『宙ポコ』

 先日、こんな下敷きを部屋から発掘しました。
 
「別冊コロコロコミック」で藤子・F・不二雄先生(当時は藤子不二雄名義)の『宙ポコ』が新連載されることを記念したものです。ドラえもんハットリくんパーマン1号・猿丸が新たな仲間である宙ポコをかつぎあげています。ドラもハットリくんパーマンも猿も宙ポコも、当時はすべて藤子不二雄名義の作品でしたが、F作品とA作品に著作権が分かれてしまっている今となっては、二人の藤子先生の手で描かれたキャラクターがこんなにも堂々と共演しているなんて非常に貴重な光景です。


 
 これは『宙ポコ』連載第1回が掲載された「別冊コロコロコミック」1983年4月号です。先に紹介した下敷きは、この号のオマケでした。
 このように『宙ポコ』は、記念の下敷きが作成されたり、表紙に大きく登場したり、巻頭カラーになったりと、「別冊コロコロコミック」月刊化を記念して鳴り物入りで連載の始まった作品なのです。
 宙ポコは、見た目は大きなトカゲか小さなゴジラのようですが、その正体は宇宙人です。「ソールス」という星の子どもなのです。学校が春休みで地球へ旅行に来て、地球の少年・つとむの家に住むことになります。ドラえもんオバQと同様、非日常的な存在が普通の家庭に居候するパターンですね。
 ペットを飼うことに反対のつとむのママは、2、3日なら宙ポコを家に置くことを許してくれます。ところが宙ポコによれば、ソールス星の自転はとても遅く、ソールス星の1日は地球の1年以上にあたるというのです。そういう情報が示されて『宙ポコ』の第1話は終わります。つまり、宙ポコがつとむの家に住む期間は、ソールス星の時間で2、3日=地球時間の2、3年以上であることが暗示されて、話が終わるのです。連載第1回の終わり方がそんなふうならば、『宙ポコ』の連載は何年も続くんだろうなあ…と思うじゃないですか。それなのに本作の連載は、たったの3回で終わってしまったのです。
 あまりにも早く終わってしまったことに唖然としました。あんなにも鳴り物入りで始まった作品なのに、なぜこんなに早く終わってしまったのか…。当時は釈然としませんでした。人気がかんばしくなかったにしても、3回で打ち切りとは早急すぎます。
 それからずっと後年の2009年になって、『定本 コロコロ爆伝!!』という本で「コロコロコミック」4代目編集長だった黒川和彦さんがこんなことを証言されました。

隔月刊の『別冊コロコロ』を月刊化しようという話になって、新『別コロ』の目玉として、(中略)「宙ポコ」というマンガを立ち上げたんです。でも先生が「どうしても「ドラえもん」になってしまう」ということで悩まれて、3回で終わりました。要するに別の作品にならなかったんです。キャラクターはドラえもんとぜんぜん違うけれど、やっぱり先生の中では新しい作品として、(カタチが)見えてこなかったのかもしれない」(『定本 コロコロ爆伝!! 1977-2009『コロコロコミック』全史』渋谷直角・編、飛鳥新社、2009年5月30日第1刷発行)

 どうしても『ドラえもん』になってしまう…という当時のF先生の悩みを知ると、『宙ポコ』連載第1回にあったつとむのセリフ「パーマンみたい、ドラえもんみたい!!」が意味深なものに感じられてきます。このセリフは、宙ポコの力で空を飛んだつとむが発したものなのですが、「ドラえもんみたい!!」という言葉は、空を飛んだつとむの純粋な驚きの表現であるだけでなく、完全新作なのにどうしても『ドラえもん』に似てしまう…というF先生の嘆きの遠回しな吐露でもあったような気がしてくるのです。


 
 これは『宙ポコ』連載第1回トビラ絵の原稿をコピーしたものです。1979年から83年まで活動していた藤子不二雄公認ファンクラブ「ユートピア」の会員特典(だったかな…)でいただきました。下側にスタッフかどなたかの文字で「よろしくネ」とメッセージが書かれています♪ その当時は藤子先生の生原稿なんて見たことがありませんから、生原稿のコピーを手に取っただけでとてつもない喜びを感じたものです。


『宙ポコ』の連載がもっと長く続いていれば「てんとう虫コミックス」から『宙ポコ』単独の単行本が出ていたことでしょう。しかし全3回ときわめて短期間で連載が終了してしまったため、『宙ポコ』単独の単行本は刊行されず、ほかの作品との同時収録というかたちでこれまでに2種類の単行本が出ています。どちらも“全集”の1冊としてリリースされました。

 ・藤子不二雄ランド『ミラ・クル・1』(中央公論社、1989年)
 ・藤子・F・不二雄大全集『ミラ・クル・1/宙ポコ/宙犬トッピ』(小学館、2010年)

 藤子不二雄ランドは絶版なので、現行商品は藤子・F・不二雄大全集版のみです。以下の3話を読むことができます。

 「宙ポコ登場!!」(「別冊コロコロコミック」1983年4月号)
 「自分勝手はどっち?」(「別冊コロコロコミック」1983年5月号)
 「正義のみかたパーマンごっこ」(「別冊コロコロコミック」1983年6月号)