「“耳で楽しむ”藤子・F・不二雄の世界 SF短編 朗読ライブ」公開録

 6月29日(土)、NHKのラジオ番組「“耳で楽しむ”藤子・F・不二雄の世界 SF短編 朗読ライブ」の公開録音が催されました。会場は、富山県高岡市のウイング・ウイング高岡4階ホール。


 マンガ作品であるF先生のSF短編を“音”だけで表現しその魅力を伝える、というユニークな試みに興味を惹かれました。そして、公開録音の会場が藤子先生のふるさと高岡ということで、久々に聖地巡礼をしたくなり、富山まで足を運びました。


 これまで高岡には何度も訪れているのですが、ここ最近は2年間以上行けてませんでした。そのあいだに「ドラえもんの散歩道」のキャラクター銅像が移設されたり、万葉線ドラえもんトラムの運行が始まったりと藤子スポットにいくらか変化があって、そういったところを見るのがとくに楽しみでした。


 公開録音の会場となるウイング・ウイング高岡…。私は、この建物内にある高岡市立中央図書館を利用するために何度か入ったことがあります。この図書館には、ドラえもんコーナー、藤子・F・不二雄コーナー、藤子不二雄Aコーナーが設けられており、さすがは藤子先生の出身地!と思わせる図書館になっています。今回の朗読ライブは、図書館より一つ上の階にあるホールが会場でした。


 
 JR高岡駅の改札を出てすぐ正面のところに「SF短編 朗読ライブ」のポスターが貼ってありました! 


 
 万葉線高岡駅前駅にも同じポスターが!


 
 この高岡駅前駅にドラえもんトラムが入ってきて、こうした素敵な景色となりました。私はドラえもんトラムを見ること自体が初めてだったので、それだけでも感激しましたが、その車両とF先生の顔写真の載ったポスターが並んでいるのですから、それはもう感激が膨らむばかりです。


 
 これが、万葉線高岡駅前駅から見た「ウイング・ウイング高岡」です。


 
 この建物の前の広場に「ドラえもんの散歩道」があって、12体のキャラクター銅像が楽しそうに遊んでいます。これらの銅像は1994年、高岡大和の隣の「万葉の杜」という広場に設置されたのですが、2011年になって万葉の杜が有料駐車場に変わるということで撤去され、ウイング・ウイング高岡の前に移設されました。撤去された時点では移設先が決まっておらず心配したのですが、前より人目につきやすい場所に移設されたので、結果的によかったと思います。毎日毎日高岡を訪れる人々を楽しく出迎えてくれています。
 これらの銅像、前は高いところにあって手が届かなかったのですが、今は低めに設置されて親近感も増しました。


 
ドラえもんの散歩道」からさらに建物の入口へ近づいていくと、朗読ライブの案内看板が立ててありました。

●開場/午後5時30分
●開演/午後6時 終演/午後7時30分(予定)
●原作/『間引き』『おれ、夕子』『カンビュセスの籤』
●出演/朗読:石田太郎(俳優)、松田洋治(俳優)、中條誠子NHK富山アナウンサー)、演奏:西村由紀江(作曲家・ピアニスト)
●放送予定/8月9日(金)午後8:05〜9:30(NHKラジオ第1・全国放送)
      ※途中8:55〜9:05までニュース中断あり
      トークゲスト:瀬名秀明(作家)


 
 朗読ライブの入場券。席が「F列」というところに心をくすぐられました(笑) 「21番」は「21エモン」を思い出させますし、何かと縁起のよい席に当たったなあ、と勝手に喜んだのでした。



 さて、いよいよ開演です。
 NHKのアナウンサーがステージに登場し、NHKの番組らしく拍手の練習を3回ほどやりました(笑) 番組名が「“耳で楽しむ”藤子・F・不二雄の世界 SF短編 朗読ライブ」と長いのでアンキパンが欲しいくらいです、とF先生関連のイベントにちなんだジョーク?も聞けました。


 朗読する作品として選ばれたのは、上掲のとおり『間引き』、『おれ、夕子』、『カンビュセスの籤』の3編。いずれも傑作です。はたして、これらのマンガ作品がどのように“音”だけで演じられるのか!? 興味が強くわいてくると同時に、どんな感じになるのか見当もつかない面があって、「音だけで、あのヒネリのきいたSF短編が観客に理解されるのか」「理解できたとしても、作品の“面白さ”を味わってもらえるのか」と若干の不安も生じていました。
 でもライブが始まったとたんそんな雑念は霧散して、ステージ上の演技・演奏にググッと聴き入ってしまいました。


 内容は、基本的に原作に忠実と感じられるものでした。しかし原作のセリフをそのまま朗読するだけではうまく伝わりませんし、朗読劇にする意味もありませんから、そこのところでいろいろと構成の工夫や仕掛けなどがあって、原作に忠誠を誓いながら朗読劇ならではの演出を披露してくれた!という印象です。
 3人の朗読者は、セリフやナレーションを熱演。そこにピアノの生演奏と、あらかじめ録音されていた効果音が加わって、まさに、音によって構成され表現されたSF短編の世界が繰り広げられました。お互いの呼吸を読みとっているような絶妙なバランスで、音と音が響き合いました。


 音だけで表現することで、F先生の卓抜なストーリー構成やアイデアの力、作品のテーマなどが独特のかたちで鋭く抽出されたような感覚がもたらされました。そもそも「音」というのは、マンガにはない要素の一つなんですよね。もちろんマンガの約束ごとでは、フキダシのなかの言葉は登場人物がしゃべっている声であるし、描き文字の擬音語もまた音である…ということになっているのですが、それは音を音以外の技法で表現したものであって、音そのものではありません。脳内で登場人物の声が聞こえてくるような気がしても、それは本当に音を聞いているのとは違うのです。
 音による表現が聴覚にうったえるものであるとすれば、マンガ表現は主に視覚にうったえるものです。今回の試みは、マンガ表現のメイン領域である視覚性を極力退け、マンガ表現が有していない聴覚性を際立たせるという方法で、マンガ作品を再話しているわけです。
 そのうえ、その再話行為を大勢の観客が味わえるようライブイベントにし、全国放送の番組として放送するのです。そう思うと、じつに挑戦的で実験的な試みであるなあ、と感じられてきます。


 観客の大半がF先生のSF短編未読者という状況でした。そんななか、ある場面でショックを受けた観客から、なんとも言えないどよめきが起こりました。笑えるような内容ではないので朗読ライブ中の大半は静まり返っていたのですが、それだけに、このときのどよめきに私は胸を深く衝かれました。なんだか、そのどよめきに感動すらしてしまいました。
「原作ではああだったけれど、朗読ライブではこう来たか!」と思わせるシーンがいくつかあって、私は『カンビュセスの籤』ラストのフェードアウトの仕方などに「そう来たか!」と感心しました。具体的にどんなふうだったかは、オンエア前なので伏せておきます(笑)


 観客席の、私が座っているのと同じF列に作家の瀬名秀明さんが座っておられたので、休憩時間中に少し挨拶させていただきました。瀬名さんとはネット上で少しやりとりしたり間接的にかかわったり…といったことはあったのですが、実際にお会いするのは今回が初めて。私が名乗ったらすぐに「ああ!」と気づいて握手してくださったので一安心でした(笑) 
 瀬名さんは、「ビビる大木さんと出演された番組、観ましたよ!」「私は高岡に来るのが初めてなんですよ」と気さくにお話してくださいました。
 休憩後、瀬名さんはステージに上がって朗読ライブの感想を少し語りました。朗読の内容はもちろんステージ上を飾る抽象的なセットからもSF短編のイメージを喚起されたそうで、木のように見えるセットからは『みどりの守り神』を、岩のようなかたまりに見えるセットからは『オヤジ・ロック』を思い出した、と楽しそうにお話されていました。
 瀬名さんはこの翌日、トークゲストとしてスタジオ収録があったようです。
瀬名さんがオンエアでどんなことを語ってくださるのか今から楽しみです。


 同番組は、8月9日(金)午後8:05から、NHKラジオ第1で全国放送されます!!!