SF映画『スター・ウォーズ』と『オデッセイ』を観た

 
 もう何日も前のことになりますが、映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を観ました。最新の撮影技術で『スター・ウォーズ』の世界を味わえたのが、私には大きな収穫でした。
「BB-8」という丸っこい姿のドロイドが登場しました。その動作や反応がユニークでいじらしくて、見飽きませんでした。2つの球体で構成され、1つは顔、もう1つは胴体というフォルムは、ドラえもんに通じるものを感じます。
 新人女優を起用したヒロインが凛々しくて、かわいくて、物語をしっかり牽引してくれたのもよかったです。
 そうした新登場キャラクターが気に入ったうえ、エピソード4〜6でおなじみのキャラクターたちにも再会できて、嬉しかったです。2時間以上の上映時間が良い意味でとても短く感じられ、娯楽作品として優れた映画でした(少なくとも私にとっては)。

 
 ・パンフレット!


 
 ・映画を観てすぐ、マスコットフィギュアのガチャガチャを一回限りでやってみました。出たのは、カイロ・レン! 悪役側の主要人物です。


スター・ウォーズ』の最新作を観た記念に、「藤子作品と『スター・ウォーズ』」という観点で少し語ってみたいと思います。


●「天井うらの宇宙戦争
 藤子・F・不二雄先生は、作品のなかによく『スター・ウォーズ』ネタを入れ込んでいました。とくに『ドラえもん』で『スター・ウォーズ』のパロディや小ネタがいくつも見られます。
ドラえもん』全話のなかでもとりわけ本格的な『スター・ウォーズ』のパロディといえるのが、「天井うらの宇宙戦争」(てんコミ19巻)でしょう。野比家の天井裏を舞台に、『スター・ウォーズ』を元にしたキャラクターやメカがじゃんじゃん登場し、元ネタと比べると、きわめてスケールの小さな『スター・ウォーズ』が再現されているのです。日常のなかの非日常の面白さも冴えわたるケッサクです。
スター・ウォーズ』のキャラクターたちをモジったネーミングが愉快でして、レイア・オーガナ(レイア姫)が「アーレ・オッカナ」、ダース・ベーダーが「アカンベーダー」といった具合に、脱力度の高い秀逸なダジャレになっています。(『スター・ウォーズ』ネタではありませんが、アーレ・オッカナが「リリパット星」という星の王女である、という設定も好きです。「リリパット」とは、スウィフトの諷刺小説『ガリバー旅行記』に出てくる小人国です)
大長編ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)』も、『スター・ウォーズ』のパロディ的な要素があって、「天井うらの宇宙戦争」のアイデアを大長編のスケールで膨らませた側面があると感じます。


●『スタージョーズ
ドラえもん』における、その他の『スター・ウォーズ』ネタを見ていきましょう。
「ドラやき・映画・予約ずみ」(てんコミ17巻)に、『スタージョーズ』という題名の映画が出てきます。題名が出てくるだけでなく、具体的な場面も少し見られるのですが、そこでは、ルーク・スカイウォーカーC-3POR2-D2ダース・ベーダーなどを元にしたキャラクターがやや劇画っぽいタッチで描かれています。ダース・ベーダーっぽいキャラクターの顔は、ドクロ風のデザインです。
『スタージョーズ』という題名は、他に「のび太の部屋でロードショー」(てんコミ18巻)にも登場します。作中でこの映画の看板が見られるのですが、ジョーズのようなサメが戦闘服を装着して戦う場面が描かれています。サメ型宇宙人が登場する宇宙戦争映画でしょうか。


●『スペースウォーズ』
『スペースウォーズ』という題名の映画が出てくる話もあります。たとえば、「貸し切りチップ」(てんコミ36巻)で『スペースウォーズ』の一場面が描かれています。『スター・ウォーズ』の主人公ルーク・スカイウォーカーっぽい人物と、彼が砂漠で乗っていた「ランドスピーダー」(空中に少し浮上して走るホバー機)っぽいマシンが見られます。
「フエール銀行」(てんコミ30巻)にも『スペースウォーズ』が出てくるのですが、こちらでは、のび太おもちゃ屋のショーウインドウで見つけたプラモデルが『スペースウォーズ』に登場するロケットなのです。


「ドラやき・映画・予約ずみ」「のび太の部屋でロードショー」「貸し切りチップ」は、どれも、のび太ドラえもんひみつ道具の力を借りて大評判の映画を観ようとする話です。「ドラやき・映画・予約ずみ」では、リザーブ・マシンで映画館の席を予約し、「のび太の部屋でロードショー」では、ただ見セットで映画館の映像を自分の部屋へ送信しようとし、「貸し切りチップ」では、映画館を貸し切り状態にしてしまいます。「のび太の部屋でロードショー」だけは、映画を観ることに失敗します(笑)


●『スターウォーク』『ヌター・ウォーズ』
ドラえもん』以外の藤子・F・不二雄マンガで、格別に印象的な『スター・ウォーズ』ネタは、『ある日……』の『スターウォーク』と、『裏町裏通り名画館』の『ヌター・ウォーズ』です。どちらも小ネタとして『スター・ウォーズ』がちょっぴり出てくる程度のものではなく、本格的なパロディ作品として読むことができます。


『ある日……』の『スターウォーク』は、みどりヶ丘シネサークルという同好会のメンバーが第1回映写会で上映したアマチュア短編映画の題名です。『スターウォーク』の冒頭場面は、大きな宇宙船を長々と映し出しています。宇宙船の巨大さを印象付けるためです。実際の『スター・ウォーズ』でも、帝国軍の宇宙船スター・デストロイヤーの巨大さが同じような手法で表現されていました。
『スターウォーク』では、この宇宙船の巨大さがテーマになります。宇宙船があまりにも巨大なため、船内で働く兵士たち(『スター・ウォーズ』のストーム・トルーパーのデザインを模しています)は、ちょっとした作業のためにいちいち長距離歩行を余儀なくされます。その結果、歩き疲れた兵士たちの不満が爆発して反乱が起きる…というユーモアの効いたストーリーです。宇宙船の司令官はダース・ベイダーのパロディで「アカンベーダー」といいます。このネーミング、先述の『ドラえもん』「天井うらの宇宙戦争」でも使われていますね。


『裏町裏通り名画館』の『ヌター・ウォーズ』は、裏日本の裏町の裏通りにある「裏町名画館」という劇場で二本立て上映されていた映画のうちの一本です。同時上映作は『北極物語』。こちらは映画『南極物語』のパロディですね。
『ヌター・ウォーズ』も、やはりスター・デストロイヤー風の巨大宇宙船の場面から始まります。そこから森林の場面に移り、主人公の「ヨサーク」が登場します。北島三郎さんが歌ってヒットした『与作』が元ネタです。
 ヨサークは、田舎できこりをしながら暮らしており、「オハナ」という婚約者もいました。そんなヨサークの平和な日々を打ち破ったのが、レッドペーパーでした。いわゆる赤紙召集令状です。レッドペーパーが届いたことによって、ヨサークの母は息子を案じて嘆き、父は「名誉なことではないか」「皇帝の御恩に報いるときが来たのだ。しっかり御奉公するだぞ」と、本心は悲しみながらも表向きには喜びを示します。家を送り出されたヨサークは、新兵訓練を終えて岩の惑星に配属されます。その後、上官が「大宇宙共栄圏の確立!!これこそが皇帝陛下の大御心である!!」と演説する場面があり、最後には、戦闘機隊に転属したヨサークをはじめ数千の若者が帝国の不滅を信じつつ宇宙に散っていきます。このストーリーは、『スター・ウォーズ』の世界観を借りながら、太平洋戦争時の日本のありさまをなぞっているようです。
 実際の『スター・ウォーズ』の主人公ルーク・スカイウォーカーは反乱軍の一員として帝国軍と戦ったので、善悪の図式をあてはめれば、「反乱軍が善、帝国軍が悪」のように描かれていました。しかし『ヌター・ウォーズ』の主人公ヨサークは帝国軍の兵士として反乱軍と戦うため、ヨサークから見たら、反乱軍は友人を殺した憎いやつらであり自分らの帝国に牙をむくテロリスト集団です。視点としては、反乱軍が悪の側に置かれているわけです。
『ヌター・ウォーク』には、建造中の巨大衛星「デッド・スター」が出てきます。これも『スター・ウォーズ』ネタで、元ネタはデス・スターです。


●ミレニアムパルコのプラモデル
 最後に、もうひとつだけ藤子Fマンガにおける『スター・ウォーズ』ネタを紹介しましょう。『エスパー魔美』の「マミを贈ります」に登場する「ミレニアムパルコ」のプラモデルです。ミレニアムパルコとは、『SPACE WARS』という映画に出てくる宇宙船です。『スター・ウォーズ』のミレニアム・ファルコンのパロディですね。ミレニアム・ファルコンは、ハン・ソロを船長とする宇宙船で、『スター・ウォーズ』の劇中で大活躍します。今回観た『フォースの覚醒』でも再登場し、すばらしい活躍を見せてくれて涙モノでした。



 
 そして、先日、リドリー・スコット監督、マット・デイモン主演の映画『オデッセイ』を観ました。『スター・ウォーズ』が「空想科学」のうちでも「空想」の豊かさや面白さが満ちているのに対し、『オデッセイ』は「科学」のほうに重点が置かれています。近未来には、こういうことも起こりうるかもしれないな、科学的に正しそうに見える物語だな、とリアリティを感じました。もちろんSFマニアや宇宙物理の専門家からしたら正しくない面も見えてくるのでしょうが、私のレベルでは十分なリアルさです。
『オデッセイ』は、火星でひとりだけ取り残された男のサバイバル映画です。酸素も水も食糧も不足していて、通信手段もない。地球からの距離は2億2530万km。最大風速400キロの嵐が起こり、外気温はマイナス55℃、見渡す限り荒涼とした砂漠と岩場。そんな過酷で絶望的な状況下で、マット・デイモン演じる主人公マーク・ワトニーは、科学の知識と実践的な知恵と折れない心で生き抜こうとします。
 藤子ファン的に最も心に響いたのは、ワトニーが火星で食糧を確保するため畑を耕しイモを栽培するところです。どうしたって『21エモン』のゴンスケと同じことやってる〜!と思ってしまいます。ワトニーが栽培したのはジャガイモ、ゴンスケはサツマイモですが、地球外の荒涼とした星でイモを作る行為には大いに共通性を感じます。
 ゴンスケがイモを栽培した星は、銀河系のはじっこにある“宇宙の墓場”でした。21エモン、モンガーとともにこの星に不時着したのです。ロケットは壊れ、通信機もなく、近くを通りかかるロケットもない、という絶望的な状況下にある、というところも『オデッセイ』と近いです。21エモンたちは、ゴンスケが育てた大きなイモを使って宇宙の墓場から脱出しようとします。『オデッセイ』でもワトニーが“こんな方法で大丈夫か?”というやり方で火星の重力圏から脱出する場面があって、その点もイメージがつながったりしました。