てんとう虫コミックス新装版『エスパー魔美』5巻発売

 5月26日(金)、てんとう虫コミックス新装版『エスパー魔美』5巻が発売されました。
 
 

 
 収録作品についてちょっとばかり書いてみます。


 「地下道おじさん」は、会社の社長が道楽でホームレスをやっている…という話です。同じ設定を違う切り口で描いた短編マンガに、手塚治虫先生の『夜の声』(空気の底シリーズ)があります。読後の後味の良さ/悪さという点でこの2作品は対極にあるので、読み比べてみるのも一興かもしれません。


 「恋人コレクター」に早手という男が出てきます。私のなかでは、『宇宙からのおとし玉』の御影と並び、藤子Fマンガにおける“口八丁手八丁の女たらしのろくでなし”の双璧です。早手は最初から最後までイヤな感じを漂わせていますが、“パカラン パカラン”という人間離れした足音だけはじつに可笑しいので、そこだけ許してやれます(笑)
 『ドラえもん』の「にっくきあいつ」(F全集4巻収録)に出てきたしずちゃんの家庭教師も、早手や御影と似たタイプですが、早手や御影の域にはまだまだ達していません。達してなくてよかったです(笑)


 エスパー危機一髪」:超能力の調子がおかしくなった魔美が、それでもエスパーの使命を果たそうとしたため、命を落としそうになります。その瞬間の魔美の悲痛で絶望的な表情が心に刺さります。
 ラストの一コマは“遅刻しそうになってパンをくわえながら急いで学校に向かう女子”という、古くから少女マンガにありがちなベタ表現(ベタ表現と指摘されがちな表現)が見られて楽しいです。パンをくわえて駆ける女子って、マンガ表現としてはベタなのかもしれませんが、現実には見かけないですね(笑) 見てみたいです。


 「凶銃ムラマサ」:魔美から説明やアイデアを求められると、いつもなら理路整然と明晰に語ってくれる高畑さんが、この話では「ジャンときたらパッだよ!」と、長嶋元監督ばりに感覚的で苦し紛れな言い方をします。その感じがちょっとツボです。


 「オロチが夜くる」:高畑さんが魔美に教えたヘビ除けのおまじない「戸口にアルファベットの最初の四文字をかく」が、妙にくだらなくて好きです。「ABCD」→「蛇血出(ヘービーチーデー)」って(笑)
 知人から聞いたのですが、この「蛇血出(ヘービーチーデー)」には元ネタがありまして、五代目古今亭志ん生の持ちネタだったそうです。古今亭志ん生といえば、落語好きの藤子F先生が特に好んで愛聴された落語さんですね。そして「オロチが夜くる」というサブタイトルは、1940年代のフランス映画『悪魔が夜来る』のモジリではないかと。魔美はフランス人の血を引いているので、フランスつながりだなぁと思ったりもしました。


 「学園暗黒地帯」は、初出時には2号にわたって発表されて、『エスパー魔美』のなかでもページ数が多めの話です。言論の自由のために学園の闇と戦う高畑さんが凛々しいです。


 本巻のラストに収録された「サマー・ドッグ」は、『エスパー魔美』の「マンガくん」連載版としては最終話にあたります。その後「マンガくん」は「少年ビッグコミック」にリニューアルされ、『魔美』は不定期連載になったのです。
 「サマー・ドッグ」は「マンガくん」連載最終話にふさわしい名編です。話の終盤、生まれて初めて死にものぐるいになると宣言した高畑さんの覚悟から始まる数ページは、深く胸に迫ります。感動して泣けてくる場面もあれば、ただハッピーエンドでは終わらないほろ苦いラストもあって、心が揺さぶられます。
 ペットの飼育放棄というのは、魔美が描かれた時代より現在のほうがより深刻な社会問題になっているような気がします。