頭木弘樹さんが編んだアンソロジー『絶望書店』にF先生の『パラレル同窓会』収録

 頭木弘樹さんの編著書『絶望書店 夢をあきらめた9人が出会った物語』が1月23日に刊行されました。

 

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 「夢のあきらめ方」にまつわる作品を集めたアンソロジーです。山田太一さんのエッセイ、ベートーヴェンの手紙、ホーソンの小説などとともに、藤子・F・不二雄先生の短編『パラレル同窓会』が収録されています。

  ナサニエルホーソン(アメリカ)の『人生に隠された秘密の一ページ』は、とんでもない幸運や不幸が目の前まで来ていたのに本人はひたすら気づかぬまま…というお話。面白く読めました。ダーチャ・マライーニ(イタリア) の『マクベス夫人の血塗られた両手』は、その行為が芸術の徹底的な追求なのかハラスメントなのか…という現代的な問題を扱っています。

 

 藤子F先生の『パラレル同窓会』は、1979年に「ビッグゴールド」(11/5号)で発表されたのですが、当時の私はまだ小学生でして、初出誌では読めず、藤子不二雄公認ファンクラブの会誌「月刊UTOPIA」7号(1983年発行)の再録で初めて読みました。

 

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 公認FCらしく、藤子先生が『パラレル同窓会』に解説的な文章を寄せておられるのが嬉しいところ♪

 『パラレル同窓会』は、自分一人の人生なのに、選択の余地のある局面ごとに可能性の数だけ世界が枝分かれして、無数の自分の人生が併存している…というパラレルワールドものです。各パラレルワールドの自分が一堂に会し、他の世界の自分と人生を取り換える機会を与えられる…というアイデアに初読時の私は驚嘆しました。そして、ラストに漂う哀感……。自分同士であっても隣の芝は青く見えるし、青く見える場所を選んでみたら青いばかりではなかった…という、にべもない現実を突きつけられます。

 

 余談ですが、私が“単行本未収録”という概念を知ったのは、この公認FC「UTOPIA」に入会したことによってでした。1980年代前半、中学生のころです。 なんといいますか、カルチャーショックでした(笑)

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 当時は単行本未収録という響きに新鮮な驚きと大いなる胸の高鳴りをおぼえたものですし、大人になってもそのときめき感覚は持続しました。単行本未収録作品=お宝…という感覚も芽生えました。

 そんな単行本未収録作品に対して抱くお宝感覚は、未収録だった作品が単行本化された時点で失われるという、一種のはかなさも併せ持っています。むろん未収録作品が単行本化されるのはよいことです。よいことが起きると同時にお宝感が減じる……。その機微もまた味わい深いものがあるのです(笑)