藤子・F・不二雄大全集『ぴーたーぱん』

 23日(金)、藤子・F・不二雄大全集第4期第7回配本『ぴーたーぱん/ジャングルブック ほか』が発売されました。
 
 1958年に「たのしい一年生」「たのしい二年生」の別冊付録で発表された4つの読切作品を収録。すべて、児童文学の世界的名作を原作にしています。

●『ぴーたーぱん』原作:ジェームズ・マシュー・バリ(イギリス)
●『こうのとりになったおうさま』原作:ヴィルヘルム・ハウフ(ドイツ)
●『すけーとをはいたうま』原作:エーリッヒ・ケストナー(ドイツ)
●『ジャングルブック』原作:ラドヤード・キプリング(イギリス)

 これらを読んでいると、当時のF先生の、品がよくやわらかくやさしいペンタッチは児童文学のコミカライズにぴったりで、原作となった児童文学作品がF先生のために用意されたものであるかのような錯覚すらおぼえます。


『ぴーたーぱん』に登場するチンカーベルは、背中に昆虫のような羽のついたかわいい女の子…という意味で、大長編ドラえもんのび太と雲の王国』のパルパルを思い出します。パルパルは天上世界にある絶滅動物保護州の管理人です。そして、ラストの空飛ぶ帆船のシーンを見ると、F先生が高岡地域地場産業センター小ホールの緞帳用にデザインした空飛ぶ帆船が脳裏に浮かび、両作のイメージがクロスします。


こうのとりになったおうさま』はアラビアが舞台。この物語でキーワードとなる呪文「ムタボール」は、『のび太ドラビアンナイト』のなかでシンドバッドが発した呪文でもあります。人間の姿⇔動物の姿、という変身のときに使っているのも同じです。
 このムタボールという語感からは、『パーマン』の「怪人ネタボール」も連想させられます。怪人ネタボールもアラビア風のコスチュームを身につけていますし、おそらくこのネーミングはムタボールが元ネタなのでしょう。


『すけーとをはいたうま』は収録4作品のなかでも特に面白かった。どこでもドア的なたんすが出てきて「おっ!」と思わせるうえ、その後主人公たちが訪れる不思議な国の数々が魅惑的なのです。「なまけもののくに」「おもちゃのくに」「さかさのくに」「でんきのくに」……その奇想天外な光景や状況にワクワクさせられます。


ジャングルブック』は、オオカミの一家が登場するところで『ドラえもん』の「オオカミ一家」をちょっと思い出します。物語の一部分が、マンガではなく絵物語のような形式になるのが印象的。



 本巻の解説は、大阪国際児童文学振興財団の遠藤純さん。収録4作品のうち『ぴーたーぱん』に着目し、F先生版と原作小説やディズニー版をはじめ様々なバージョンを比較考察し、影響関係などに言及しています。遠藤さんの専門を活かした内容で、F全集のこれまでの巻末解説のなかでも、とりわけ研究的な文章でした。