てんとう虫コミックス『ドラえもん』第44巻

 きのう古本屋でてんとう虫コミックスドラえもん』第44巻を見かけ、すでに何冊も持っているのに、つい買ってしまいました。『ドラえもん』が第1回手塚治虫文化賞マンガ大賞」を受賞したときのオビと、小学館ビデオ藤子不二雄映画全集のチラシが挟み込まれていたのでつい…(笑)
 
 
 
 この第44巻に収録された話で私が特に好きなのは「ムシャクシャカーッとしたら」です。“ムシャクシャタイマー”をセットしておけば何をどう壊しても元通りに修復できるからと、本来壊してはならないモノを心置きなく豪胆に破壊する…。その破壊シーンになかなかのインパクトがあります。
 そして、破壊シーンもさることながら、次のようなシーンにも独特のインパクトを感じました。


 ・何をどんなふうに壊しても大丈夫ならば、たとえばドラえもんを壊しても平気なの?とのび太ドラえもんを壊そうとする構えを見せる。
 ・ボーナスがたくさん出た嬉しさのあまり、ママがのび太の前に札束を無造作に放り投げる。


 のび太が冗談にせよドラえもんを壊す素振りを見せるなんて…。ママがお金をわが子に向けてそんな雑に扱うなんて…。そんなふうに、野比家の人たちの素の言動(ひみつ道具の影響下にない行動)が少し常軌を逸しているのです(笑)


 「ハワイがやってくる」も、とても好きな話です。少しずつ長大な歳月をかけて進行する現象を、わずかな時間で達成させられる“年月圧縮ガン”。その効力で、鍾乳洞の天井から垂れ下がる鍾乳石を一気に育てたり、太平洋プレート上を年に数センチずつ東へ移動するハワイ諸島をグングン日本に近づけたり…。そんな壮大な現象の即席っぷりが面白いのです。  
 「ハワイがやってくる」のラスト一コマも印象的です。のび太が年月圧縮ガンのマイナスボタン(時間を後戻りさせる機能)を押して、月の軌道を地球にグイッと近づけてしまうのです。夜空を埋め尽くす巨大な月! それは、ひみつ道具を使ってとんでもないイタズラを思いつく…という点では実にのび太らしい行為ですが、月の軌道が地球から少しずつ遠ざかっているという事実をのび太が知っていたからこそできたイタズラであって、その意味でのび太がちょっと知的に見えるオチでもあるのです。


 ラスト一コマの魅力という観点では、「おれさまをグレードアップ」「季節カンヅメ」「ブラック・ホワイトホールペン」なども、ラストの一コマがバカバカしくて笑えて好きです。「恋するジャイアン」もラスト一コマで見事に“笑い”が決まっているのですが、これは、失恋をしたうえに好きでもない女児にもフラれて泣きっ面に蜂状態のジャイアンがあまりに気の毒でして……、でも面白いオチなのです(笑)


 44巻の表紙にも描かれている“サイオー馬”は、「人間万事塞翁が馬」という故事成語を元ネタにしたひみつ道具です。故事成語の端的な道具化!というのが楽しいです。ドラえもんがサイオー馬を取り出す前に、運命なんてものは縄のように良いことと悪いことが絡み合っているんだ、とのび太に縄を見せながら語るシーンがあります。このシーンは「禍福は糾える縄の如し」という故事成語が下じきになっています。この話は、似た意味の2つの故事成語がベースにあるわけです。


 44巻に出てくるひみつ道具では“タチバガン”とか“アニメばこ”とか“バランストレーナー”なんかも好きです。ここで言う「好き」とは、「こんな道具が欲しいなあ」というより、「マンガに出てくるアイテムとしてアイデアやデザインが面白い」といったニュアンスです(もちろん、欲しいなあとも思うのですが・笑)。
 人の立場を瞬時に入れ替えるタチバガン。マンガだけじゃなく日記までも即座にアニメ化してしまうアニメばこ。そのアイデアが好みなのです。そして、バランストレーサーは、スキーやサーフィンや乗馬などをやるためバランス感覚を養うひみつ道具なのですが、そのデザインが単純素朴な座布団みたいな形をしていて、そこのところが私にはツボだったりします。


 最後に…。「虫よせボード」という話も44巻に収録されています。“虫よせボード”によってセミ、カブトムシ、クワガタムシ、トンボ、ミツバチなどの昆虫が寄ってきたなか、アゲハ蝶も寄ってきます。そのアゲハ蝶が産んだ卵が、やがてサナギとなり成虫となります。そうしてラストの一コマでアゲハ蝶の成虫がアップで描かれるのです。先日ちょうど花桃にとまるアゲハ蝶を撮影したばかりなので、その写真をアップして今回の記事を終わらせたいと思います♪