした人生の交差の加減と変化の様子が実に心地よかったです。 今津線にちょっと乗ってみたくなる作品でもありました。

レインツリーの国』『阪急電車』の次は、有川浩作品のなかでも中心的な位置を占めるであろう作品群“自衛隊三部作”や“図書館戦争シリーズ”を読もうと思い、まず自衛隊三部作の『塩の街』を読み終えました。その後『海の底』を読了し、いま『空の中』を読み始めたところ。
 自衛隊三部作は、怪獣もの・ミリタリーものといえる小説ですが、恋愛も主要なテーマになっています。『海の底』では、潜水艦内という密室状況で十五少年漂流記的な状況が生じるのですが、その状況下で描かれる初々しい恋模様が印象的でした。その密室状況下では、恋ばかりじゃなく、嫌な少年が登場したりトラブルが起こったりします。そういう嫌なことがありつつも、読後感はとてもよくてさわやかな気持ちになります。
 この作品では自衛隊の強さが描かれていますが、その強い自衛隊がなかなか出動できないという制度的な問題にも触れられています。また、作中で『ゴジラ』への言及がありまして、その点からも、この小説は“怪獣もの”であることを強く意識していることがうかがえます。


塩の街』は、有川さんのデビュー作。とてつもない塩の害で世界が危機的状況に陥って、塩を見るのが怖くなるかもしれない話です。この小説も、恋愛が主要なテーマ。ラストはちょっとあっけなかったけれど、最後までぐいぐい読ませてくれる作品でした。
 いま読んでいる『空の中』を読み終えたら、自衛隊三部作のスピンオフ作品を収録した『クジラの彼』を堪能し、その後は、図書館戦争シリーズか、友人が好きだと言っていた『植物図鑑』かどちらかを読みたいです。
 
 ・これまでに読んだ有川浩作品(『空の中』は読書中)


 ここで再び辻村深月さんの話に戻りますが、単行本化されたなかでは辻村さんの最新小説『オーダーメイド殺人クラブ』(集英社、2011年5月発行)も面白かった!(今月24日発売予定の『水底フェスタ』も楽しみ)
『オーダーメイド殺人クラブ』では、中学2年生の、純粋でありながら屈折した痛々しい自意識、自分は周りの者とは違うという思春期的な選民意識が丹精に綴られています。学級内におのずと出来上がるヒエラルキー、その学級内で起こるデリケートでねじれた人間関係などにもリアリティを感じます。主人公が起こそうとする事件は、そういう思春期の痛い自意識が根底に根差しています。


 中学生が“自分は周囲の者とは違う特別な(変態的な)人間である”という自意識を抱き、その特別である自分を具現しようとする物語…という点で、私は、現在「別冊少年マガジン」で連載中のマンガ『惡の華』(押見修造・著)を思い出します。
 
 ・辻村深月『オーダーメイド殺人クラブ』と押見修造惡の華』1〜4巻

 
 この2作品は、“自分は周囲の者とは違う特別な(変態的な)人間である”という自意識を刺激する書物が作中に出てくる、という点でも共通性があって、『オーダーメイド殺人クラブ』には渋澤龍彦の『少女コレクション序説』が、『惡の華』にはボードレールの詩集『悪の華』が登場します。どちらも実在した人物が書いた実在の本です。


 と書いたところで、最後に藤子ネタに結び付けていきましょう(笑)
 ボードレールの『悪の華』は、藤子不二雄A先生の自伝的マンガ『愛…しりそめし頃に…』の第1話「窓辺のともしび」で引用されています。第1話の扉ページでけっこう大きめに引用されているのです。
『愛…しりそめし頃に…』には毎回詩が掲載されていますが、原則としてここに掲載される詩は藤子A先生が創作したもので、詩人の名前もA先生が創ったものです。しかし、第1話の扉には、実在の詩人の作品が掲載されているのです。