異色短編が好きな芸能人

 雑誌やテレビなどで藤子マンガを好きだと語っている有名人を見つけたりすると、反射的に「おっ!」と思って、それまで以上にその人のことを意識するようになることが、ままあります。
 藤子マンガの中でもF先生の青年向けSF短編(いわゆる異色短編)を好きだと語っている芸能人を、先月・今月と続けて見つけたので、ここでちょっと紹介しようと思います。


●オードリー・春日俊彰さん(「ダ・ヴィンチ」11月号)
 マンガはほとんど立ち読みで済ませるという春日さんは、F先生の異色短編集を「6〜7年前に初めて読んで、即座にハマってレジに向かった」といいます。
 特に好きな作品は『コロリころげた木の根っ子』や『ミノタウロスの皿』…。「どちらの作品も予想外の展開に驚かされましたね。『コロリころげた〜』は、怖いだけじゃなくて“この後どうなるんだろう?”って、いろいろと想像が広がる。『ミノタウロス〜』は風刺も効いていて、単なる物語で終わってないところがすごい」と評しています。


『コロリころげた木の根っ子』は、横暴な夫の仕打ちに黙って耐え続ける従順な妻が日常的に行なっていた一つ一つの行為の意味が、ラストになって明らかになり、衝撃を受けます。最終コマでは、その意味を知ったうえで妻の行為を目の当たりにすることになって、独特の恐怖が呼び起こされます。
 最終コマでの妻の白眼は、そのビジュアル自体が怖いですし、その眼の奥から、夫に対する静かで深い怨念が透けて見えるようで、戦慄をおぼえます。
ミノタウロスの皿』については、以前当ブログで詳しく感想や分析など書いたことがあるので、よろしかったらご覧ください。
 ・『ミノタウロスの皿』から感じたこと
 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20080306
 ・『ミノタウロスの皿』と『猿の惑星』『ガリヴァー旅行記』『猿婿入り』
 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20080303



鳥居みゆきさん(「サイゾー」12月号)
 丸尾末広先生やつげ義春先生のマンガが好きだという鳥居さんは、インタビュアーに「“死の描写”に惹かれたマンガ作品ってありますか?」と訊かれ、「丸尾先生の作品のように、死んだ時が一番美しくなるように描いてたり、藤子・F・不二雄先生の『気楽に殺ろうよ』」とか、死を大げさにせずに、身近にあるものとして描くものが好き」と答えています。


『気楽に殺ろうよ』は、性欲より食欲のほうが公にすることが恥ずかしい欲求である…などと、われわれの社会で常識化している価値観をひっくり返すような問答・状況を描いており、殺人に関してもわれわれの固定観念に揺さぶりをかけてきます。殺人が公認されている状況や、生命を尊重しなければならない理由を論理的に説明することは不可能だなんて問答が描かれているのです。そこでは、殺人は禁忌であり生命は尊いものであるという、われわれにとって絶対的とも言える価値観が相対化されており、鳥居さんはそのあたりに惹かれたのだと思います。また、『気楽に殺ろうよ』というタイトルも、鳥居さんがこの作品を「死を大げさにせずに、身近にあるものとして描くもの」と感じたことに一役買っていることでしょう。



※12月7日(金)、日本テレビ金曜ロードSHOW!(21:00〜22:54)で『映画 怪物くん』(2011年公開)が放映されるようです。
 http://www.ntv.co.jp/kinro/