2016年をイベント・展覧会で回想する【10月〜12月】

 前回、前々回と、私の参加したマンガ・アニメ関連のイベントや展覧会で2016年を振り返ってきました。


 ■2016年をイベント・展覧会で回想する【1月〜6月】
 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20161229

 ■2016年をイベント・展覧会で回想する【7月〜9月】
 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20161230

 
 今日は、10月から12月までを回想します。つまり、今年を回想するシリーズのラストです。


■10月15日

 丸井吉祥寺店で10月1日から23日まで「楳図かずおの『わたしは真悟』展」が開催されました。『わたしは真悟』ミュージカル化を記念した催しです。
 
 
 『わたしは真悟』の複製原画が数点展示されていました。販売用の品です。その複製原画の並びに、真っ黒な絵が展示してありました。フラッシュを炊いて撮影するとどんな絵か見えるようになる、という仕掛けです。


 
 ・ぬり絵スペース。


 “展”としてはごく小規模ですし、“展”というよりはむしろ“出張ショップ”という感じでしたが、なによりも『わたしは真悟』という世紀の名作・奇作がこうして特集される現象がうれしいです。ミュージカル化のおかげですね♪
 いろんなグッズが売っていて、いくら魅力的でも高価な品には手が出ないのですが、産業用ロボット・モンロー(真悟)のピンバッジはお値段が手ごろでしたし、造形がとても気に入って購入しました。
 
 ・真悟の立体化に歓喜です。


 
 ・「333のテッペンカラトビウツレ」ノートも購入。


■10月15日
 さいたま市立漫画会館で開催された企画展「手塚治虫とっておきの漫画」に行きました。手塚治虫デビュー70周年記念・漫画会館開館50周年記念の展覧会です。
 
 
 
 手塚先生の原画展といいますと、通常は『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『リボンの騎士』『ブラック・ジャック』など“ストーリーマンガ”の原画展示が中心になるのですが、この原画展は、手塚先生のイラスト、絵本画、風刺画、挿絵などにスポットをあてているのがユニークでした。
 メインフィールドであるストーリーマンガの仕事だけでも大量に抱えていて超多忙だった手塚先生が、余技ともいえるイラストや絵本画などでこんなにも丁寧でハイクオリティな作品を制作されていた事実に驚嘆しました。その事実はずっと前から知っていたとはいえ、手塚先生の一枚絵的な作品原画が一堂に会した光景を目の当たりにすると、あらためて驚かされるのです。そして、1枚1枚の絵に見とれました。
 絵のタッチとか作風の幅広いこと! 絵本画のあたたかくて、やさしくて、美しい世界があったかと思えば、その横のコーナーには風刺画が並んでいて、皮肉のこもったユーモアや社会問題を鋭く切り取るセンスに引きつけられました。
 一枚絵的な原画が中心でしたが、少しだけストーリーマンガの原画も展示してありました。その作品セレクトが渋好みでして、デビュー作の『マアチャンの日記帳』をはじめ『化石島』『百物語』『よろめき動物記』『アリと巨人』『七色いんこ』というラインナップでした。
 入場無料で、あんまり大きな規模な展覧会ではありませんでしたが、鑑賞し終えたときの充実感は大きかったです。
 
 ・同展のチラシとリーフレット



■10月15日
 永井豪ファンクラブの例会に初めて参加しました。当日、会が始まる直前になっていきなり参加を言い出した私をあたたかく迎えてくださって、ありがたかったです。
 
 
 ・毎回の例会の会場となる寿司屋さんの大将は、永井豪先生や故・石川賢先生と親しいお友達だそうです。私は、例会の新規参加者の通過儀礼として、その大将が登場する石川賢先生のマンガを読ませていただきました(笑)
 
 
 
 ・例会参加者のお一人が、新潟県燕市酒呑童子行列」の手ぬぐいやパンフレットを私にまでくださいました。永井豪先生がこの催しのために描きおろされたイラストがすごくカッコいいのです!


■10月23日
 第27回名古屋書店員懇親会に参加しました。書店員さん、作家さん、出版社さん、図書館員さんといった、本にまつわるお仕事をされている方々が名古屋に集う飲み会です。直接的にはマンガ・アニメのイベントではありませんが、“本”という括りで考えればマンガも明らかにそこに含まれますし、何名もの作家さんとお会いできて楽しかったので、ここでレポートします。


 作品や書店の話、出版関連の話題、それ以外のお話などが多様に飛び交って、その場で皆さんのお話をうがかっているだけで本好きにはたまらない時間でした。お酒を飲みながら本にかかわる方々の本談義を聴ける悦楽!(笑)
 ベテラン・ミステリ作家の太田忠司先生が『シン・ゴジラ』を6回ご覧になった!という話から、先生がこの映画でもっとも印象的なシーンを語ってくださいました。それは、私の心にも最も深く刻まれたシーンだったので感激でした。
 私は『シン・ゴジラ』を初めて観たときの感想を、あるところでこう書きました。

「あのシーンから伝わってくる圧倒的な絶望感、途方もない無力感…。と同時に感じる絶大な存在感、物悲しくも狂暴で美しいたたずまい。その見事な映像に瞠目し、なんだかわからない感情がうずまいて目に涙がにじんできました。こういう場面でこんなふうに泣けることもあるんだ!と新鮮な感動をおぼえました」

 私がそう感じたシーンと太田先生が最も印象的だと感じられたシーンが重なったのです。


 
 ・今年、横溝正史ミステリ大賞を受賞して『虹を待つ彼女』でデビューした逸木裕さんが私の前に座られました。逸木さんとは彼が作家デビューする数年前からネット上でちょっとご縁がありまして(そのときは逸木裕さんというお名前じゃありませんでしたが)、大賞受賞・作家デビューを知ったときは驚嘆しました。その逸木さんと初対面できたのも感激でした。
 『虹を待つ彼女』は、故人を人工知能で再現しようというアイデアと、そのプロセスを物語るストーリーに興味をひかれました。主人公は、有能であるがゆえに自分の将来を見切って人生とは退屈なものだと感じている男性です。あんまりイイ人だとは感じられません。むしろ嫌なヤツの部類でしょう。そんな彼が、ある一人の故人に興味を持ち、だんだん入れ込んでいくのです。その入れ込みっぷりが、この小説に独特の精彩を与えています。
 ある故人、というのがこの作品のヒロインでして、彼女の美貌と才能とミステリアスな魅力に心誘われました。この小説ではいくつかの謎が示されますが、彼女の存在が最も魅力的な謎でした。少し特殊な恋愛ストーリーを読む感覚です。
 誰がこんなことをしたんだろう?なぜこんなことをしたんだろう?この先どうなってしまうのだろう?というミステリ的な牽引力も強く、どんどん読み進めたくなりました。最後まで読み終えたとき、本作のタイトルがますます美しいものに思えてきました。
 明快に「面白い!」と思えるエンターテインメント小説です。「第36回横溝正史ミステリ大賞」で他の応募作を圧倒して大賞を受賞したのも納得です。
 本筋とは無関係ながら、私の個人的な嗜好で、登場人物のセリフなどに登場するマンガとか小説のタイトルがよく心にとまりました。『ドラえもん』『刺青の男』『山月記』『オツベルと象』…。それだけの語に触れるだけで、この小説への好感度が私のなかで心もちアップするのでした。
 

 この会には宮下奈都さんも参加されました。今年の本屋大賞を受賞した宮下さんの『羊と鋼の森』は、受賞の報があったタイミングで読みました。
 
 
 泣けました。泣けました、って凡庸な感想かもしれませんが、でもやはりそれだけ心が動かされた証しです。泣けたんです。
 主人公は、新米ピアノ調律師の男の子です。その男の子の愚直さ、先輩の調律師たちの言葉や行動からの学び、そして、双子の女の子の一連のエピソード…。ほんとにいいお話です。
 この小説のなかで、原民喜の言葉を引用したくだりがあります。優秀な先輩調律師がどんな音を目指しているかを主人公に向けて話すとき、原民喜のこんな言葉を引き合いに出すのです。
 「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにしたたかな文体」
 先輩調律師は、そういう音を目指したいというのです。
 このくだりがとても印象的で、宮下さんの小説もまたそうした文体を目指しているのではないか、と感じました。その私の感想を宮下さんに伝えたら、「原民喜のこの言葉が好きなんです」とおっしゃってくださいました。
 
 
 ・宮下奈都さんと写真を撮っていただきました! サインもうれしいです♪



■10月29日
 愛知県の刈谷市美術館で9月17日から11月6日まで開催された「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」を観覧しました。
 
 展示の前半パートは、しりあがり先生のマンガ作品の直筆原画でした。最初期の『エレキな春』から現在連載中の『地球防衛家のヒトビト』までを原画で概観できました。
 
 私は、『弥次喜多in DEEP』「第15話 塀の向こう」の“メビウス”の見開きページが以前から大好きだったので、その原画を観られただけでも心震えました。
 
 
 ・『弥次喜多in DEEP』「第15話 塀の向こう」


 後半は、この企画展のメインテーマ“回転”です。現代美術です。
 
 ・やかんやらラーメンやらわらじやらミニカーやら前方後円墳やらダルマやら試験の答案やら雇用証明やらメンコやらQちゃんのお面やら、とにかくなんでもかんでも回転していました。美術館の監視員さんが座る椅子(のひとつ)まで回転しているのが個人的にツボでした。さすがに、回転する椅子に座る監視員さんはいらっしゃいませんでした(笑)
 
 ・藤子ファン的には、Qちゃんのお面にどうしても反応してしまいます(笑)


 
 ・回転するエビフライの部屋も狂気じみていてよかった!


 「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」の関連催しとして、10月29日にしりあがり寿先生×祖父江慎先生の対談イベントが開催されました。
 と〜っても面白かった!
 しりあがり先生と祖父江先生は多摩美の先輩・後輩のご関係。お二人の息の合った、ユルいけれど鋭いトークに笑ったり刺戟されたり。1時間半があっという間でした。
 しりあがり先生は祖父江先生と初めて会ったとき「東京には変な人がいるんだなぁ」と思ったけれど、現在に至るまで祖父江先生以上に変な人に会ったことがないとか(笑) 祖父江先生の“変”は、ステージに入場したばかりでさっそく発揮されました。「そこでつかまえた」とカマキリを手に乗せて登場されたのです。 
 多摩美漫研のOB誌を見せてくれるコーナーがありました。祖父江先生のマンガがえらく前衛的でインパクトを感じました。
 トークの本題は、祖父江先生が装幀・デザインを担当したしりあがり先生のコミックスについてです。『エレキな春』や『おらあロココだ』を皮切りに、祖父江先生がこだわったポイントなどが語られました。ひとつひとつの本を凝りに凝ってつくったことが伝わってきました。紙に穴をあけたり、包帯を使ったり。カーボン紙を使おうとしたこともあったのですが、それは却下されたそうです(笑)
 
 
 ・対談終了後は、しりあがり先生のサイン会! サイン会の実施は事前に告知されていなかったのでビックリでした。図録にサインをいただきました。
 しばらくしてロビーに祖父江先生が出てこられたので、少しお話することができました。祖父江先生は愛知県のご出身なのでトーク名古屋弁でやりたかったそうですが、うまくいかなかったとのこと(^^)
 
 そして、祖父江先生がブックデザインを手がけたしりあがり先生のご著書『あの日からのマンガ』に、ご両人からサインをいただけました♪ しりあがり先生が先に書かれたサインに連続して絵を付け足すように祖父江さんがサインを書いてくださって、唯一無二のコラボサインができあがりました。
 
 ・金色の部分がしりあがり先生、銀色が祖父江先生の線です♪


■10月30日
 私の住む市内にあるJR春日井駅の新駅舎と自由通路が完成し、この日の始発から供用が開始されました。それを記念して、春日井市出身の漫画家・ハロルド作石先生が描き下ろした『RiN 春日井編』の冊子が駅で配布されました。
 
 
 『RiN』の主人公・伏見紀人くん(春日井市在住)が、これから春日井へやってくる石堂凛さんを市内のどこへ案内したらよいのか困り、地元愛あふれる友人にレクチャーを受ける…という内容です。


■11月13日
 トークイベント「『ビバ!ダイナミック』OFFLINE -vol.1- 〜Wikipediaに載らない“永井豪ダイナミックプロ”漫画「独自研究」祭〜」がロフトプラスワンエストで開催されました。
 
 
 “永井豪ダイナミックプロ”の熱烈濃厚なファンの方々がその魅惑的な世界をディープに語るイベントです。深く濃いダイナミック愛が会場内を包み込んだ3時間。私には未知のお話がたくさんあって、それが楽しく面白く紹介されて、がっつりと楽しめました。
 デビルマンのキャラデザインが固まっていくまでの過程に隠された秘密!
 没後10年を迎える石川賢先生の(よくある誤解・誤認を軽々と吹っ飛ばす)凄腕っぷり!
 桜多吾作先生の単行本未収録作品が放つ破天荒な魅力!
 そういった内容が、ほとばしる愛情と、深い知識と、あくなき探究心で披露されていったのです。



■12月8日
 今年も、『コブラ』の寺沢武一先生&エイガアルライツさんの合同忘年会に出席させていただきました。昨年までは渋谷が会場でしたが、今年は銀座!
 
 およそ250人もの出席者がいらっしゃって熱気あふれるなか、ステキな方々とお話したりご挨拶したりして、楽しい時間をすごせました。場の華やぎに加え、ワインばかり飲んでいい感じで酔っていたこともあって、一夜だけ竜宮に招かれたような夢心地でした(笑)

 
 ・『コブラ』のキャラクターたちが生みの親である寺沢先生を囲む!


 
 ・寺沢武一先生と!


 
 ・女優・グラビアアイドルの佐々木心音さん♪


 
 ・手塚プロダクションの松谷社長!


 
 ・抽選会の景品たち。


 
 ・私は抽選会でコブラのトートバッグが当たり、寺沢先生にその場でサインをいただきました!


 
 ・会の終了後いただいたお土産♪


 さて、2016年を振り返ってまいりましたが、その2016年も本日で終わりです。来年は、『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』のほか、1月から藤子・F・不二雄先生の『中年スーパーマン左江内氏』がTVドラマ化、春からは藤子不二雄Ⓐ先生の『笑ゥせぇるすまん』が新たにTVアニメ化される予定でして、藤子先生原作のメディア化が続きます。藤子ファンには楽しみの多い年になりそうです。


 今年、当ブログを読んでくださった方、訪問してくださった方、応援してくださった方に深く感謝します。
 来年もどうかよろしくお願いいたします。


 みなさま、よいお年を!