一昨日に書いたとおり、藤子・F・不二雄先生のご命日(9/23)にてんとう虫コミックス『ドラえもん』30巻を読み返しました。
http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20180923
ご命日にどの作品を読むか迷ってしまい、結局「平成30年」にちなんで『ドラえもん』の30巻を選んだのです。例年は元号の数字にこだわることはないのですが、今年の場合は“平成最後のご命日”だったのでちょっと意識してみました。
今日は、『ドラえもん』30巻を読んだときの簡単な感想をメモします。とりあえず全話に触れています。
●「実物ミニチュア大百科」
「朝食というのは朝のごはん、昼食が昼ごはん、夕食が夜ごはん、じゃ、日食というのは一日じゅうたべてるの」とのび太独自の飛躍発想と論理展開が冒頭から炸裂して心をつかまれました。
●「人気スターがまっ黒け」
田之木彦彦、松木伊代、伊藤つばさ、早目優、真田ヒモ行と現実の芸能人名をもじった作中アイドル名が続々と出てきます。F先生のこうしたもじりネーミングは他の作品でもよく見られますが、この話では続々と出てくるところが楽しいです。
●「空き地のジョーズ」
ジャイアン・スネ夫がドラえもん・のび太を見て「バカが二人でバカなことしてる」と言います。この露骨で不躾な悪口がなかなかのインパクトを放っています。これに似たセリフがオチでも使われて実に効果的です。
●「フエール銀行」
『ドラえもん』をはじめF先生のマンガには『スター・ウォーズ』パロディが幾度も出てきます。この話もそのひとつ。SF映画『スペースウォーズ』のロケットのプラモデルが登場するのです。このプラモをのび太とスネ夫が欲しがります。
●「ねむりの天才のび太」
のび太がもしもボックスを使って、眠れば眠るほど偉い世界をつくります。もしもボックス関連の話はどれも傑作で、これも非常に面白い!
その世界では眠ることの得意なのび太が尊敬され、先生と呼ばれます。「正しい昼寝」なる教養番組が放送され、「ねむりは世界を救う!!」などと宣言されたうえ、この番組に出演したのび太が昼寝の模範演技を見せたら「0.93秒!! おそらく世界新記録でありましょう!!」と実況されます。オリンピック居眠り種目の日本代表として期待を集めたりも。
あげくのはてに「つまらないうらみは水に流し、手をとりあってねむりの道をきわめよう」「この平和が永久につづくよう祈ってぼくらもねむろうか」などと唱え出すのび太…。居眠り道の求道者か、居眠り教の教祖か、と思えるようなカリスマ的存在にまでのぼりつめるのです。このナンセンスなエスカレートっぷりが、まことにおかしくて好きなのです。
●「真夜中の電話魔」
ドラえもんが電話のダイヤルをまわすと、のび太が「ダンゴみたいな手でよくダイヤルできるね」といらんことを言うシーンが笑えます。ドラえもんの「うるさい!」という切り返しも絶妙。やはり名コンビです(笑)ダイヤル式の電話が非日常的なものになった現在の子どもたちにはなかなか通用しづらいギャグシーンでしょうけど…。
のび太は“物体電送アダプター”を使ってしずちゃんのスカートを(意図的ではないものの)2度ももぎ取ってしまいます。そのスカートを返すとき周囲に聞こえるような大声でしずちゃんを呼び止めます。「しずちゃん、ゆうべのスカート返す」だなんて大声で言われたらとんでもなく恥ずかしいですよね。しずちゃんは、1度目はドラえもんに、2度目はのび太にそれをやられて気の毒でした。
●「野生ペット小屋」
子ゾウのハナちゃんが手放しでかわいい!
この話の冒頭でしずちゃんがこんな話をしています。「カナリヤのピー子ちゃんがあんまりさわぐので、へやの中を調べてみたら……。なんと!ストーブのガス管がはずれていたの」。それを聞いたのび太は「あぶなかったなあ」、スネ夫は「気がつかなかったら、ガス中毒になるとこだったね」と反応。その場面を読んで、F先生のこんなエピソードを思い出しました。
(「少年画報」1968年3月号より)
このときF先生がご無事でほんとうによかった!
●「クロマキーでノビちゃんマン」
のび太が毎週楽しみにしてるテレビ番組が「ミケちゃんマン」。「タケちゃんマン」のパロディですね(笑) ノビちゃんマン対ヒトデ怪獣(ドラえもんが着ぐるみを着てる)の対決場面は、迫力と笑いの両方が感じられて強く印象に残ります。
●「ジャイアンテレビにでる!」
ジャイアン主演のワンマンショー番組が深夜に放送されちゃいます。番組のタイトルは「ジャイアンビッグヒットショー」!視聴した人はほとんどいなかったはずですが、不幸にもそれを見てしまった人が…。
●「ホンワカキャップ」
子どもがお酒に酔っ払ったみたいになるお話です。酔ってイイ気持ちになったのび太が歌ったのが「炭坑節」…。子どもなのに大人の酔っ払いがやってることと同じなのが妙に愉快です。私は酔っ払いが「炭坑節」を歌っているところに居合わせたことはありませんが、昭和のある時期には、酔っ払いが「炭坑節」を歌う姿というのは一種のステロタイプだったような気がします。
スネ夫のコーラぐせの悪さがすごいのです。怖いほどの無敵状態!あのジャイアンに向かって「おまえなんか町の公害だぞ!!バーロー!!」と言い放つなんて…。一方、ジャイアンは泣き上戸なんですよね(笑) 二人が酔いから醒めたらスネ夫が半殺しにされる未来が想像されてホントに恐ろしい…。
●「ひさしぶりトランク」
しずちゃんの幼いころ、源家の隣に住んでいたケンちゃんなる高校生が登場!この話限定で、出木杉張りにのび太のライバルになります。
●「へやこうかんスイッチ」
身体を洗っている真っ最中のしずちゃんがいる浴室と、のび太の部屋を交換する場面があります。人間は交換されないので、裸で体を洗ってるしずちゃんがそのままの姿でのび太の部屋にいる…というシュールな光景が出現(笑)
「スター訪問」というテレビ番組が放送され、リポーターが伊藤つばさの部屋を訪問するのですが…。
●「することレンズ」
“ドジバン”というひみつ道具が無性に心をくすぐってくれます。これを貼れば何をしても失敗する、というひみつ道具ですが、見た目が単なる平凡な絆創膏というところが日常感満載で好ましいのです。そして、これを貼られた男性が悪いことをしようとするたびに善いことをしてしまうのがまたいいですね。何をしても失敗する道具を使って悪い行動をくりかえし失敗させ、結果的に善い行いばかりさせるという、その逆転の発想のような使い道が好ましいのです。
●「お子さまハンググライダー」
ドラえもんは時々、自分のポケットから出したひみつ道具について科学的知識や理屈で説明することがあります。この話では“お子さまハンググライダー”を出して「これこそは二十二世紀の航空力学による、最小の翼面積で最大の浮力をえるという……」と説明。それを聞いたのび太がまるで理解できないのもお決まりのパターンです(笑)
●「昔はよかった」
のび太が昔(江戸時代?)の農家で不便な生活を体験する話。全20ページあるので、昔の生活がけっこう丁寧に描かれます。
●「ハツメイカーで大発明」
のび太と喧嘩して怒ったドラえもんが未来へ帰ってしまい、代わりにドラミちゃんが登場。
“ハツメイカー”で発明した不思議な道具が数個登場するのですが、最初に出てくる“ゴキブリぼう”は、ゴキブリの頭部を模した帽子です。ゴキブリのようにすばやく逃げる能力を得られるものの、ゴキブリのコスプレ状態になってしまって微妙にありがたくないのです(笑)
“ドラえもんとなかなおり機”のアナログ感も面白い。一本の手を取り付けたランドセルと、玉ネギのみじん切りのセットです。のび太がそのランドセルを背負って玉ネギのみじん切りを入れた容器を持つと、ランドセルに付いた手がのび太の頭を強引に押します。するとのび太の顔が玉ネギにどっぷりつかり、涙がポロポロとこぼれだします。その泣き顔でただひたすらドラえもんに謝るという(笑) 「けっきょくないてあやまるしかないのか」というセリフが効いてます。
クライマックスは、どんな強いいじめっ子でもやっつけられる道具と、どんな強い相手でもいじめられる道具の対決!矛と盾の売人が「この矛はどんな固い盾をも突き通すことができ、この盾はどんな矛でも突き通すことができない」と誇り、それを聞いた人が「それではお前の矛でお前の盾を突けばどうなるか」と尋ねると、売人は答えに窮した…という中国の故事が想起されます。
「人気スターがまっ黒け」「ねむりの天才のび太」「ジャイアンテレビにでる!」の3つの話に「あけぼのTV」という架空のテレビ局が出てきます。なので30巻はさながらあけぼのTV祭りの様相です(笑) ほかの話でも「ミケちゃんマン」とか「スター訪問」といったテレビ番組が描かれますし、「お子さまハンググライダー」はテレビを観ている場面から話が始まります。そんなわけで30巻はテレビネタが多いなあ、という印象です。
ちなみに「あけぼのTV」は、『ドラえもん』をはじめ数々の藤子アニメを放映してきた「テレビ朝日」のパロディです♪