浦沢直樹トーク&ライブ「表現欲」

 15日、名古屋の愛知県芸術劇場大ホールで『浦沢直樹トーク&ライブ「表現欲」』が開催されました。
 この催しは、名古屋造形大学卒展記念の公開講座でして、学生さん以外の一般客も入れるものだったので、参加申し込みをして行ってきました。
 

 同大学は、4年前にマンガコースを新設。今年はマンガコースの学生が初めて卒業を迎えるということで、同大学の客員教授をつとめる漫画家の浦沢直樹先生が記念に講演を開いたのです。


 前半がトーク、後半がライブという構成でした。
 
 ・イベント開始前のステージ
 
 ・浦沢先生がこのイベントのために描き下ろした自画像ボード


 ステージに登場した浦沢先生は、観客席を眺めまわしながら「大勢入ってますねえ!」。
 演台は、浦沢先生の仕事場のデスクをイメージしたもの。デスクの後ろには書棚が置いてありました。


 特に印象的だったのは、この話です。
「僕が幼いころ家に『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」が収録された単行本とともに『ジャングル大帝』の単行本が置いてあった。そのなかに、レオの息子ルネが、すぐに噛みきれないものを懸命に噛んでいる場面があって、そのときのルネの表情を見て、初めて“表情”というものを強く意識しました。いま思うと、これが、僕が描く表情のルーツになっているんじゃないか」


 浦沢先生は自分がニセモノではない証拠をお見せしましょうと、ステージの上でキートンや柔ちゃん、ともだちをスラスラと描いていきました。柔ちゃんを描いたときに、こんなことをコメント。
「昔、「やわらちゃん」と呼ばれてる柔道選手がいましたね^^ ここにいる学生さんは若いので知らないかもしれませんが、「やわらちゃん」というネーミングは僕のほうが先なんですよ(笑) 髪の毛をこうやって縛るのも僕のほうが先。僕が真似してるんじゃないですよ」


 トークのなかで一番盛り上がったのは、浦沢先生が小学3年生のとき描いたマンガを、浦沢先生の解説つきで見ていこうというコーナーでした。
 マンガのタイトルは『太古の山脈』。大学ノートに描かれた作品でした。全59ページ(全310コマ)の力作です。これが浦沢先生が初めて描いたマンガなのだそうです。
 小学3年生ならではの稚拙な表現が随所に見つかるので、そこに浦沢先生が自分でツッコミを入れるたびに場内がわきました。
 浦沢先生は最後の1ページのラストシーンを描きたくてこのマンガを描き始めたそうです。最後の1ページのために、その前の58ページを描き切ったわけで「これを表現欲と言わずに何と言うか」とおっしゃっていました。作品を完結させたことで大きな自信になった、とも。


 その後、和久井光司バンドのメンバーがステージに登場。
 バンドの即興演奏に合わせて、浦沢先生が即興で絵を描いていくという実験的遊びの時間となりました。
 そうやって、次のような3つの絵ができあがりました。
・黒人の少年が片手にラジカセを持ち、ヤシの木が生える南の島を歩いている
・窓際に身を隠す美女と、彼女を狙っているように見える男
・バイクで疾走する爺さん
(各絵に対する浦沢先生の具体的な説明はなかったので、私の印象で説明しました)


 後半のライブは、1時間半ほどの熱演で、ラストはディランの『風に吹かれて』。


 イベント終了後、物販コーナーで何か購入すると、その品に浦沢先生からサインをしていただけることに! そんな嬉しい企画があるなんて事前にはまったく告知されていなかったので驚嘆しました。
 私は、浦沢先生と和久井光司さんの共著『ディランを語ろう』(小学館)を購入し、サインを描いていただきました。サインだけじゃなく、なんとキャラクターも描いてくださるということで、私はどのキャラクターを描いてもらうか迷いに迷って、「柔ちゃん」か「ともだち」かの2択まで絞りました。そして、浦沢先生の前に出た瞬間、口から出たのが柔ちゃんの名前でした。
 
 ・『YAWARA!』の柔ちゃんと浦沢先生のサイン


 サインを描いてもらっているとき、『20世紀少年』にハットリくんが出てきましたねー!という話になって、浦沢先生は「あの先生はほんとうにいい先生だよ〜!」と藤子A先生の人柄をしみじみと絶賛。


 
 ・サイン会終了後は、浦沢先生と名古屋造形大学学長がポーズを決めてくれました。