ドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』放映開始

 ドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』の第1話が1月14日(土)に放送されました。ゴールデンタイムに自宅の部屋で視聴するドラマとして気軽にゆるりと楽しめました。そこに小ネタやパロディ、アドリブ的なやりとりがスパイスのようにまぶしてあって、今後も視聴しようと意欲がわきました。
 そのうえで藤子ファンとしてどう感じたかといえば、藤子F先生の原作を材料に、福田雄一演出で自由に料理し色濃く味付けした作品だな、ということです。F節が後退して福田節が全体を覆っている…。これがアニメ作品ならもう少し藤子っぽく(見えるように)演出してよ…と感じていたかもしれませんが、実写となるとそういう欲求ははじめから持たないようにしているので、この調子で自由にやっていただき、いっそのことさらに弾けてほしいくらいです。


 観ていて強く感じたのは、ドラマでは周りの人たち(とくに家族)の左江内氏に対する当たりがキツイことです。原作でも左江内氏が軽んじられている印象はあるけれど、それよりずっとキツイのです。左江内氏に毒を吐いているときの嫁役・小泉今日子さんと娘役・島崎遥香さんがリアルに生き生きとして見えます(笑)
 でも、普段はキツイけれど根っこのところでは自分の夫・父である左江内氏のことを大切に思っているんだよ…という家族愛的なメッセージをほのめかし気味に描いていくのが、このドラマのひとつの眼目なのだろう、と思います。


 左江内氏の役に、原作とは歴然とイメージの違うイケメンの堤真一さんが起用されました。これはゴールデンタイムのドラマであるがゆえの大人の事情か…とも思ったのですが、というよりは従来からの福田さん流の手法なのですね。原作とは違うタイプの役者に演じてもらって、そのキャラクターに見事にハマる面白さを狙うという。
 福田さんはマンガを実写化する意味についてこう書いています。

「え?この役者があのキャラクターを演じるの?」という違和感や不安をはねのけ、「この役者が演じているからこそおもしろい!」と視聴者に感じてもらいたい。

ドラマで左江内氏を演じるのは堤真一さん。原作の左江内氏に比べると、ずいぶん見た目がかっこいいサラリーマンです。だからこそギャップが生まれておもしろくなるのです。原作ファンの皆さんにも、そこを楽しんでもらえたらうれしいですね。

 原作の左江内氏に慣れ親しんだ私からすると、ドラマ版に違和感をおぼえてしまうところはあるのですが、ドラマを観続けるうちにその違和感が「堤さんだから面白かった」「堤さんが左江内氏にしか見えない」というふうに変化していけば、私は見事にこのドラマの術中にハマったことになります(笑)


 そうやって福田節を炸裂させながらも根柢のところでは原作のスピリットを尊重してくれるのだろう、という信頼感のようなものは持っています。福田さんご自身も、自由に脚本を書いたけれど原作の大切な部分は守ろうとした、と書いておられます。表面的には福田カラーに染め上げられそうなドラマ版左江内氏ですが、それは原作クラッシュではなく、原作リスペクトのうえでの自由な作品アレンジなのだ、と今のところ好意的にとらえています。


 ドラマ放映スタート前の宣伝番組で福田さんが藤子F先生のことを「藤本先生」と呼んでいました(福田さんのその発言を文字化した字幕テロップでは「藤子・F・不二雄先生」と記されましたが)。たったそれだけのことですが、福田さんは私と同じ時代に少年期をすごし藤子体験を経た人なんだなあ、と勝手に共感を抱いてしまいました。なにしろ同じ年生まれですから(笑)そんなところも、私がドラマ版左江内氏に好意的な心情を持った理由です。
 ちなみに私は、体験的・感覚的には「藤本先生」というほうがしっくりとくるのですが、ネット上では、「藤子・F・不二雄先生」「藤子F先生」「F先生」といった語を使うことが多いです。現在の公式ペンネームを尊重しようという思いと、そう呼んだほうが多くの人に誰のことを呼んでいるのか伝わりやすい、という実感があるからです。
 コンビ解消直後からしばらくは、ペンネームに「F」という記号が入っていることをすんなりとは受け入れられなかったのですが、今となっては、「F先生」という言い方にすっかり慣れており、自然と「F先生」と言えるのです。


 最後に、今回のドラマ内で見られた藤子F関連小ネタを挙げておきます。
 ・左江内氏が勤める会社がⒻマークのフジコ建設
 ・左江内氏のご近所さんの名が木手さん
 ・ムロツヨシ演じる刑事がモジャモジャヘアの小池さん
 ・小池刑事の相方の警官が刈野さん
 ・はね子の通う学校名が源高校(しずちゃんの苗字だ!と思ったのですが、星野源さんを意識した面もあるかもしれません)
 ・左江内氏の背中に乗って飛ぶもや夫とはね子がのび太ドラえもんの話をする。