カバゴンこと阿部進さん死去

 ■教育評論家・阿部進さんが死去…「現代っ子」の生みの親
“カバゴン”の愛称で広く親しまれ、「現代っ子」の造語でも知られる教育評論家の阿部進(あべ すすむ)さんが10日午前3時38分、胃がんのため死去した。87歳。通夜・葬儀は近親者で行う。喪主は長男・昌浩(まさひろ)さん。
(「日刊ゲンダイDIGITAL」2017年8月12日)
 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/211404/1

 阿部進さんといえば、マンガに向けられたPTAや世間の苛烈なバッシングに対してマンガの擁護者として教育評論家の立場から言論を展開してくださった方、との印象が強いです。マンガの自由さを愛する者として、阿部さんに恩を感じています。


 藤子関連でとくに印象深いのは、阿部さんがオバQを「幼児の原形」(お化けという仮の姿になって幼児の成長過程の少し先を行く仲間)と評していたことです。阿部さんは、藤子先生が『オバQ』の読者のことを「やがてはオレたちと同じおとなになる仲間」と思いながら書いた、と分析していました。読者の仲間であるという意識で描かれた作品だから、『オバQ』は子どもたちの大きな共感を得たのだと。
 そして、「ぼくは、オバQは、松田道雄・スポック博士・トーマス博士と並んで、「藤子不二雄の育児書」と呼んでも決してまちがいではないと思っている」と、『オバQ』の子どもたちの成長におよぼす影響力を表現していました。


 阿部さんはそうやって『オバQ』を誉めるばかりではなく、功罪の罪の面にも目を向けていました。『オバQ』の罪。それはお化けを友達にしてしまったことだと阿部さんは言います。
 なぜお化けを友達にしたらいけないのか?阿部さんの考えはこうです。
「おばけは子どもたちからみて相対する存在であってほしいと思う。それは子どもにとって未知なるものへの恐怖を教えることになるからだ。おばけとは得体の知れない、四次元世界を超越してこの世に存在しているもの、それは恐怖であり、それを解きあかすために文明・科学が発達したと考えるからだ。」「外からよってくるものを無制限に、「みんな友だち、万国博よ、おめでとう!!」といったものにしてはならないと思うからである。外よりきたるものには人間の知恵を結集してうたがってみる、そこから出発してほしいと思う。」


 外からやってくる存在、本来は怖かったり遠かったり未知だったりする存在と親しい友達になる、というのは『オバQ』で確立された藤子マンガの王道パターンです。この阿部さんの考えはそんな藤子マンガの王道パターンの全面否定とも受け取れますが、そういう見方もあるのだな、と一つの視点を与えてくれるものとして私には興味深いです。


 阿部さんのご冥福をお祈りいたします。


(阿部さんの発言は、虫コミックスオバケのQ太郎』2巻(1969年)から参照・引用しました)