「地上最大の手塚治虫」展

 手塚治虫文化賞贈呈式に出席した翌日には、世田谷文学館で開催中(4月28日〜7月1日)の「地上最大の手塚治虫」展を見に行きました。
 手塚治虫括りの東京滞在…というわけです(笑)
 
「地上最大の手塚治虫」展だなんて、どれほど大規模な展覧会だろうと思われるかもしれませんが、これは規模を指しているというより、『鉄腕アトム』「地上最大のロボット」を意識したネーミングなのです。「地上最大のロボット」をマンガやアニメで初めて読んだ(観た)ときのワクワク感や高揚感を共有できるような空間をつくりたい…といった意味を込めているそうです。
 世田谷文学館は、その名のとおり“文学”を扱うミュージアムですが、「手塚作品とはこれからの時代を生き抜くために手元に置くべき〈文学〉」「人生の危機や困難に際したときに、いつもそばに寄り添い、立ち返るのとのできる拠り所のような文学=スタンダード文学」と考え、同展を企画したとのこと。


 世田谷文学館には喫茶コーナーがあって、展示物を観る前にまず軽く昼食をとりました。昼食後には、アトムのまんじゅうとアイスコーヒーのセットも。
 


 展示物の中心は、手塚マンガの原画です。もうとにかく何より、何枚もの原画を一度に観られることに幸福感をおぼえました。
ブラック・ジャック』「二つの愛」は一話分すべての原画が展示されており、最初から最後まで読みとおしました。原画でお話を楽しめるって贅沢ですね。
アドルフに告ぐ』の原画が展示してあるスペースでは、この作品の舞台となった時代状況を詳しい年表で紹介していて、力が入っていました。手塚先生は、主人公の2人のアドルフをご自分とほぼ同い年に設定していたんですね。


 手塚先生の絶筆となった『グリンゴ』『ネオ・ファウスト』『ルードウィヒ・B』のコーナーもよかった。そこに手塚先生のこんな発言が掲示されていました。
「マンガにはマンガの役割があります。それは、世の中の道徳とか観念をひっくり返すことなのです」
 洒落た服装の女性二人組がこのくだりを読んで「すばらしい!」と感嘆の声を上げていました。


 手塚先生ご自身が出演する場面を集めたコーナーもありました。七色いんこが作者の手塚先生に文句をつけるシーンが特に目に残りました。手塚先生の顔が大きく描かれていて迫力があるのです。


 原画以外では、手塚先生の多忙ぶりがつぶさにうかがえるスケジュール表が印象的。毎日のように何らかの締切が訪れるその記述内容に、手塚先生の壮絶な仕事ぶりを感じました。
 先生が愛用されていたベレー帽を見たときは、なんだかあたたかな気分に。


 あと同展で特徴的だったのは、何名かの読者の方が所有している手塚本やファンレターの返事などが展示されていたことです。その所有者による、思い出の詰まったコメントも添えてありました。表紙の裏面に白骨船長の直筆イラストが描き込まれた本(たしか手塚先生作の絵本だったと思う)があって、この作品が好きな私は羨望のまなざしを向けてしまいました。
 各界著名人が、好きな手塚マンガを語るパネルもありました。瀬名秀明さんが『ザ・クレーター』について語っていました。


 写真撮影は禁止だったのですが、会場内に置かれた手塚キャラの等身大人形だけは撮影可だったので撮ってみました。
 

 

 


 帰りに図録を購入。
 


 世田谷文学館は、閑静な場所に建ち、庭には鯉が泳いでいたりして、心穏やかになる空間でした。凄まじい数の人々でごった返す新宿から京王線に乗ってやってきたので、そう感じたのかもしれません。