講演会「僕らはあの頃の未来に生きている」に登壇しました

 岐阜県博物館で7月28日から9月24日まで「夢虫!熱虫!懐かしの漫画・アニメコレクション 〜過去から未来への贈り物〜」が開催されています。
 愛知県犬山市在住の林真司さんが集めた手塚治虫キャラクターグッズ(主に虫プロ時代のもの)と、名古屋市在住の小池信純さんが集めた鉄腕アトムグッズがずらりと展示されています。(加えて、名古屋の渡辺淑人さんの手塚治虫作品映像コレクションも展示中)
 
 ・岐阜県博物館


 
 ・展覧会のポスター


 
 ・会場内の風景

 
 
 
 ・手塚キャラと一緒に藤子キャラのいるグッズもありました。


 この展覧会の関連イベントとしして、8月26日(日)に「僕らはあの頃の未来に生きている」という講演会が開催されました。会場は、同博物館内のけんぱくホールです。
 
 
 光栄なことに、私もパネリストとして登壇させていただきました。
 ふだん私は「コレクター」とは名乗っていないのですが、今回の肩書を「藤子不二雄グッズコレクター」としたのは、他の登壇者の皆様がコレクターさんでいらっしゃるので、その並びに合わせたほうが字面として美しいかな、と思ったからです。藤子キャラグッズを集めていることに間違いはないので、肩書詐欺にもなりませんし(笑)

 
 
 
 講演会では、
 自分らの少年時代に思い抱いていた未来像といま現在の世界、
 初めて出会った作品、
 自分たちのコレクションの流儀、
 などなど、手塚作品・藤子作品・プラモデルを題材に熱く楽しくマニアックに語り合いました。


 50年前に「週刊少年サンデー」で連載された藤子F先生の『21エモン』は、50年前の時点から未来の世界を描いた作品です。その未来の世界というのが、まさに今年(2018年)なのです。
 ですから私は、講演会のタイトル「僕らはあの頃の未来に生きている」をじつにじつにタイムリーに感じました。作中で描かれた未来の世界が今まさに到来し、その真っ只中にいるのです。しかも、連載50周年を記念して先月からてんとう虫コミックス新装版『21エモン』の刊行が始まっているのですから、そのタイムリー度に拍車がかかります。2018年というこの年のこの時期にこのテーマの講演会に参加できたなんて、なんと幸せな巡り合わせでしょう!


 というわけで、当然ながら講演会のなかでも『21エモン』を中心に語りました。それに加え、現在からおよそ50年後(2074年)が舞台の『みきおとミキオ』も紹介し、この2作品のなかでどんな未来が描かれているかを簡単にお話しました。気象のコントロール、合成食品の浸透と野菜を栽培する農場の廃止、国家間ではなく星間の交流、地震の予知と対処などです。
 
 藤子F先生の作品で「未来の世界」といえば、もちろん『ドラえもん』が圧倒的に有名です。講演会でも『ドラえもん』を例にして語ったほうがお客さんに親切だったかな…とも思いますが、ドラえもんは22世紀から現代へはるばるやってきた存在なので、今回の講演会では今世紀(21世紀)を主舞台にした『21エモン』と『みきおとミキオ』に重点を置いた次第です。
 藤子先生の初期作品『UTOPIA 最後の世界大戦』も未来を描いた藤子マンガとして重要だと思いますが、本作の主舞台は22世紀なのです。物語の幕開けは20××年ですが、メインの物語はその100年後の出来事なのです。
 時間的・精神的な余裕があれば、『ドラえもん』のひみつ道具のなかで現在実現したもの(おおむね実現、一部実現、ひみつ道具ほどすごくないけど機能としては実現など)について語ろうかなと思っていたのですが、なにぶん1時間の講演会で登壇者が5名だったもので、そんなにいろいろと話すことができず、話題を徹底的に絞り込む必要がありました。それで『21エモン』+『みきおとミキオ』をセレクトしたのです。


 『21エモン』と『みきおとミキオ』のほかに言及した藤子F作品は、近未来を舞台にした異色短編『定年退食』です。国家が国民を扶養する制度に対して定年が設けられる…。すなわち、ある年齢に達した国民は、国からの年金、医療、食糧配給などいっさいの保障が打ち切られる…。そんな近未来が真に迫って感じられます。
 それと、未来を舞台にした作品ではありませんが、藤子Ⓐ先生のブラックユーモア短編『明日は日曜日そしてまた明後日も……』も紹介しました。現在の用法での「ひきこもり」という語がまだ社会に流通していない時代にひきこもり青年を真正面から描いている、という意味で予言的な内容を持っているからです。未来の日本をあらかじめ言い当てているところがあるなあ、と感じるのです。
 ただし、未来予測が的中したから立派な作品で、予測を外していたらダメな作品…というわけではありません。純粋に読んで面白いからこそ優れた娯楽マンガなのであって、読者を楽しませることこそが娯楽マンガの本義なわけです。ですが、そんな娯楽作品の中に“未来予測の的中”という因子があったとすれば、それはそれで+αの評価(より楽しめる因子)にはなるし、そこにこだわって掘り下げてみるのもまた一興かなと思うのです。楽しみ方は自由かつ多様であったほうがいいなあというのが私の基本的なスタンスです。


 「初めて出会った藤子作品は?」という話題もありました。なにぶん幼児期のことで記憶はかなり曖昧です。ただ言えるのは、当時「よいこ」「幼稚園」などに載っていた『ドラえもん』『新オバケのQ太郎』『ジャングル黒べえ』が最初期に出会った作品群であるということです。なかでもいちばん早くに出会ったのは、たぶん『新オバQ』だと思います。なにしろ『新オバQ』は「幼稚園」「よいこ」ばかりか、もっと低年齢層が読む「めばえ」「ベビーブック」にも連載されていましたから、幼年期に遭遇しやすかったのです。(連載時、タイトルに『新』は付いてませんでした)
 『ドラえもん』『新オバケのQ太郎』『ジャングル黒べえ』が私の人生の最初期に読んだ藤子作品たちで、それらを無邪気に楽しんでいたわけですが、私のなかで藤子先生の作品が格段に特別化したのが「幼稚園」で読んだ『モッコロくん』です。それもあって、講演会では『モッコロくん』の話をけっこうしてしまいました(笑)登壇者と観客の10割近くが『モッコロくん』という作品を知らないにもかかわらず、ずいぶん思い入れを語ってしまった気がします。
 
 『モッコロくん』のエピソードのなかでも、アオムシを新幹線の色に塗る話、アメンボのように水上をスイスイ滑る話、カブトムシを大きくしてゾウの暴走を止めさせる話、バッタに乗る話などは、当時「幼稚園」誌で読んだことを憶えていて、私には特に思い出深いのエピソードです。


 このような貴重な機会を作ってくださった皆様、そして猛暑のなか会場まで足を運んでくださった皆様、ほんとうにありがとうございました♪


 そうして、講演会から2日後の8月28日(火)、てんとう虫コミックス新装版『21エモン』2巻が発売されました。
 
 
 
 この巻の帯でも作中の舞台が「2018年」であることがアピールされています。
 連載50周年記念でもありますし、『21エモン』は今年読み返す(あるいは初めて読む)ことがじつにタイムリーな作品なのです。
 
 『21エモン』2巻と一緒に写った本は、モンガーをはじめとした『21エモン』のキャラクターたちが表紙を飾った「週刊少年サンデー」1968年43号です。この号はオリンピック特集号でもあります。メキシコオリンピックの開催が間近に迫っていたのです。