新体制アニメ『ドラえもん』放映開始

 新体制となったアニメ『ドラえもん』が7月28日(金)に1時間SPとして放送されました。
 私は残念ながらリアルタイムで視聴できませんでしたが、録画しておいたのを観ました。新しくなったOPアニメから心をつかまれ、サブタイトルが表示されるときの絵が原作のトビラ絵を意識したものになっていて「おおっ!」と目を見張りました。


 そして本編です。
 初めに放映された「ぼくミニドラえもん」は、小気味よく話が進んで、かわいくて、素直に楽しかったです。
 スネ夫が、浴びたくもない2種類の液状物(ジャイアンの鼻水とスネママが噴き出したコーヒー)をモロに浴びて気の毒でした(笑)
 しずかちゃんが森でスケッチしていたオオルリという野鳥は、実際に本物を観たとき大感激した憶えがあります。オオルリは姿ばかりじゃなくさえずり声が非常に美しくて、日本三鳴鳥のうちの一種とされています。
 原作では行方不明になったネコがどうなったか描かれませんでしたが、この問題も今回のアニメではミニドラの活躍で見事解決してすっきり気分です♪


 今回の1時間SPのメインである「ぞうとおじさん」は、入魂の一編でした。原作をずいぶん膨らませるかたちで新体制ドラえもんの意気込みや技量を示してくれました。ゾウのハナ夫と、のび四郎おじさん・飼育員のおじさんがどうかかわってきたのかが丁寧に掘り下げられたおかげで、そのハナ夫が殺されそう…という状況がより心情的に迫ってきました。涙なしに観られませんでした。
 原作ののび郎おじさんが、のび四郎おじさんに変更されました。のび四郎おじさんは、のび太から見て大おじさんにあたります。これは、戦争が終わってから経過した年月を考慮した設定変更ですね。現在新たに「ぞうとおじさん」をリメイクするのですから、この変更は賢明だと思います。
 アバンタイトルの演出をはじめ、サイドカーによるアクションシーンにも力が入っていたりして、劇場版アニメを観ているような感覚をけっこう得られました。新体制ドラえもんが毎度このレベルでやっていくというわけではないでしょうが、それでも新体制への期待と信頼が高まる一編でした。


 
 さて、当ブログでも何度か触れているとおり、「ぞうとおじさん」のベースは絵本『かわいそうな ぞう』で描かれた、実際にあったお話です。戦時下の上野動物園を舞台に、猛獣処分のためゾウが殺されることになるお話です。
 藤子・F・不二雄先生のご長女は、こんなことをおっしゃっていました。「『かわいそうなぞう』を読んだときも、父は胸が痛んだのでしょう。ドラえもんの「ぞうとおじさん」では、かわいそうなぞうを助けるという話になっています」。ご長女によると、F先生は『かわいそうなぞう』に限らず子ども向けの物語が悲劇で終わることをあまり好まなかったそうです。『フランダースの犬』の最終回に娘さんたちは大泣きしたのですが、F先生は「正直でやさしく、働き者が報われないのはかわいそうすぎる」と真剣に語っていたとか。
 また、私は7年ほど前に名古屋で大山のぶ代さんの講演を聴いたことがあります。その日が8月の前半だったこともあり、時節柄、大山さんは「ぞうとおじさん」のお話から入りました。アイデアを駆使して最後にゾウの命を救ったF先生のことを、「やさしいおじさん」と表現していました。
 現実の上野動物園ではゾウの命は救われなかったのですが、その悲劇的なお話を読んだF先生は、「ぞうとおじさん」を描くことで、ゾウの命が救われる結末へと改めたのです。現実にはもうどうにもならない、過去のことだから変えようがない、起こってしまったことだから仕方がない…。我々は厳しい現実に対してそんなあきらめに似た気持ちを抱かざるをえません。F先生は、その変えようがない厳しい現実に対して、マンガを描くことで抗ったのです。私はそこに、フィクションの持つ力を感じました。
 そういえば、今回のアニメ「ぞうとおじさん」に、空腹のハナ夫がエサをもらえると思って飼育員に芸を見せるくだりがありました。これは、絵本『かわいそうなぞう』のなかで上野動物園のトンキーとワンリーが見せる行動と一緒です。


 
 『ぞうれっしゃがやってきた』という絵本があります。『かわいそうなぞう』は上野動物園を舞台にしたお話ですが、こちらの舞台は名古屋の東山動物園です。どちらも戦時猛獣処分で殺されることが決まったゾウのお話ですが、東山動物園では2頭のゾウが生き残ります。ノンフィクションでもゾウの命が救われたお話があるのです。


 太平洋戦争時の猛獣処分では、少なくとも10ヵ所の動物園で130頭以上の動物が犠牲になりました。ゾウについていえば、熊本動物園(現・熊本市動植物園)でもゾウが処分対象にされました。「部隊の食糧にする」との通告で1945年に処分が実行されたそうです。
 上野動物園では空襲などに備え1941年に動物の危険度を4段階にランク付けしました(動物園非常処置要綱)。もっとも危険とされる1番上のランクには、トラ、ライオン、クマ、カバ、オオカミ、ヘビ……そして、ゾウもいたのです。