H・R・ハガード『ソロモン王の洞窟』

 映画『ドラえもん 新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜』が今月8日から公開中です。この映画を観た勢いに乗って、藤子・F・不二雄先生が執筆した原作マンガと、1982年公開の旧映画(西牧秀夫監督)を再び鑑賞しました。
 そしてさらに、F先生が『のび太の大魔境』のインスパイア元の一つとして挙げておられたヘンリー・ライダー・ハガード(1856〜1925)の小説『ソロモン王の洞窟』(1885)も再読してみました。
 F先生は、『のび太の大魔境』のインスパイア元について、次のように語っています。

「タンケン(探検)」という言葉に、胸を躍らせた時代がありました。今から、五十年も百年も前のことです。そのころ地球上には、まだまだジンセキミトウ(人跡未踏)の地、人間が足を踏み入れたことのない場所が残されていたのです。
しかし、それらの秘境も、勇敢な探検家たちによってつぎつぎと征服されていきました。リビングストン、スタンリー、スコット、アムンゼンの探検記を、子どもだったぼくらは、ワクワクしながら読んだものです。探検記だけではありません。こんな時代の流れにそって小説の世界でも、『ソロモン王の洞窟』『洞窟の女王』『ロストワールド』などの名作が熱狂的に迎えられました。むろん、架空の魔境での架空の冒険談です。しかし、その時代の人には、いかにもありそうなリアリティをもって読まれたのです。
てんとう虫コミックス・アニメ版『映画ドラえもん のび太の大魔境(下)』1992年、小学館

 F先生はこの発言の中で、実在の探検家や、フィクションの探検小説の名をいくつか挙げていますが、そのうちでも『のび太の大魔境』に最も太く通じる作品と思われる『ソロモン王の洞窟』を再読してみたのです。
 
 【私が持っている『ソロモン王の洞窟』の本】
 ・創元推理文庫(大久保康雄・訳、東京創元社、1972年初版)
 ・世界の冒険文学10(横田順彌・文、講談社、1998年)
 ・世界ロマン文庫06(伊藤礼・訳、筑摩書房、1970年)



『ソロモン王の洞窟』は、アフリカを舞台とした秘境探検小説の古典的名作。秘境探検小説のお手本のような作品です。
 130年ほども前に書かれた小説ですが、読み始めてしばらくすると、そのスピーディーな展開に誘い込まれてグイグイと読み進めることができます。今回読んだ創元推理文庫版にしておよそ370ページ…、これをハガードはほぼ6週間で書き上げたそうです。ほとばしり出るアイデアや想像力や気分のノリに任せて一気呵成に書く彼の執筆スタイルが、読者が味わう物語のスピード感に見事に反映しているのです。ヘンリー・ミラーはハガードのことを「途中で休んで考えることをしない」作家と評しました。



 F先生もこの小説をワクワクしながら一気に読んだことでしょう。宝の在り処を示す古地図、アフリカの野生動物、そびえ立つ巨像、秘境の王国での激しい戦闘、探検隊に参加していたある人物の正体が実は…、など『のび太の大魔境』で描かれた要素がいろいろと見つかります。(ほかにも挙げたい要素があるのですがネタバレになるので控えます)
のび太の大魔境』に限らず、アフリカ秘境探検モノ全般(小説や映画など)の定番要素が『ソロモン王…』に出揃っているわけです。


 F先生は、この小説を読んで感じたアフリカ秘境探検モノ特有の面白さを、『のび太の大魔境』で創造的に再現しようとしたのでしょう。
 そう思いながら『ソロモン王の洞窟』を読むと、この作品への興味がますます深まります。