「“耳で楽しむ”藤子・F・不二雄の世界」放送

 9日(金)、NHKラジオ第1で「“耳で楽しむ”藤子・F・不二雄の世界」(午後8:05〜9:30)が放送されました。
 高岡でおこなわれたこの番組の公開録音を観覧したこともあって、楽しみだという気持ちが強く、放送日を心待ちにしていました。
 
 ・高岡駅の改札口を出たところに貼ってあったポスター。
 
 ・公開録音の会場となった「ウイング・ウイング高岡」の前に立てられていた案内看板。



 オンエアを聴いて、あらためて上質な朗読劇だと感じました。F先生のアイデアやストーリー構成力は“朗読”というかたちをとっても、鮮やかに、魅力的に受け手に届くんだなあ、と感嘆。原作を脚本化した方の手腕や、各キャラクターの演者さんの実力も、この朗読劇の質に貢献しています。
 これは公開録音という“ライブ”で公演されたものですが、オンエアを通して聴くと(オンエア用にある程度修正・編集がほどされていたと思いますが)スタジオ録音のラジオドラマのような安定感がありました。CDソフト化してほしくなるクオリティです。


 番組中で朗読された作品は『カンビュセスの籤』と『間引き』。以前当ブログで書いた公開録音のレポート記事をご覧くださった方は「あれっ、『おれ、夕子』は?」とお思いになったかもしれませんが、時間上・編集上の都合からか『おれ、夕子』はカットされました。公開録音では『間引き』『おれ、夕子』『カンビュセスの籤』の順で朗読されたものが、オンエアでは『カンビュセスの籤』『間引き』の順だったのです。
 また、公開録音のときは、『間引き』の衝撃的なラストを受け、原作を読んでいない人が大半だった観客席にどよめきが生じたのですが、オンエアではそのへんは拾われていなかったように思います。


 スタジオゲストの瀬名秀明さんが何を語るかということも、オンエアの大きな楽しみの一つでした。
 瀬名さんは初っ端から「子どものころの将来の夢は、藤子先生のアシスタントになることだった」と藤子愛炸裂のエピソードを披露され、その後もSF短編の話題を中心にこちらの表情がほころんでくることを話してくださいました。
 瀬名さんのほか、宇多丸さん、とり・みき先生が、数あるSF短編のなかから1作を選び、それに対する思い入れを語るコーナーもありました。瀬名さんは『ヒョンヒョロ』、宇多丸さんは『ノスタル爺』、そして、とり先生は『スーパーさん』をセレクト。こういう企画で『スーパーさん』が選ばれるなんて珍しいので、それだけでインパクトを感じてしまいました。とり先生は藤子・F・不二雄大全集『少年SF短編集』3巻の解説でも『スーパーさん』の素晴らしきくだらなさに賛辞をおくっており、著名人のなかでは最も『スーパーさん』に言及されている方ではないでしょうか。


 余計な演出のないシンプルな構成の番組で全体的に好感を持てたのですが、残念だったのは、『間引き』の朗読中に臨時ニュースが割り込んだことです。地震などの緊急速報なら納得できるし、それならここで「残念」だなんてわざわざ言わないのですが、それが「東北楽天ゴールデンイーグルス田中将大投手が開幕16連勝達成。プロ野球新記録」というニュースだったため、クオリティの高い朗読劇が一時的に中断されてもったいないなあと思ってしまったのです。
 田中投手の記録そのものは偉業ですし、ほかのテレビ局やラジオ局でも速報されたのでしょうけど、ラジオ番組はテレビのようにニュース速報のテロップを入れることができないため、番組を一時的に中断するしかなく、それがドラマの真っ最中だったので、仕方ないこととはいえドラマに聴き入っていた聴取者としてはありがたくないものでした。


『おれ、夕子』のカット、臨時ニュースの割り込みなどあったので、いずれ『おれ、夕子』も含めた“完全版”として再放送あるいはCDソフト化していただきたい、と思うほどです。



 ※「“耳で楽しむ”藤子・F・不二雄の世界」公開録音のレポートはこちらです。
 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20130702