講演「相対性理論のセカイ〜ブラックホールとタイムマシンの可能性〜

 数日前コメント欄で「タイムマシンの実現可能性」の話題が出ました。それで思い出したのですが、私は今年2月、そういうテーマの講演を聴いていたのです。もう4ヶ月近く前のことですが、講演のなかで『ドラえもん』の話も出たことですし、ここでレポートをアップしてみようと思います。


 2月22日(土)、東海高校・中学で「サタデープログラム24th」が開催されました。同校の生徒たちが自主的に講師を選び依頼を出し運営する公開講座です。2011年には藤子不二雄A先生の講座も開かれました。
 http://www.satprogram.net/list.html
 今回は全部でおよそ50講座が開講。私はこんな講座を受講しました。

●「相対性理論のセカイ〜ブラックホールとタイムマシンの可能性〜」真貝寿明 (大阪工業大学情報科学部教授)

 真貝寿明さんのお話は、特殊相対性理論一般相対性理論の解説を軸に、ブラックホールワームホール、タイムマシンの実現可能性へと展開されました。


 きわめて簡単に言うと、特殊相対性理論は「時間の進み方は観測者によって異なる」、一般相対性理論は「重力とは空間のゆがみである」というものです。
 アインシュタイン特殊相対性理論の論文を出したのは、1905年のこと。同じ年にアインシュタインは、特殊相対性理論のほか「光電効果の理論」「ブラウン運動の理論」と3つの論文を出していて、この3つの偉業を讃えて「1905年は物理学にとって奇跡の年」と言われています。これ以降に誕生した物理学(相対性理論量子力学)を「現代物理学」、それ以前のものを「古典物理」(ニュートン物理)と呼ぶのだそうです。
 真貝さんのお話から、1905年が物理学にとってエポックメイキングな年であったことを強く印象づけられました。



 特殊相対性理論によれば、光の速さに近い速度で移動するほど、時間の進み方は遅くなります。このことから、未来へ行くタイムトラベルは可能である、との結論が導き出されます。
 たとえば、光速の8割の速度で飛ぶロケットであれば、ロケット内部での1年間は、地球上での1年8ヶ月にあたります。このロケットの乗組員が帰還した地球は、乗組員の立場から見れば8ヶ月分未来の地球なのです。
 浦島太郎は、竜宮城で3年間をすごし、地上のふるさとに帰ってみたら知っている人は誰もいない状態でした。仮に浦島太郎が竜宮城で3年をすごすうちに地上で300年が経過していたとすれば、「竜宮城が光速の99.99499%の速度で飛ぶ宇宙船だった」と考えると辻褄が合うわけです。
 こうした意味で、未来へのタイムトラベルなら可能である、と言えるのです。
 これは、SFでは「ウラシマ効果」なんて言い方で登場する現象です。藤子作品でいえば、SF短編『旅人還る』にウラシマ効果という語が出てきます。『ドラえもん』の「竜宮城の八日間」の冒頭でも、スネ夫がこの現象について語っています。「竜宮城の八日間」においては、海底の国で8日間すごすと地上世界では800年以上が経過する、という設定でした。



 真貝さんのお話の中でも『ドラえもん』に言及するくだりがありました。「竜宮城の八日間」には触れられませんでしたが、『ドラえもん』では過去へのタイムトラベルによって起こりうるパラドックスのいろいろなパターンが描かれている、というのです。その例として「プロポーズ大作戦」や「あやうし!ライオン仮面」といった話が挙げられました。「プロポーズ大作戦」では“親殺しのパラドックス”が、「あやうし!ライオン仮面」では“作者不明のパラドックス”が描かれているのです。
 また、『ドラえもん』ではそんなパラドックスの解決策にあたる“事後選択モデル(未来でパラドックスになりそうな出来事はあらかじめ外される)”とか、“多世界解釈パラドックスになりそうな出来事が起こったら、それはその時点で別の世界に分岐する)”といった考え方も描かれている、という説明もありました。



『不思議の国のトムキンス』に関する話も興味深かったです。光速に近い速度で動いた場合に起きる現象を一般の人々に平易に伝えるため、物理学者のガモフが『不思議の国のトムキンス』という物語を書きました。「もしも光速が時速30キロだったら」という“if”の世界を仮定することで、通常の生活の中でも相対性理論の効果がこの目で見えるようになる…というコンセプトの物語だそうです。
 真貝さんからこの話題を聴いたときは、当ブログでルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』について熱く語ったばかりのタイミングとあって、『不思議の国』つながりのその物語に関心を惹かれたのでした。



 一般相対性理論は宇宙規模の途轍もない話で、我々の日常生活にはあまり関係ないように見えますが、たとえば「GPS」では一般相対性理論が応用されているそうです。発表された時点では具体的に何に役立つのかわからなかった一般相対性理論が後年になって役に立った、という事例です。真貝さんも、自分が研究が何の役に立つかということよりも、それが面白いと感じるからやっている、とおっしゃっていました。そうやって研究を積み重ねたことが、未来の社会で何らかの役に立つことになるかもしれないのです。
 この考え方に私も同調します。現時点では何の役に立つのかよくわからないけれど、その事象がとにかく面白いから探究し続ける。その探究の結果として、事後的に、それが何の役に立つのか、どんな意味を持っているのか、誰かに発見される(発見されないかもしれない)。研究とか学問においては、そういう在り方を理想的と感じるのです。現実問題として、何の役に立つか前もってわからないようなことに打ち込む人に対して世間は冷淡だったりしますし、社会状況が経済的に厳しくなると、そういうことを許さない風潮がますます強まったりするので、理想的な在り方を実行し続けるのは難しいのですが…。



 話がズレましたが、真貝さんの講座の話に戻すと、真貝さんの専門に「ブラックホール脱毛定理」というものがあるそうです。ブラックホールにモノが落ち込んだとき、外側から観測できるのは「質量」「電荷」「角運動量」の3つの物理量だけであって、その他の情報は観測不可能になる……とか何とか、そういう感じの定理です。私は「脱毛定理」という名称や「3本だけ残る」という真貝さんの表現から、オバQを思い浮かべました、するとすぐ真貝さんも「我々の世代はオバQを思い出します(笑)」とおっしゃったので、私は「そうそう!」と心の中で同意しました。



 講座中に、いろいろな数式が紹介されました。真貝さんは「この数式は美しい」といったことを述べました。そんなふうに物理学者の感性をじかに聴けたのも貴重な体験でした。私には真貝さんの感じる美しさを感じ取ることができません。だからこそ、私にはわからない美しさの存在を、目の前の人物が発する肉声で知ることができたことが貴重だったのです。
 美しさを感じるということが、その人の知識や教養にも影響される…という事例を目の当たりにできたことにも心震わされました。
 


 最後の質問コーナーで「ご自身はタイムマシンの実現可能性をどう思われますか?」と問われた真貝さんは、「未来へ行くタイムマシンならばありうると思います」と返答されました。将来的に高速の10〜20%の速度で飛べる宇宙船ができれば、少しだけ未来へ行ける。過去へ行くタイムマシンは(理論上は不可能ではないけれど)難しいのではないか、とのことでした。
 雑誌の記事などでは編集者の意向もあって、過去へのタイムトラベルも可能であるかのように読み取れる文章を書いてしまうことがあるのだけど、そこはごめんなさい(笑)とおっしゃっていました。もしワームホールが実際に存在していて、そのほかにいくつもの「もしも」が重なれば、理論上は不可能ではないので、過去へのタイムトラベルが可能であるかのような文章を書いてもウソではないわけですが(笑)
 素粒子の世界ではわかっていないことが多く、その素粒子を扱う「量子力学」と、「相対性理論」は統一されていないので、その両者を合わせた統一理論ができれば、タイムマシンの可能性に大きな変化があるかもしれない、というお話もありました。



 テーマから離れた話題ですが、我々の住む地球(太陽系)は天の川銀河の中にあり、そこから240万光年ほど離れたところにアンドロメダ銀河があって、この2つの銀河が数十億年後に衝突合体する、という壮大なお話も心に残りました。天の川銀河には約3000億個の恒星が、アンドロメダ銀河には約1兆個の恒星があるのですが、たとえ2つの銀河が衝突しても星同士がぶつかり合うことはないそうです。ただ、星と星の位置関係が変化するので、そのときには「星座書換え」のビジネスチャンスが発生する(笑)と真貝さんはユーモアを交えて解説されました。


 講演後、真貝さんに「楽しいお話をありがとうございました」と伝えて教室を退出しました。



●先日は、超合金「超合体!SF(すこし・ふしぎ)ロボット 藤子・F・不二雄キャラクターズ」が発表されて話題を呼びましたが、藤子・F・不二雄生誕80周年記念商品として、こんな商品も発表されました。
ニンテンドー3DSWii U用ソフト「藤子・F・不二雄キャラクターズ 大集合! SF(すこし・ふしぎな)ドタバタパーティー!!」
 http://fff.bngames.net/