まんが道大解剖」刊行記念 藤子不二雄Ⓐ先生トーク&サイン会

 4日(土)、紀伊國屋書店新宿本店で開催された「藤子不二雄Ⓐ先生トーク&サイン会」を観覧しました。
 
 
 3日に発売された「まんが道大解剖」刊行記念の催しだったので、関係者のひとりとして参加させていただけたのです。ありがたい限りです。
  今月10日で83歳になられる藤子Ⓐ先生のお元気な姿を拝見できて、ひたすら感激でした。
 
 Ⓐ先生のトークは、マンガ史の貴重なナマ証言であると同時に、古典落語のようなテンポとユーモアに満ちていて、いつ聴いても、前に聴いた内容でも、じつに面白いのです。
 

 「まんが道大解剖」のなかに「心に残る名言集」というコーナーがあります。トークの話題は、まずそこから入りました。司会者が「おれの恋人はまんがや!!」という満賀道雄のセリフに触れると、Ⓐ先生は「これはストレートすぎて…」と、ご自分ではあまり名言とは思っておられないご様子でした。私はこのセリフにとても感動し、10代のころは(今もですが)読むたびに心が震えたものですが…


 「まんが道大解剖」には「秘蔵資料大公開!!」として“藤子不二雄原稿大量落とし事件”のときの催促電報や、昭和30年代の日記・金銭出納帳などが掲載されています。そういう昔のこまごまとした紙モノまできっちり保管していることについて、Ⓐ先生は「僕には収集癖があって、何十年かすると価値(あたい)が出るんじゃないかと思って(笑)」とおっしゃり、会場の笑いを誘いました。でも、催促電報を見ると「心が痛む」と、明るい口調ではありましたが、つらい気持ちも吐露されたのでした。Ⓐ先生のそうした収集癖のおかげで、われわれは『まんが道』のような資料性豊かな歴史的名作を読むことができたわけで、感謝するばかりです。


 食に関するトークも楽しかったです。
「僕は魚と肉が食べられない。氷見は魚が豊富だが、曹洞宗のお寺で生まれ、特別な精進料理を食べて育ったので、魚と肉をまったく口にしたことがなかった。だけど上京して手塚先生がうなぎをご馳走してくださる機会があり、僕は調子がいいもんだから「うなぎ大好きです!」と答えた(笑)。それでうなぎを食べたら、ものの0.3秒くらいで鼻血が噴き出した。これは違和反応といって、それまで一度も動物性たんぱくを体に入れていなかったのが原因…」


 Ⓐ先生は基本的に肉を食べられませんが、例外もありまして、たとえば『まんが道』には満賀がフランスパンのメンチカツはさみを食べる場面があります。司会者がそのことを質問すると…
「メンチカツなら少し食べられる。当時はラーメンをよく食べたが、上に載ったチャーシューは残していた。ギョウザは食べられる。田舎にはなくて東京に出てきてから初めて知った“新しい食べ物”だった。それから焼き鳥も。以前、有楽町のガード下の焼き鳥屋にいたとき、選挙報道中のテレビ局に突然取材され「あれ、藤子さんじゃないですか!」と問われ、「いえいえ違います」と答えた(笑)」


 『まんが道』には、満賀道雄才野茂が何かを食べておいしいと感じたとき「ンマーイ!」とリアクションする場面が何度かあります。司会者が「ンマーイ!」はどう発音するんですか?と質問しました。
「もう忘れた(笑)森安なおや氏がよくトキワ荘の僕の部屋に来ては「腹が減ったから何か食べるものはないか」とねだった。僕は断れず、なけなしの30円でラーメンを取ったりした。それを森安氏が食べたとき「ンマーイ!」と言った。彼には憎めない不思議な魅力があった」


 トークイベントの途中、なんと、竹本孝之さんがゲストとして登場しました。ドラマ『まんが道』で満賀道雄を演じたあの竹本孝之さんです!
 
 事前に告知されていなかったので、非常に嬉しいサプライズでした。あのころと変わらず男前でいらっしゃる!! 


 
 竹本さんもトークに加わり、Ⓐ先生と竹本さんが隣り合って並ぶ!というすばらしい光景を見られることになりました。眼福です。


 竹本さんはⒶ先生に「先生の作品で最高傑作だと思われるのは?」と質問。先生は「まだ傑作は描ききれていない。自分のマンガを読み返すと「こうすればよかった…」と忸怩たる思いが必ず出る。この仕事、満足したら成長しない」とお答えになり、私は心がシビレました。その発言の裏には、自分の膨大な作品のなかからどれか一つを選ぶのは忍びない…という自作品への大きな愛情も含まれているように感じました。
 

 トーク終了後は撮影会。この記事でアップしたⒶ先生と竹本さんの写真はすべてこのとき撮ったものです。Ⓐ先生側からも撮影したいということで、場内の全員で一斉に「ドーン」のポーズをやりました♪


 その後がサイン会です。私は関係者枠で入っていてサイン会には参加できませんでしたが、Ⓐ先生がファンの一人ひとりにサインを書かれていく姿を眺めながら、その場にいられることをじっくりと堪能しました。


 トーク終了後に知人と会話をしていたら、品のよい年配の男性が話しかけてきてくださいました。元中央公論社社長の嶋中行雄さんだとわかってビックリ。そう、あの藤子不二雄ランドをはじめ数々の藤子本を世に送り出した嶋中さんだったのです! 立ち話ながら、藤子不二雄ランド刊行時のことや、藤子F先生の『チンプイ』のことなどをうかがえて、思いがけない喜びを味わえました。嶋中さんがF先生に藤子不二雄ランドの新連載を依頼したとき注文したのはただひとつ、「主人公を女の子にしてほしい」ということのみ。あとはすべてF先生にお任せした、というお話をうかがいました。その一言からエリさまが生まれたんだ!と思うとじつに感慨深いです。