『赤塚不二夫というメディア 破戒と諧謔のギャグゲリラ伝説』

 名和広著『赤塚不二夫というメディア 破戒と諧謔のギャグゲリラ伝説 −「本気ふざけ」的解釈Book2』を社会評論社さんからご恵贈いただきました。
 先月末から発売されている新刊本です。
 
 

 
 不世出のギャグ漫画家である赤塚不二夫先生が残した全業績を俯瞰しつつ、非常に細かいところまで目を配って論じており、濃厚かつ繊細な味わいの書物に仕上がっています。“赤塚マニアの極地”とも思える、尋常ならざる詳しさとこだわりは圧巻です。
 とくにページを割いて念入りに論じている作品は『天才バカボン』と『レッツラゴン』。赤塚ギャグの最高到達点といえる2作品です。この2作品が好きな私には読みごたえもひとしお。


 世に出回っている赤塚先生関連の誤認や不正確な知識を、信用のおけるデータに基づいてきっちりとただすことにも情熱が注がれています。もうこれ以上ただすことはない、というくらい徹底的にただしています。たとえば『天才バカボン』を論じ始めるところで、さっそく同作品の正確な連載期間を示しています。『天才バカボン』の連載期間が誤って記述されている事例が(著名なマンガ評論家の本においてさえ)あまりにも多いからです。


 赤塚先生は1970年代終盤、『天才バカボン』の週刊連載を終え(『天才バカボン』だけでなく週刊少年誌での連載から退き)、それ以降はタレントやパフォーマーとしての活動が目立つようになってきます。本書の第四章では、そんな赤塚先生のタレント活動を紹介しながら、これまであまり評価されることのなかった80年代〜晩年期の作品にも正当な評価を試みています。
 第五章は、赤塚先生の単行本と関連書を網羅した「赤塚不二夫全書籍リスト」! この章だけでも資料性の高さは抜群です。


 
 藤子ファン的な読みどころといえば……
 赤塚先生ご本人がトキワ荘時代からの藤子先生の盟友であり同時代に活躍した漫画家同士ですから、本書のすべてが読みどころといえるのですが、もう少し細かい部分に目を向けるならば、赤塚先生が1978年に発表した『赤塚不二夫のタリラリラーン』という作品が、藤子・F・不二雄先生の異色SF短編『気楽に殺ろうよ』と共通のテーマを扱っている、と指摘したくだりが興味深いです。どちらの作品も、性欲と食欲の倫理感が逆転した事態を描いているのです。
 また、1980年代後半、赤塚作品が「コミックボンボン」など講談社系児童誌を中心にリバイバルした現象が、「コロコロコミック」など小学館系児童誌を主舞台に藤子ブームが起こっていた状況への対抗意識のあらわれだった…と論じるくだりも印象的でした。


 最後に、本書の裏表紙に記された惹句を引用して今回のエントリを締めます。この短い言葉が本書の的確な自己言及になっていると思うのです。
「象徴的作品『天才バカボン』でギャグ漫画の王様として孤高性を高めつつあった赤塚不二夫が『レッツラゴン』連載開始の1971年以降に量産し続けた異常性感度の高い実験性・破壊性を放つ傑作、得体の知れない怪作の数々を濃密かつ網羅的に論及」



 ※追記
赤塚不二夫というメディア 破戒と諧謔のギャグゲリラ伝説』は、同じ著者による「本気ふざけ」的解釈シリーズの2冊目にあたります。シリーズ1冊目の『赤塚不二夫大先生を読む』(社会評論社)も合わせて読むと、それこそ赤塚先生の誕生から晩年までを完全網羅できることになります。