藤子・F・不二雄大全集第3期第6回配本

 24日(金)、藤子・F・不二雄大全集第3期第6回配本の3冊が発売されました。
■『中年スーパーマン左江内氏未来の想い出   
 
 F先生が青年誌で発表した作品は、読切形式の、いわゆる“SF短編”が注目されることが多いのですが、ここに収録された2作は、青年誌で「連載」されたF作品です。
中年スーパーマン左江内氏』は、パッとしないサラリーマンがひょんなことからスーパーマンの役目を授けられ…というところから話が始まります。大人版『パーマン』と言えなくもない作品です。
 スーパーマンものとはいえ、夢のある華やかな冒険活劇ストーリーとか、颯爽としたヒーロー像が描かれているわけではなく、主人公は、日々のサラリーマン生活と地続きの日常感やペーソスや身も蓋もなさをまといながらスーパーマン活動を行なっていきます。それだけに、各話で地に足のついた人生の機微が感じられ、確実な読み応えがあり、読後の充実感も大きいです。
 そうしたところが、F先生がティーンエイジャー向けに描いた『エスパー魔美』の読み味と通底する面を持っているように感じます。F先生が『左江内氏』を連載している時期、『エスパー魔美』も連載中でした。『魔美』はドジだけどかわいい女子中学生、『左江内氏』は地味で冴えないサラリーマンなので、そうした主人公の違いから、扱われる題材や作品の雰囲気に相応の違いがにじみ出ていますが、平凡な生活者が突然スーパーマン的な力を得、その力を活かして人助けをするという基本的なストーリーや、そんな人助けの活躍を(ごく一部の人を除いて)世間の人たちは知らないという制約、作中で描かれる人間ドラマやユーモアの味わいなどに共通性が感じられるのです。
 久しぶりに読み返しましたが、やっぱり面白い!


未来の想い出』は、人生やり直しもの。主人公の納戸理人は、F先生の自画像的なキャラクターで、彼の言動が実際のF先生と重なり合う部分もあります。
 当ブログで『未来の想い出』を“ループもの”の一作として取り上げたことがあります。この記事は結構な反響をいただきました。
 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20110820
 本作は、1992年に森田芳光監督によって『未来の想い出 Last Christmas』というタイトルで実写映画化されました。この映画の藤子ファン的な見どころは、F先生が占い師役でちょっと出演されている場面です。それと、パーティーの場面で藤子不二雄A先生、つのだじろう先生、石ノ森章太郎先生、赤塚不二夫先生、さいとう・たかを先生、永井豪先生など、巨匠漫画家の姿を見られる点。昨年末の森田監督の訃報はショックでした…。


 双葉社で唯一のF先生担当編集者だったという本多健治さんの解説が実に興味深い。とくに、本多さんがF先生にレオ・レオニの『平行植物』を薦めたというエピソードが印象深いです。


■『ウメ星デンカ』第3巻
 
週刊少年サンデー」に連載された作品をまとめた一冊。
 ウメ星王の一家はお人よし揃いなのですが、脇役のナラ子やゴンスケがまことに強烈でアクが強く、この二人が周囲を引っかき回す話が目立ちます。
 ゴンスケは、袋貼りの内職をさせるために作られた召使いロボットなのですが、作り方に不備があったため、性格に相当クセのあるロボットになってしまいました。我が強く勘定高く権利意識の強い性格なのです。けれど純情でまっすぐなところもあって、憎たらしいのに憎めないキャラクターになっています。ゴンスケが中心となって展開する話は、もうそれだけでおもしろい!という感じ。
 ゴンスケはもともと『21エモン』で芋掘りロボットとして登場していたキャラクターですが、F先生はこのキャラをお気に入りだったようで、「週刊少年サンデー」連載作として『21エモン』の次作に当たるこの『ウメ星デンカ』にもゴンスケを登場させてレギュラー化しました。『ウメ星デンカ』連載終了後には、A先生が「東京タイムズ」「北海道新聞」において『ゴンスケ』というマンガを連載しています。文字通り、ゴンスケを主人公にした作品です。つまりゴンスケは、小池さんと同様、F作品・A作品にまたがって登場し重要な役回りを演じるキャラクターであるわけです。小池さんはA先生が誕生させたキャラであるのに対し、ゴンスケはF先生が生み出したキャラクターです。
 ゴンスケは、3月3日から公開の映画ドラえもんのび太と奇跡の島』に登場するということで最近クローズアップされることが多くなりました。とくに、ゴンスケがグッズ化されるのがうれしいです。


 解説は、藤子先生のアシスタント経験がある漫画家で荒俣宏さんの妹でもある志村みどりさん。『ドラえもん』「白ゆりのような女の子」の扉の女の子、「ロボ子が愛してる」のロボ子、「うそつきかがみ」の鏡に映った美しいしずちゃんなどを描いた方です。


■『ドラえもん』第17巻
 
 1979年度〜1983年度生まれの人が小学生時代にリアルタイムで読んだ話を収録した巻です。
 短編『ドラえもん』としては最後年に発表された作品群となります。結果として短編『ドラえもん』の最終作となった「こわ〜い!「百鬼線香」と「説明絵巻」」や、その後発表された中編(3回にわたる連続作)「ガラパ星からきた男」も本巻に収録。
「ガラパ星からきた男」は、ファンのあいだでは「44.5巻」に収録された作品としても知られていますね。「44.5巻」については当ブログの以下の記事で紹介しています。
 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20070608
 本巻収録作にもいろいろと見どころがあります。
「空とぶマンガ本」で描かれたオチの一コマが私はとても好きです。「きみたちは鳥だ」と暗示をかけられた本たちが暗示にかかりすぎた結果がシュールで笑えるのです。
「やりすぎ!のぞみ実現機」は、食べ過ぎて腹が膨張して起き上がれなくなったドラえもんが何コマにもわたって登場するのが可笑しくてイイです。
 高層マンションに引っ越してきたマナブくんは、「野比家は三十階」でデビューしたあと、「高層マンション脱出大作戦」「空まです通しフレーム」にも登場して、本巻においては準レギュラーのようになっています^^
 解説は、大山ドラでしずかちゃんの声を演じた野村道子さん。