『ジュラシック・パーク』と藤子・F・不二雄

 8月7日に映画『のび太の新恐竜』が公開されて劇場で4回鑑賞した私は、4回ともおおいに感動しました。

 その記念に、先日、恐竜映画の元祖と言われる『ロスト・ワールド』を再鑑賞し、原作小説のほうも再読しました。

 

■映画『ロスト・ワールド』を観る

https://koikesan.hatenablog.com/entry/2020/09/16/195855

 

■小説『失われた世界(ロスト・ワールド)』を読む

https://koikesan.hatenablog.com/entry/2020/09/17/195918

 

 その勢いで、今回は恐竜映画の金字塔『ジュラシック・パーク』シリーズ5作をまとめて再鑑賞することにしました。

 

ジュラシック・パーク』(1993)

ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997)

ジュラシック・パーク III』(2001)

ジュラシック・ワールド』(2015)

ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018)

 

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・『ジュラシック・パーク』シリーズのパンフレット(第5作目のものだけ持っていませんが…)

 

 5作とも好きな映画ですが、やはり第1作が私にとっては圧倒的に最高です。第1作を初めて観たときの、「恐竜が生きてる!動いてる!」という衝撃と感動は忘れられません。

 何千万年も前にこの地球上からいなくなった恐竜たち。太古の昔にこの世界から失われた恐竜たち。あんな巨大な動物が地球上を支配し闊歩していた時代があったんだ!と魅惑的な驚きを与えてくれた恐竜たち。

 そんな恐竜たちがリアルに生きている姿をこの目でまさに目撃できたような、歓喜と驚異に満ちた衝撃を、第1作を観て感じたのです。

 そういう掛け替えのないすばらしい映像体験ができたことから、私が洋画ベスト1を選ぶとしたら、この第1作目の『ジュラシック・パーク』となります。

 フィクションで描かれる恐竜の生態や姿は、この映画の以前と以後で革命的に変わったのではないでしょうか。それほどの影響力をもった映画だとも思います。

 

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 2作目はタイトルに“ロスト・ワールド”という語を入れています。そこには、映画『ロスト・ワールド』(1925年公開)へのオマージュが強く込められています。

 とくに、ストーリーの終盤でティラノサウルスがサンディエゴに連れてこられて大暴れするところに最大級のオマージュを感じます。1925年版『ロスト・ワールド』ではブロントザウルスがロンドンへ連れてこられるのです。

 『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』も、『ロスト・ワールド』も、ストーリーの終盤で大きな恐竜が先進国の都市へ連れてこられ、そのシーンがクライマックスとなる…という大きな共通点をもっているわけです。

 ティラノサウルスがサンディエゴで、ブロントザウルスがロンドンで大暴れするシーンは、“太古の恐竜×現代の都市”という、本来ありえない対極的な組み合わせに目を奪われます。

 

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・映画『ロスト・ワールド』のDVD。いっしょに写っている恐竜フィギュアは、アパトサウルスです。かつてブロントザウルス(ブロントサウルス)と呼ばれていた恐竜は実はアパトサウルスと同種である、と認定され、名称もアパトサウルスに統一されてしまいました。

 

 『ジュラシック・パーク』が公開される前から、ティラノサウルスブラキオサウルストリケラトプスなどは私のなかですでにスター恐竜でした。そんななか、『ジュラシック・パーク』で一躍スター化した恐竜がヴェロキラプトルです。

 1作目ではただただ恐ろしかったヴェロキラプトルも、3~4作目あたりまで来ると、怖いながらもどこか親しみを感じる対象になっていきました。

  3作目に出てきたヴェロキラプトルは、声を使って高度なコミュニケーションをとっていましたし、人間から卵を返してもらったらその後は人間を襲わずその場から去っていくなんてこともあって、ただ怖いだけじゃない、人間味のようなものを匂わせてくれました。

  そして4作目では、人間に訓練を受けたヴェロキラプトルが登場。遺伝子組み換えで生まれた凶暴な巨大肉食恐竜インドミナスと戦って、ヒーロー的なかっこよさすら感じさせてくれました。

 

 そんなわけでヴェロキラプトルへ好意を抱いた私は、こんなフィギュアまで入手しました。

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  これは、2001年に発売された「ジュラシック・パークIII スペシャルフィギュアコレクション」シリーズのヴェロキ・ラプトル(メス)です。ローソンのコカ・コーラ社製品に付いていました。

 

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ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018年)公開時にプライズ品として流通したヴェロキラプトル・ BLUEのプレミアムフィギュアです♪ 皮膚とか口の中とか細かく作りこんであって迫力を感じます。

 

 

 藤子・F・不二雄先生は大の恐竜好きで、『のび太の恐竜』をはじめ恐竜を題材にした作品をいくつも描いています。『ドラえもん』連載開始50周年、映画ドラえもん40作目という大きな節目の年である本年に公開された映画ドラが『のび太の新恐竜』だったのは、恐竜好きだった藤子F先生への敬意の表明であり、映画ドラの第1作が『のび太の恐竜』だったことを意識したものであったはずです。

 

 恐竜好きで映画好きだった藤子F先生は、1作目の『ジュラシック・パーク』をご覧になっています。

 『ジュラシック・パーク』の公開は1993年で、藤子F先生は1996年に亡くなられました。

 

 そのことに関して、以前Twitterで『ケロロ軍曹』の作者・吉崎観音先生がこんなツイートをされていました。

 

「藤子F先生はジュラシックパーク観たのかな。喜んだのかな。」とずっと気になっていたことをむぎわら先生におしえてもらえました。「観て、喜んで、影響されまくりでしたよw」ホントによかった!(2010年11月27日 吉崎観音twitter

 

 短い文面ですが、『ジュラシック・パーク』をご覧になった藤子F先生の感激と興奮がどれほど大きかったか想像できます。

 

 『ジュラシック・パーク』をご覧になった影響でしょう、藤子F先生は『ジュラシック・パーク』以後に描かれた作品の一つ『のび太と銀河超特急』(1995~96年)にヴェロキラプトルを登場させています。

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 ちゃんと確認したわけじゃありませんが、『ジュラシック・パーク』以前の藤子Fマンガにはヴェロキラプトルは出てこなかったと思います。(もし出てきていたらご教示ください)

 

 藤子F先生が『ジュラシック・パーク』に触れたときの感動の大きさは、原作小説の帯に先生が寄せられたコメントからもうかがえます。

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 藤子F先生は「生きて動く恐竜を一目でも……という夢が、半ばかなった思いです」と書かれています。

 そのコメントを読んで思い出したのが、のび太が「おばあちゃんのおもいで」で過去へ行っておばあちゃんを見たときに発したセリフです。

 

「生きてる。歩いてる!」

 

 藤子F先生が『ジュラシック・パーク』に触れたときの感動は、そんなのび太の感動と同質のものだったのではないでしょうか。

 

 藤子F先生が帯に寄せたこのコメントは原作小説を読んだ感想と思われますが、映画版『ジュラシック・パーク』をご覧になったときは「生きて動く恐竜を一目でも……という夢が、半ばかなった思い」をますます強く本格的に抱かれたことでしょう。あのリアルな恐竜の映像には、藤子F先生の心にそういう絶大な感動をもたらすだけのすごさがあったと思います。

 

 先ほど紹介した『のび太と銀河超特急』のヴェロキラプトルは、ドリーマーズランドの“中生代の星”に棲んでいます。“中生代の星”は、たくさんのいろいろな恐竜たちが広大な敷地内で野生のままに棲息するテーマパークです。

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 ・てんとう虫コミックス大長編ドラえもんVOL.16 のび太と銀河超特急』(藤子・F・不二雄小学館、1996年発行)115ページより引用

 

 ご覧のように、“中生代の星”には、森林、平原、山、川、湖、海などが再現され、そこにジュラ紀白亜紀に生きていた恐竜たち(実は本物そっくりロボット)が放し飼いにされています。

  この“中生代の星”の描写にも『ジュラシック・パーク』の影響を感じます。

 

 “ジュラシック・パーク”というのは、本物の生きた恐竜を体験できる驚異のテーマパークです。

 いま私は『ジュラシック・パーク』の影響で藤子F先生が“中生代の星”を描いた、なんてことを言ったばかりですが、実のところ、F先生は『ジュラシック・パーク』(原作小説は1990年出版)よりもずいぶん前に、リアルな恐竜体験のできるテーマパークを描いておられます。

 1970年に発表された『モジャ公』の「恐竜の星」です。

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モジャ公』の「恐竜の星」は、ティラノサウルスのような巨大な肉食恐竜(実はロボット)が人に襲いかかってくるレジャーランド“恐竜狩りゲームセンター”を描いています。肉食恐竜に食われると盛大に血しぶきが飛び散る……そんな残酷描写がかなりショッキングです。

ジュラシック・パーク』よりはるか前にこうした恐竜体験テーマパークを構想されていたのですから、さすがは藤子F先生です。

のび太と銀河超特急』で描かれた“中生代の星”は、この“恐竜狩りゲームセンター”の発展型であり、“恐竜狩りゲームセンター”に“ジュラシック・パーク”要素を加味したものと言えそうです。

 

 

ジュラシック・パーク』以前に描かれた藤子Fマンガで、“ジュラシック・パーク”的なアイデアの見られる作品として、ほかに『ドラえもん』の「恐竜が出た!?」が思い当たります。初出は1979年、てんとう虫コミックス21巻などに収録されています。

「恐竜が出た!?」に、未来の恐竜展のプログラム(図録のような冊子)が登場します。このプログラムをポンと叩くと、なかから本物のように動くミニチュアサイズの恐竜が出てきます。

 のび太は、プログラムからいろいろな種類の恐竜を出します。そして、背景を描いた紙をつないで囲いをこしらえ、その囲いのなかに、小さいけれど本物そっくりなその恐竜たちを放します。

 それは、のび太の言葉を借りれば「大昔の動物園」です。恐竜の動物園と言い換えてもいいでしょう。

 そのアイデアは、まさに“ジュラシック・パーク”を先取りしたものではないでしょうか。

 さすがは藤子F先生!と感嘆せざるをえません。