藤子・F・不二雄大全集第3期第5回配本

 藤子・F・不二雄大全集第3期第5回配本が、25日(水)に発売されました。今回は『モジャ公』と『新オバケのQ太郎』第2巻。コアなファンのあいだで大傑作と評価される両作が並び立ちました。
 
 ●『モジャ公』全1巻
 帯に「最強の完全版!」とあるように、この一冊でF先生が描いた『モジャ公』の世界を網羅的に堪能できます。
 単行本収録時にカットされていた連載時の扉絵がついに日の目を見たのが、まず素晴らしいです。特別収録として、既存の単行本では削除されたり大幅に描き替えられたりしたエピソードを読めるというのも、気のきいたこだわり。ラストシーンも2バージョン収録。
 そのうえ、これまで完全に単行本未収録だった「たのしい幼稚園」版『モジャ公』を全話カラーで収録という壮挙!
 Fマンガのおもしろさ・すごさを端的に伝えるためF全集のどれか一冊を人にお薦めするならコレ!と言いたくなる充実度です。


モジャ公』は、一話完結式の作品が圧倒的に多いF先生にしては珍しく“話が次回へ連続していく”タイプの作品です。そうした形式も関係して、F先生のSFに対する造詣や冒険活劇への愛、ブラックなセンスなどが縦横無尽にあふれています。SF作品を読む醍醐味の一つ“自分の常識が反転するような、目からうろこが落ちるような驚き”も味わえます。宇宙を舞台にしたスケールの大きな物語なのに主人公たちはいたって庶民的で適度に俗っぽく適度に勇敢なところもいい按配だし、脂の乗った絵も魅惑的。
 F先生は基本的に短編作家であり短編マンガを得意としていたわけですが、『モジャ公』みたいな大傑作を読んでいると、F先生にはもっと連続ストーリーものを描いていただきたかったなあ、なんて贅沢な欲求を抱きたくなります。それほどこの『モジャ公』は濃厚におもしろい!(F先生の連続ストーリーものといえば、先生の晩年の仕事の中心は『大長編ドラえもん』でした)


 
 ●『新オバケのQ太郎』第2巻
「小学三年生」「小学四年生」で発表された話を完全収録。
 F先生のギャグセンスを堪能するのに『新オバQ』は最適、という説があります。それほどこの作品はギャグマンガとしての完成度が高い。ナンセンスギャグというより、落語のようなストーリーギャグとして優れています。
 Qちゃんはじめオバケたちがシンプルな丸っこい輪郭をしているので、F先生の描くあたたかくやわらかい曲線をたっぷりと味わえるのもうれしいところ。そして、そんなオバケたちが個性を打ち消し合うのではなく、それぞれに個性を引き立て合っているのも素晴らしい。Qちゃんメインの話がおもしろいのはもちろん、そこにOちゃんが絡んだらOちゃんが絡んだからこそのおもしろさが感じられるし、ドロンパが絡んだらドロンパだからこその、U子さんならU子さんだからこその固有のおもしろさがあります。(表紙にいるP子ちゃんは、本編ではちょっと影が薄い気がするけれど…^^)


 先ほど『モジャ公』にはF先生のブラックなセンスがあふれている、と書きましたが、『新オバQ』でもけっこうブラックな話が見受けられます。たとえば、『モジャ公』には「自殺集団」、『新オバQ』2巻には「木佐くんは自殺するのだ」という話があって、そのサブタイトルからわかるように、どちらも自殺をネタしています。そして、どちらの話も毒の効いた傑作です。