ドラマ『未来ドロボウ』放映

 10月18日(土)フジテレビ系「世にも奇妙な物語’14秋の特別編」の枠内で、藤子・F・不二雄先生のマンガが原作のドラマ『未来ドロボウ』が放送されました。F先生の原作のアイデアを活かしながら、力のこもった演技とダイレクトに心に迫るアレンジで最後まで見入りました。おもしろかったです。


 原作の基本的なテーマからぶれていないのがまずよかった。ぶれないうえで、ドラマなりの演出や設定の変更を行なっているので悪い気はしません。主人公の少年が中学生から大学生に変更され、それによって具体的なエピソードにも変化が生じたわけですが、そういう変更が仇(あだ)になっていません。
 

 就職が決まらず日々に不満を持つ大学生・白井直輝を神木隆之介くんが、莫大な財産を築いたけれど老齢で病気を患う大脳生理学者・大葉國正を吉田鋼太郎さんが演じました。両者が人格を交換するのがこの作品のSF(すこしふしぎ)成分ですが、人格交換する前と後の俳優さんによる演じ分けが見応えありました。とくに、人格交換後の2人は熱演! 熱演を超えて怪演といってもよいくらい強い印象を残してくれました。人格交換の前と後とで、白井のシャツの着こなしが変わるところもよかったです。


 ラスト、もとに戻った白井が自分の若い体の素晴らしさをかみしめるように並木道を駆けていくシーンは、彼のように若くない私でも、自分にまだ未来が残されているであろうことを感謝して一日一日を大切に生きていかねばと改めて肝に銘じたくなるものでした。このシーンで、原作のラストページのセリフをほぼ忠実に(完全に同じではないけれど)再現してくれたのも嬉しかった。
 原作はそこで幕を閉じるのですが、ドラマではその後、人格をもとに戻した大葉老人の臨終シーンが描写されます。未来を取り戻して並木道を駆ける白井のシーンに続いて、もとの老体に戻って寿命を終えていく大葉の様子が感動的に描かれて、その対比も心に響きました。
 こういうレベルの映像化なら喜ばしいと思います。


 今回のドラマでは、「未来」と「財産」のどちらに価値があるか…という点を原作よりもセリフなどで強調して、テーマをクリアにしようと努めていた印象です。F先生の原作における抑制的でクールなのに情緒がにじみ出る絶妙な演出に親しんでいる身からすると、ドラマの演出にクサさを感じないでもなかったのですが、ドラマで『未来ドロボウ』に初遭遇する視聴者には親切だったのでしょうし、『未来ドロボウ』を実写ドラマなりの演出で観られたのは新鮮な体験でしたし、必ずしも「変更=悪」というわけではないので、これはこれでよしと感じるのです。
 こういう演出の領域というのは、それこそドラマの監督さんはじめスタッフの個性の発揮のしどころだと思いますし。


 ともあれ、おもしろく観ることができたので何よりです。



 ※宝島社「このマンガがすごい!WEB」で、10月発売のコミックスから選ばれたランキングが発表されています。
 http://konomanga.jp/?p=13687
 2位の浅野いにおデッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』のところに私のコメントが載っています。藤子・F・不二雄先生の作品と絡めてコメントしています。なぜこの作品に強い興味を寄せたかといえば、その点だからです(^^