特別展「手塚治虫×石ノ森章太郎 マンガのちから」

 先月27日、藤子不二雄A先生トークショーのため東京へ行ったわけですが、空いた時間を使って東京都現代美術館で開催中の特別展「手塚治虫×石ノ森章太郎 マンガのちから」を観てきました。(できれば東京タワーで開催中の「藤子・F・不二雄展」にも足を運びたかったのですが、今回は時間の関係で断念)
 
 
 あまりゆっくり観ておれず、売店での買い物時間も含めて1時間半ほどで全体をまわりました。一つ一つの展示物を入念に鑑賞することはできませんでしたが、とりあえず展示物のほぼすべてを眺められてよかったです。「やっぱり原画はいいなあ」と、しみじみしながら堪能。



 同展の第1部は「二人の出会い マンガの誕生」。手塚先生と石ノ森先生の初期原画を中心に展示していました。今年5月に発見された、手塚先生の初期未使用原稿(松本零士先生蔵)を観たときは、同展における最初の頂点に達したような高揚感を味わいました。このなかの『メトロポリス』の原稿には「長編冒険漫画 超人ミッチー」と改題前のタイトルが描かれていて、特に興味深かったです。


 藤子不二雄A先生がアシスタントをした『ジャングル大帝』ラストシーンの原稿もありました。『まんが道』の劇中では、手塚先生のペンが入ったその原稿を手にとった満賀道雄が「手塚先生の生原稿!それは、光り輝いていた!」と驚嘆し、全身が化石化したように動けなくなります。満賀がアシスタント作業にとりかかると、手塚先生がチャイコフスキー『悲愴』のレコードをかけます。その曲調と満賀が仕上げをしている場面(アフリカのムーン山へ登った探検隊が激しい吹雪のなかで一人また一人と倒れていく場面)とが共鳴し合って、手塚先生と満賀のいる空間にもムーン山の吹雪が吹き込んできたかのようなイメージに包まれます。そして、5年間にわたる『ジャングル大帝』の連載が終わろうとするなか、その感動的な盛り上がりに満賀は涙が止まらなくなるのです。そんな満賀の感動に呼応するように、読者である私の脳裏に吹雪の描写が焼きつき、胸が震える思いになるのです。


 トキワ荘のメンバーが代筆した『ぼくのそんごくう』の原稿を観られたのも感激でした。雲隠れした手塚先生の代わりに石ノ森・赤塚・藤子F・藤子A各先生が協力して一晩で描き上げたものですが、ギリギリのところで手塚先生の原稿が間に合ったため、結局この代筆原稿は未使用となったのでした。『愛…しりそめし頃に…』1巻に収録された「手塚先生の代筆」という話で、そのあたりのエピソードを読むことができます。『ブラック・ジャック創作(秘)話〜手塚治虫の仕事場から〜』2巻(宮崎克・原作、吉本浩二・漫画)の第11話「まんが少年」では、ギリギリ間に合った手塚先生の原稿を松本零士先生や高井研一郎先生が手伝っていた…というエピソードが披露されています。



 第2部「爆発するマンガ 時代への挑戦」では、両先生の代表作の原画がおおむね年代順に展示されていました。
 藤子A先生が羨望の眼差しをおくるほど描線を速く引けるお二人ですから、原画からは、そうした線の速度感・勢いが感じとれました。そして、線のつや、紙の質感、修正跡、切り貼りなど、原画ならではの醍醐味を味わえました。両先生の膨大な作品群のほんの一部に触れただけですが、それでもお二方の仕事の質と量、その幅広さに圧倒されるばかりです。



 第3部「“ちから”の本質対決」では、両先生の作品から「いのち」「あきらめない」「死」「科学」「戦争と平和」などのテーマを抽出し、原画を対比展示していました。お二人の名を冠した特別展ならではの好企画だと思います。



 第4部では、現代作家がお二人に捧げるオマージュ作品がいろいろと展示されており、われらが藤子不二雄A先生の力作もありました! 法被姿の藤子Aキャラたちが手塚先生と石ノ森先生を御輿にかついでいる、賑やかでカラフルなイラスト。怪物くん、ハットリくんといった、こういう企画のとき登場頻度の高い常連キャラクターばかりでなく、そのほかのキャラも大勢いて、たとえば、魔太郎、ひっとらぁ伯父サン、黒ベエなどブラック作品の住人たちが神輿かつぎに交じっているのはカオスで素敵でした(笑)



 展示物の撮影は禁止だったのですが(たいていこういうものは撮影禁止ですが)、会場内に撮影可能なスポットも設けられていました。
 そのスポットが、復元トキワ荘です。
 
 この精密な造り込みにほれぼれします。実寸大より少し小さめでしたが、本物のトキワ荘はこうだったのだろう、と思わせる説得力を感じました。


 
 玄関前で記念撮影!


 
 
 
 こうして写真に撮ると、かつて実在していたトキワ荘と見分けがつかなくなりそうです。


 
 
 セピアカラーやモノクロで撮影すると、昭和30年代感が高まります。


 
 今はもうない、伝説の聖地トキワ荘が目の前に建っている!という幸福な疑似体験を堪能できました。これを観られただけでも入場料の元がとれたような気がします。


 
 
 展覧会の会場内は復元トキワ荘以外ほとんど撮影禁止でしたが、ほかに、サイボーグ009のコスチュームを着たももいろクローバーZのパネルも撮影可でした。



 グッズ売場には魅力的な品が数多く売っていて迷ったのですが、買い物時間があまりなく、とりあえず図録のみ購入。
 
 藤子A先生のインタビューが掲載されています。別冊には、第4部で展示されていた現代作家によるオマージュ作品が収録されており、もちろんA先生のイラストもバッチリ載っています。
 藤子A関連コレクションとしても十分イケてる図録です。